落語自由自在(51)

柳家小三治師匠の訃報に接し

公開日:2021.11.04

人間国宝、十代目柳家小三治師匠のことをお伝えしようと思っていた矢先、訃報が届きました。10月7日、81歳、突然の別れでした。9月25日にテレビ東京「新・美の巨人たち」で、元気なお姿を目にしていただけに、まだ信じられない気持ちでいっぱいです。

落語家で人間国宝の柳家小三治(やなぎや・こさんじ)師匠

小三治師匠といえば、1991年秋に「噺家カミサン繁盛記」というテレビドラマがありました。梨本謙次郎さんが小三治役、そのおかみさんを、清水由紀子さんが演じられました。いわば、フジテレビ系列の朝ドラで、月曜から金曜の昼間(9:55~10:25)30回にわたって放映されました。

二つ目昇進から、やがて結婚、そしてお弟子さんたちとのエピソードが描かれていて、今も心に残っています。

他のキャストとして、小さん師匠は、古今亭志ん朝師匠。そのおかみさんは、野際陽子さんでした。あっ、梨本さん以外、みなさん亡くなられてしまいましたね。

30年経ってしまったので、仕方のないことですね。そして、小三治師匠も、逝ってしまわれました。

師匠は「マクラの小三治」といわれていますので、演目の導入部にあたる話がとても面白く、マクラ20分で、肝心の演目は10分で終わるということも、よくありました。

今日の演目は何かしら? というより、マクラでは何を話すのかしら? と気になったものです。私は、数ある演目の中では「かんしゃく」が特に好きです。これは、明治か大正時代に作られた噺だそうです。

「かんしゃく」

ある夏の夕暮れ、運転手付きの車で帰宅する社長さん。奥さんや書生や使用人たちが、当然出迎えてくれると思いきや、誰も出てきません。社長は怒り心頭、家の中を点検しだし、なにもかもが気に入らないとかんしゃくを起こします。

そのあまりの怒りように、奥様は耐えきれず、実家へ帰ってしまいます。実家で迎える父と母、この先、一体どうなるのかとハラハラしますが、父は娘に知恵を授けます。そして、すぐに帰るようにと諭すのです。

自分も一緒に付いて行きたいが、それではあちらの顔が立たないからと、使用人を付けて帰します。娘を見送る父の表情に、うっすらと涙が滲んでいます。止める母をもなだめ「これで良いのだ」と、まるで自分に言い聞かせるように繰り返す父。

観客は戦前の良質な映画を見ているような気持ちになり、やがて爽やかな感動に包まれます。私はこの「かんしゃく」が一押しです。

「たまたま出会った人だけが迷い込み、この落語という桃源郷にぶつかるんです」小三治師匠の名言です。

今、YouTubeで師匠の落語を観ることができます。この「かんしゃく」をはじめ、「粗忽長屋」「小言念仏」「二番煎じ」などたくさんありますので、観賞してみてはいかがでしょうか。桃源郷にたどりつけると思います。

 

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さいとうひろこ

趣味は落語鑑賞・読書・刺しゅう・気功・ロングブレス・テレビ体操。健康は食事からがモットーで、AGEフードコーディネーターと薬膳コーディネーターの資格を取得。人生健康サロンとヘルスアカデミーのメンバーとなり現在も学んでいます。人生100年時代を健康に過ごす方法と読書や落語の楽しみ方をご案内します。

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