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- 1日だけ他国の領土となった英国名門ホテルの1室
クイズや歴史が好きな伊東ちゃいこです。クイズの魅力に、未知の知識との遭遇がありますが、時には知識とは別次元の「ちょっといい話」との出合いもあり、私はそちらにも趣を感じています。今回は、クイズで出題されて感銘を受けた歴史の裏話をお届けします。
英国名門ホテルで亡命生活
問題:1945年7月17日の1日限定で、ロンドンのクラリッジス・ホテルの212号室が他国に割譲されました。どこの国の領土になったでしょう?
1940年代前半、欧州は第二次世界大戦の最中にあり、ロンドンには各国の王族が亡命していました。ユーゴスラビア王国のペータル2世もその1人で、問題文に登場するホテルに長期にわたり滞在していました。
ロンドン滞在中、国王はギリシャ王女と結婚し、ほどなく后は初子を身ごもります。
なぜ1日だけ他国の領土に?
しかし、同王国の法律では「王位継承者は自国内で生まれた王子のみ」とされているため、このままでは正当な世継ぎとして承認されないことになります。
そこで一計を講じたのが、時の首相ウィンストン・チャーチル。
なんとイギリス政府は、出産日限定でスイートルーム「212号室」をユーゴスラビア王国の領土として割譲することにしたのです(答え:ユーゴスラビア王国)。
こうして晴れて「母国の地」で生まれたのが、アレクサンダル王子。同年11月ユーゴスラビア王国は消滅しますが、王子は王制廃止後の現在も「王太子」の称号で呼ばれているそうです。
余談ですが、この度のエリザベス女王国葬に際し日本の両陛下が宿泊されたのも同ホテルでした。
お次は、舞台を欧州からアジアに移します。
エルトゥールル号遭難事件
1890年9月16日の台風の夜、オスマン帝国の軍艦エルトゥールル号が和歌山の紀伊大島沖で沈没する海難事故が生じました。
犠牲者数が500名を超える大惨事でしたが、それでも島民総出で救出や救護に当たったことで69名が助かり、彼らは日本海軍の軍艦でイスタンブールに無事帰還を果たします。
悪天候の中、生存者の救助に加えて殉難者の遺体捜索や引き上げに尽力し、また、なけなしの貴重な食料や衣類を生存者のために提供した島民たちの献身には心打たれますが、さらにグッとくるのが、一世紀の時を経て起きた出来事です。
戦場から脱出できるか?
イラン・イラク戦争最中の1985年3月、両国間でミサイル攻撃が激化し、イラクは突如「48時間後からイラン上空を飛ぶ航空機に対し無差別攻撃をする」と宣言。
在イラン邦人の救出が急がれる中、日本から現地に飛ぶ救援機の目途は立たず、期限直前になっても未だ200名超の日本人がイランの空港に取り残されていました。
95年後の恩返し
危機的状況に陥っていたその時です。
「エルトゥールル号遭難の際に受けた恩義に対し、ご恩返しをさせていただきましょう」。
イランに残る自国民救出のための最終便を飛ばす予定でいたトルコ政府が、日本人のためにもう一機特別機を派遣してくれたのです。
それだけでなく、到着した救援機に乗ろうと詰めかける自国民に対し、日本人救出の意向を伝え、搭乗できない自国民には陸路での国境越えを求めました。この要求に、かつての海難事故のことを教科書などで知っていた彼らは同意をしたといいます。
こうしてトルコ機最終便に分乗し、日本人がイランを脱出できたのは、実にタイムリミット約1時間前のことでした。
駐日トルコ大使が後に語った言葉です。「私たちはエルトゥールル号の借りを返しただけです」。
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