村木厚子さん「マスコミって……」

2023年05月05日

よりぬき!ハルメク人気連載「毎日はじめまして」2

村木厚子さん「マスコミって……」

2009年、郵便不正事件で冤罪に巻き込まれた元・厚生労働省事務次官の村木厚子さん。事件当時の取材は凄まじく、釈放されるまでの動向にマスコミの見方が一変したといいます。今、新たに活動する中で改めて思う報道の在り方、マスコミとの付き合い方とは?

村木厚子(むらき・あつこ)さんのプロフィール

村木厚子

むらき・あつこ 1955年、高知県生まれ。元厚生労働事務次官。2009年、厚生労働事務次官在任中、郵便不正事件で冤罪を被り164日の勾留を強いられる経験をした。

2015年10月退官後は、企業の社外取締役や大学客員教授等に就任。またSOSを心に抱えた少女や若い女性の支援を目的とする「若草プロジェクト」の代表呼びかけ人を、故・瀬戸内寂聴さんと共に務め、現在に至る。

2018年から雑誌「ハルメク」で、社会問題や生き方など日々の気付きを綴った連載「毎日はじめまして」をスタート。現在も好評連載中。

※記事は2021年8月執筆。

郵政不正事件での報道、マスコミの在り方

厚生労働省に勤務していた頃、マスコミの方々には大変お世話になりました。

課題になっている社会問題や政策をわかりやすく報道してもらうことは、役所にとってはとても重要なこと。各新聞社やテレビ局には何人もの厚生労働省担当の記者がいて、政策に関する記事をわかりやすく解説してくれます。

この点にかけては彼らは本当にプロです。だから、いつも感謝していたし、何とかマスコミに自分のやっている政策を取り上げてもらおうと努力をしていました。

そうしたマスコミへの見方が一変したのが郵便不正事件でした。

2009年、全く身に覚えのない罪で逮捕・勾留された頃の取材は凄まじいものがありました。連日、職場や自宅に記者が大勢押しかけてきて、自宅に帰るのを諦め、逃げ回っている状況でした。おまけに、使われる顔写真ときたら、本当に人相の悪く見えるものばかりです。

逮捕をされ、拘置所に入れられた最初の夜、静かな拘置所の中で「あ、ここまではマスコミの人は入ってこない」と思うと熟睡することができました。

間違いに気付くのは記者それぞれ、でも報道は


ある日、拘置所に、古くからの知り合いの記者が面会に来ました。その記者が帰った後、刑務官に呼ばれて、「さっき来たのはマスコミの人? マスコミの人と付き合って幸せになった人はいませんよ」と忠告されました。

やっぱりみんなそう思うのだろうなと思いました。

ちなみに、このとき訪ねてきた記者は、私の立場に立った記事を書いてくれましたが、そのために新聞社で「司法キャップ」というポストを降ろされ、私の無罪が確定した後にそのポストに返り咲きました。そんなふうに信念を貫く記者もいます。

事件のときのマスコミの論調は、ある時点で一斉に「無罪ではないか」という方向に変わりました。

後でいろいろな記者に逆取材をして、いつから検察は間違っているのではないかと思うようになったかを聞くと、それぞれの記者の経験などでずいぶん違っていました。でも、表に出る論調が変わったのは各社横並び。これもマスコミらしいなと思いました。

退職後、おそるおそるのテレビ出演

事件以降、職場に復帰し、また、退職後は「若草プロジェクト」などのNPO活動で、再びマスコミの方々のお世話になっています。報道されると、関心を持ってくれる人が確実に増えます。

でも、テレビだけはできるだけ避けていたのですが、「会いたい人に会わせてあげますよ」という甘い言葉に乗せられ、出演しました。憧れの今野敏さんにお目にかかれてよかったのですが、なんと、今野さんも、日頃はテレビは影響が大き過ぎて怖いから出ないのだそうです。

収録の日「はい、収録終了」の声にホッとして、今野さんとそんな話をし、(事件当時)娘に「ついに一度も、ママのこと『美人官僚』って言われなかったね。マスコミにもつける嘘とつけない嘘があるんだね」と言われた話を披露して大笑いをしました。

後日、オンエアされた番組を見ると、なんと、その会話が番組のオチに使われているではありませんか。やっぱり、マスコミは信じちゃいけない。

※この記事は雑誌「ハルメク」2021年9月号を再編集し、掲載しています

■もっと知りたい■
よりぬき!ハルメク人気連載
村木厚子さんの「毎日はじめまして」

その1「瀬戸内寂聴先生のこと」
その2「マスコミって…」
その3「高齢者は何歳から?」
その4「孤立・孤独」

村木厚子さんのインタビュー記事もあわせてご覧ください。>>>こちらをクリック


5月26日(金)村木厚子さんの講演会を開催します!

突然、自身に起きた冤罪事件をどのように乗り越えたか、「若草プロジェクト」の取り組み、そして人生後半、誰かのために何かしたいという思いを叶えるためのアドバイスまで、村木厚子さんにたっぷりお話を聞ける貴重な機会です。ぜひご参加ください!
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HALMEK up編集部
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