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- 柳家あお馬独演会~父との想い出に出会う~
一年ぶりに、巣鴨のスタジオフォーに行きました。昨年(2020年)の今日も、ここであお馬さんの独演会があり、最前列で見せていただきましたが、今日は満席。後方からの観覧となりました。観客が多いと、演者さんはもちろん、観る方もうれしいものです。
柳家あお馬さん独演会
「出来心」
まずは、ドジな泥棒が主人公の滑稽噺です。これは別名「花色木綿」ともいいます。笑っているうちに、噺の中にどんどん引き込まれていきました。
「大工調べ」
大工の与太郎が、家賃を滞納したため、大家に道具箱を取り上げられたことから、騒動が起こります。棟梁の、威勢のいい啖呵が聞かせどころです。声も、滑舌もいいし、テンポもよくて、お見事でした。その後、大岡越前が登場、長い噺ですので、集中力が途切れがちですが、畳み込むように語り掛けて、聞き手の心を離しませんでした。
「夢金」
お仲入りの後は、照明を落としての演出で、亡くなられた川柳師匠の話が始まりました。楽しいエピソードに笑っていると、突然「百両欲しい~」「あっ、夢金」
途端に、電流が走りました。これは、亡き父との想い出の噺なのです。
深夜、降り積もる雪の中を、船頭が船を漕ぎ出します。
「箱根山、駕籠(かご)に乗る人、担ぐ人、そのまた草鞋(わらじ)を作る人、捨てた草鞋を拾う人」名ゼリフです。この言葉、父がよく言っていました。世の中は、いろいろな役割の人で成り立っている。みんなが駕籠に乗りたがったら、立ち行かなくなる。上を見ても、下を見てもきりがないと……。
数年前、雑誌『ハルメク』に、私を支える言葉として、このフレーズをお伝えしたら、掲載されました。そんな思いを巡らせているうちに、クライマックスへ。欲深い船頭が、客から良からぬ相談を持ち掛けられます。
欲深き、人の心と降る雪は、積もるにつけて、道を忘るる。
名ゼリフがまた飛び出し、物語は吹雪の中のサスペンスと化します。笑いは少なく、じっくり聞かせる噺ですが、名言が心に響きます。やがて船頭の機転で、侍を中州へ降ろし、そこからサゲまではテンポアップ。
船宿の主人の「静かにしろ」のセリフの後の、あお馬さんの笑顔に、盛大な拍手が沸き起こりました。そして、どこからともなく、ため息が漏れました。みなさん、息をつめて聴き入っていたのでしょう。思いがけず、父との想い出と出会えて、不覚にも私は涙が滲んでしまいました。
落語の神に選ばれた人
まずは泥棒噺で場を温め、2席目は滑舌や声の良さで、立て板に水の如くその技量を魅せつけ、最後はじっくり聴かせるという構成力、素晴らしい独演会でした。
2019年に二ツ目に昇進。このキャリアでこれだけの事をやってのける噺家は、そうはいません。横浜にぎわい座で、初めて聞かせていただいた時から、並々ならぬ才能を感じていましたが、やはりあお馬さんは落語の神様に選ばれた人なのだと確信しました。
終演後、一人一人写真を撮っていただき、大満足で帰路につきました。
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