村木厚子さん「誰かのために動けてこそ、強くなれる」
2023.04.282024年02月22日
よりぬき!ハルメク人気連載「毎日はじめまして」1
村木厚子さん「瀬戸内寂聴先生のこと」
「女に生まれたからこそ闘う場所があると思ってね、がんばってちょうだい」故・瀬戸内寂聴さんの言葉です。郵便不正事件で冤罪に巻き込まれた元・厚生労働省事務次官の村木厚子さんと故・瀬戸内寂聴さんとの出会い、そして託された「人生の宿題」とは?
寂聴先生との出会い、「若草プロジェクト」の立ち上げ
※記事は2021年12月執筆。
瀬戸内寂聴先生が99歳で亡くなられました。6年ほど前、寂聴先生と親交がある弁護士の大谷恭子さんから、「寂聴さんから、やり残していることは何かしらねえと聞かれたのよ」と相談を受けました。
少年事件をたくさん扱ってきた大谷弁護士と、厚生労働省で女性や子どもの政策に関わってきた私は、やっぱり女の子のことが心配だと、少女や若い女性を支援する「若草プロジェクト」を立ち上げることを決めました。
貧困や児童虐待、学校でのいじめや性被害など厳しい状況に置かれた女の子たちは、なかなかSOSを出すことができません。そうした女の子たちを支援する活動を開始し、寂聴先生に応援してもらおうということになりました。
ご挨拶と活動のご相談に夫と二人で京都の寂庵にお邪魔し、初めて寂聴先生にお目にかかりました。慈愛に満ちた笑顔、気さくで愉快な会話、ただただ楽しく、あっという間に時間が過ぎていきました。
寂聴先生は徳島ラジオ商殺し事件で、罪に問われた女性(死後に無罪判決)の支援をされていたこともあって、私が郵便不正事件で身に覚えのない罪に問われたことについてもよくご存じで、大変だったわねと労ってくださり、そしてよく闘ったと褒めていただきました。
この世のすべての女の子へ、寂聴先生からの人生の宿題
若草プロジェクトの活動が始まると、年2回は、京都の寂庵で研修会を開催し、はじめに寂聴先生のご挨拶をいただくことが恒例となりました。ユーモアあふれるお話でみんなを笑わせ、そして女の子たちのためにがんばれと励ましてくださいました。
コロナ禍で寂庵での研修会もシンポジウムも開くことができなくなったので、みなさんに元気を届けようと寂聴先生のメッセージを短い動画に収めました。
一部をご紹介すると、
「人間は殺しちゃいけない。自殺も自分を殺すことなの。それを自分の命だからいいじゃないのって、勝手に思わないでほしいの」
「女に生まれて、女であるがためにしなくていい苦労をした人がこの世にまだいっぱいいると思うと、98歳になっても死ぬに死ねないのね」
「あなたたちが力を合わせたらもっともっとマシになると思うのね。あなたたちは女に生まれたことを残念だと思わないでね。女に生まれたからこそ闘う場所があると思ってね、がんばってちょうだい。99歳まで生きるにはまだずいぶん時間があるのよ。その時間を女性の地位を上げるように努力してほしいの……あなたたちが一つ変えてちょうだい。あなたが生きている間にね」。
これは私たちに託された寂聴先生からの宿題です。
理不尽への怒りを愛に変えて
みなさんにも聞いていただけるようこのメッセージを若草プロジェクトのホームページに載せました。
先生は理不尽なことへの怒りをすべての人への愛に変えることのできる方だと思います。
90代になってもお肉とワインが好き、最後まで執筆を続けられた寂聴先生のような生き方は、誰もができることではありませんが、99歳までと考えれば、時間はたっぷりあります。
私も何か一つでも変えることができるようにみんなと力を合わせてがんばりたいと思います。
若草プロジェクト
https://www.wakakusa.jp.net/message1111
村木厚子(むらき・あつこ)さんのプロフィール
むらき・あつこ 1955年、高知県生まれ。元厚生労働事務次官。2009年、厚生労働事務次官在任中、郵便不正事件で冤罪を被り164日の勾留を強いられる経験をした。
2015年10月退官後は、企業の社外取締役や大学客員教授等に就任。またSOSを心に抱えた少女や若い女性の支援を目的とする「若草プロジェクト」の代表呼びかけ人を、故・瀬戸内寂聴さんと共に務め、現在に至る。
2018年から雑誌「ハルメク」で、社会問題や生き方など日々の気付きを綴った連載「毎日はじめまして」をスタート。現在も好評連載中。
※この記事は2023年4月の記事を再編集して掲載しています。
■もっと知りたい■
よりぬき!ハルメク人気連載
村木厚子さんの「毎日はじめまして」
その1「瀬戸内寂聴先生のこと」
その2「マスコミって…」
その3「高齢者は何歳から?」
その4「孤立・孤独」
その5「家出の勧め」
その6「初めての海外一人旅」
※この記事は雑誌「ハルメク」2022年2月号を再編集し、掲載しています
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その1「瀬戸内寂聴先生のこと」
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