15歳でデビュー。
大好きだった高校を退学することに

――もともと引っ込み思案だったという原田さんが、芸能界に入ったきっかけは、中学時代に夢中になった映画「小さな恋のメロディ」でした。映画を見た翌年、出演していた俳優マーク・レスターの「相手役募集」という新聞広告を見て、思い切って応募。最終選考で落ちたものの、芸能事務所に所属することになったのです。

映画「大地の子守歌」の撮影にて（原田さん提供）

いつからか私は心の扉をぱったりと閉ざし、ごく少数の自分を傷つけない人とだけ口をきき、他の人はみな敵のように見えて、「いっそ死んでしまいたい」と思い詰めたこともありました。「死にたい」といっても、具体的に行動したわけではないけれど、自分ではどうすることもできない思いを抱えていました。

心が落ち込んでいた19歳の頃、勝新太郎さんのテレビシリーズ「新・座頭市」にゲスト出演することになりました。「冬の海」という回で、私はわずかひと月の命でありながら座頭市と共に暮らす絵描きの少女の役。それがすごくいい作品になったんですね。

俳優としてだけでなく、演出家としての勝さんもとても豪快で「こんなふうに映像を作る人もいるんだ。なんて面白い人だろう」とびっくりして、暗く落ち込んでいた心が救われた気がしました。その後も、黒澤明監督をはじめ尊敬できる人、面白い作品との出会いがあり、またがんばろうと思えたんです。そういう意味では、運が強いというか、縁に恵まれていたと思いますね。

傲慢だった私が子どもを産み、
少しずつ謙虚に変わっていった

――原田さんが本当の意味で命の重さを知り、考え方が変わっていったのは、29歳で最初の子どもを出産したときでした。

生まれてきた赤ちゃんを初めて見たとき、この子を誰がつくったんだろうと思いました。確かに産んだのは私なんだけど、私は細胞の一つもつくれないし、心臓を動かしたわけでもない。ただ、私は食べて寝ていただけなのにと、強い衝撃を受けたんです。

自分を超えた大きな力によって、今この子が生まれてきたんだ、そして自分の命もまた大きな力によって生み出されたものなんだと実感したことは、私にとって劇的な意識転換でした。それまでの私は、いつも「自分、自分」だったんです。自分の命は自分のもので、自分の心臓は自分で動かしていると思っているくらい傲慢な人間だったのが、ものすごく謙虚な気持ちになりました。

大きな力の存在を知ったことで、私は我を立てず、おおらかにいることを学びました。そうはいっても、仕事を再開すると、また不安やいらだちが出てきて心は揺らぎましたが、人に対しても、自分の欲求に対しても少しずつ謙虚になっていった気がします。

こうして変化しつつあった私の生き方を、さらに大きく変えることになったのが、突然の松田優作さんの死だったのです。

――不意打ちのような俳優・松田優作さんの死は、原田美枝子さんにとってショッキングな出来事でした。そんな中、悲しみと喪失感を抱えていた原田さんに、人生を劇的に変える出合いが訪れます。