50代・リタイア生活の前に考えておくこと#1
退職は人生の損失?すぐ始めたい「リタイア後にがっかりしない」ための準備
退職は人生の損失?すぐ始めたい「リタイア後にがっかりしない」ための準備
更新日:2025年11月03日
公開日:2025年09月21日
老後に必要なものは日本もアメリカも変わらない

気づけばリタイアが「遠い未来のこと」ではなくなってきた――。50代になると、多くの人がそんな実感を抱きます。そして老後に必要なのは、安心できるお金の準備と、もう一つ、“生きがい”。これは日本でもアメリカでも変わらない共通の課題です。
経済学博士で大学教授のマイケル・フィンケさんは、「リタイアした人は何に幸せを感じるのか」というテーマで講演を行いました。データを交えつつ高齢者の喜びを紹介し、親や親戚の体験を生き生きと語る姿から伝わってきたのは、“生きがいこそ老後の幸せを決める”という信念でした。
もちろん、毎日お金の心配をしなくてすむ備えも欠かせません。けれど彼が本当に知りたいのは、誰と交流し、どんな目標を持ち、どんな人生を歩むのか――。老後の準備とは、数字ではなく“人生そのもの”を問い直すことなのです。
今回は、書籍『How to Retire お金を使いきる、リタイア生活のすすめ』(KADOKAWA刊)から、フィンケさんと、投資調査会社モーニングスターの資産管理ディレクターであるクリスティン・ベンツさんの対話から、50代の私たちに役立つヒントをご紹介します。
【読みどころ】
- リタイア後の幸せに欠かせない“生きがい”の条件
- 毎日の生活を充実させる“小さな喜び”の見つけ方
- 定年後も喜びを持続させる、自分らしい働き方のコツ
経済学の博士がお金より「生きがい」を追求する理由
クリスティン・ベンツ(以下クリスティン):あなたは「老後に使える金額ばかり計算していないで、日々の暮らしでやりたいことを、もっと具体的に考えるべきだ」と考えておられる。その理由を聞かせていただけますか?
マイケル・フィンケ(以下マイケル):これまでは「退職=待ち遠しいもの」「こつこつ積みあげてきた資産を使って、ようやく人生を楽しむんだ」というイメージがあったでしょう? だからみんな金銭面の心配ばかりする。
経済的に余裕があって、金の心配がなければ幸せになれると信じている。もちろん、自由で豊かな老後を送るには、蓄えは欠かせません。一方で完全に仕事をやめるなら、ぽっかり空いた時間を充実させる方法も学ばなくてはいけません。そして、これがなかなか難しいのです。
今から始めたい“リタイア後にがっかりしない”ための習慣
マイケル:新型コロナウィルス感染症の世界的流行から得た教訓の一つに、「日々の生活にメリハリがないと、時間はあっという間に過ぎる」というものがあります。
考えてみてください。今この瞬間、リタイアしたらやりたいことを10個あげられますか? 目的を達成するために必要なものは何ですか? 毎日をどんなふうに過ごすつもりですか?
クリスティン:せっかく働くことから解放されたのだから、少しはのんびりしたい気もしますが……。
マイケル:老後の目的が、ただのんびりすることだったとして、あなたはのんびりするのが上手ですか? 私は苦手です。休暇は好きだけど、ある程度休んだら仕事に戻りたくなってしまう。あなたも同じタイプなら、早々にのんびり過ごすだけでは満足できなくなるでしょう。
実際、これはよくある話なのです。リタイアしたあと「毎日、何をしたらいいかわからない」とぼやく人は大勢います。時間の使い方に制約がないというのは、むしろ障害なのです。自分を律することが得意な人ばかりではありませんからね。
クリスティン:退職したらやりたいことが、ずらりと並んだリストをつくるような人の場合はいかがでしょう? 例えば、船でヨーロッパを巡るとか、家族とリゾートへ行くとか。
マイケル:それが一時的な目標のリストなら、実現しても期待したほどの達成感は得られないと思いますよ。老後の生活を真に充実させるには、やりたいことリストをつくるより、「こんな日常を送りたい」という具体的なイメージを持つほうが役立つと思います。
自分を本当に幸せにするものが何なのか、これは難しい問いです。やっと見つけたと思っても、大抵の場合は期待外れに終わる。「これさえ達成できれば幸せになれる」と思ったことが、退職後の現実と噛み合わないことは珍しくありません。
だから、リタイアしたらどんな生活を送りたいかよく考えて、早いうちからそれを習慣化してください。できることは今すぐ日常に取り入れましょう。早い段階で習慣化してしまえば、リタイアしてから「期待していたのと違った」とがっかりすることもないでしょう。
退職は人生の損失?リタイア後も働き続けるという選択
クリスティン:退職後も働くという選択肢はありだと思いますか? 仕事をすれば日常にメリハリがつくし、人間関係も保てるし、活動的でいられるでしょう?
マイケル:現代社会では一定の年齢になったら仕事を辞めるというのが通念になっていますが、完全に仕事を辞める必要などありません。
退職者の集まりに行くと、「現役時代は仕事がいやで仕方なかった」という人が一定数います。「もっと早く辞めればよかった。今のほうがずっと気分よく過ごしている」と。そういう人たちはずっと我慢して仕事をしていたわけです。だから仕事を辞めて、以前よりもずっと幸せになった。
これとは反対に、仕事を楽しんでいた人もたくさんいます。自分のしたいことを比較的自由に選べたり、身につけたスキルに見合う報酬を手にしたりと、仕事を通じて社会的地位を得ていた人たちです。
社会的に評価されると、セロトニンの分泌が活発になります。しかし、これは仕事を辞めると分泌されなくなります。
「仕事を辞めて、他者から敬意を払われなくなった。どうすればまた以前のような扱いをしてもらえるでしょう?」という質問を受けることも多いのですが、何かの専門家として活動しているのでなければ、前と同じ扱いを望むのは難しいでしょうね。例えば趣味のゴルフで同レベルの評価を得るのは無理でしょう?
退職と同時に、仕事を通じて得ていた、社会的地位や目的意識は失われます。同時に、敬意を払われる機会も失われてしまう。これは、人生における大きな損失です。
定年後も楽しみながら働くには?
マイケル: また、年をとるにつれて身体的能力や認知機能が衰えることはあらゆるデータで証明されています。40代や30代でこなせた仕事が60代になると難しくなり、70代になるとなおさら困難になります。これには反論もありますが、一般的には正しいと思います。
クリスティン:つまり仕事を続けるにしても、加齢にともなう変化に沿うよう、業務内容を調整しないといけないですね。
マイケル:そうです。知り合いに、とてもうまくやっている人がいますよ。私立のオンライン大学でアシスタントをしている元エンジニアの男性で、退職所得計画アドバイザー養成コースを受講する学生の相談役を務めてもらっています。
おそらく確定給付型年金を受給していて、働かなくても生活できるんじゃないでしょうか。それでも、年金以外の定収があるのはいいものです。
彼のすごいところは、自分の楽しめる範囲で仕事をしていて、こちらが過度な要求をするときっぱり断ってくるんです。学生の相手をするのも、新しいことを学ぶのも、それを誰かに教えたりするのも好きなんでしょうね。彼はそこに働く喜びを感じている。
一度、別のプロジェクトに参加してもらおうと説得を試みたのですが、「自転車でヨーロッパ旅行をする予定なので、時間がないんです」と断られてしまいました。残念ではありましたが、彼の答えはごくまっとうだと思いました。「楽しみながら働くにはどうすればいいか」がちゃんとわかっている人なのだと。
週に40時間も働くと、かなりの時間を拘束されます。好きなことをする自由を、まるまる雇用主に差し出すようなものです。しかし、経済的に余裕があれば、就労時間を短くして自分の時間を増やしつつも、仕事のやりがいを味わえる。
完全にリタイアして働く喜びまで失ってしまうより、そちらのほうが賢い選択だと思います。ライフスタイルに対する意識改革です。
次回のテーマは、誰も教えてくれない「自分を幸せにするお金との付き合い方」。リタイア世代がとらわれがちな、お金を使うことへの罪悪感や過剰な不安から逃れるヒントもお届けします。
※HALMEK upの人気記事を再編集したものです。
もっと詳しく知りたい人はチェック!

『How to Retire お金を使いきる、リタイア生活のすすめ 』(KADOKAWA刊)
資産管理の専門家、クリスティン・ベンツさんが、18人のリタイア計画専門家と、資産運用、仕事、暮らし、住まい、健康のことを語り合い、リタイアの心構えをまとめた一冊。リタイアの5年前からやるべきことや、退職後にお金を使いきって幸せになるための、目からうろこのヒントが詰まっています。




