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- 村木厚子さん「家出の勧め」
2009年、郵便不正事件で冤罪に巻き込まれた元・厚生労働省事務次官の村木厚子さん。164日間におよぶ勾留中に心配されたことの一つは、主婦不在の家のことだったそう。さて、村木家はどうだったのでしょうか。
村木厚子(むらき・あつこ)さんのプロフィール
1955年、高知県生まれ。元厚生労働事務次官。2009年、厚生労働事務次官在任中、郵便不正事件で冤罪を被り164日の勾留を強いられる経験をした。
2015年10月退官後は、企業の社外取締役や大学客員教授等に就任。またSOSを心に抱えた少女や若い女性の支援を目的とする「若草プロジェクト」の代表呼びかけ人を、故・瀬戸内寂聴さんと共に務め、現在に至る。
2018年から雑誌「ハルメク」で、社会問題や生き方など日々の気付きを綴った連載「毎日はじめまして」をスタート。現在も好評連載中。
※記事は2017年5月号初出。
結婚35年、満たされない心があった?
拘置所にいるとき、ちょっと年上の女性の友人が、アン・タイラーの『歳月のはしご』という本を差し入れてくれました。40歳の女性主人公が、何となく心が満たされないという思いを抱えて、ある日、夫や子どもを残し、成り行きで家出をする。部屋を借り、仕事を見つけ、見知らぬ町で新しい生活が始まる……。そんな物語でした。
当時の私の日記には、「空の巣症候群。夫と子どもを捨て、一人で別の街で暮らし始める。とても共感してしまうところがある。」という感想が記してあります。自分でも気付かなかった「満たされない心」を友人は見抜いてこの本を差し入れてくれたのだろうかとドキッとしました。
結婚して35年、家出をしたことはありませんが、拘置所に164日いたので、結果的に「主婦の家出」が半年ほど続いたことになります。
妻がいなくなったとき、夫は生活できるか
こんなこともあったので、最近、講演などで特に中高年の主婦の方に家出をお勧めしています。妻がいなくなったときの予行演習を夫にしてもらうためです。妻が勾留されることはさすがにまれでしょうが、妻が先に亡くなる、入院する、あるいは親の介護で実家に帰ってしまうといったことは大いにあり得るでしょう。
実は、私も夫も、母親が先に亡くなり、父親が残って独り暮らしをしています。何となく母が父をみとってくれて、その後私が母をみとるのだろうと思い込んでいた私は、「想定外」の事態に焦りました。幸い、父は若い頃に家事・育児を一人で切り盛りした経験があるので、宅配弁当も活用しつつ元気に一人で暮らしています。
妻が亡くなると残された夫は早く亡くなる、逆に夫が先に亡くなると妻は元気で長生きするとよく言われます。だから講演会では、「もし夫を愛しているなら家出をしましょう。まずは1泊、それができるようになったら次は1週間。1週間一人で暮らせれば、後はそれの繰り返しです」と言っています。
妻は心の洗濯ができて、本格的な家出が防げるかもしれません。そして夫は妻のありがたみを再認識でき、かつ一人暮らしの予行演習ができます。いいアイデアではないでしょうか。
安心して、次の家出に
我が家の夫は164日の「家出」の前から、家事万端、何でもできました。勾留されたとき、弁護士さんが心配して「どうしますか。家政婦さんでも雇いますか」と夫と娘に聞いてくれましたが、夫は初めは何を心配されているのかわからなかったようです。
やっと、一家の主婦がいなくなったことを心配してくれているのだと気が付き、「大丈夫です。今までと何も変わりませんから」と答えました。拘置所に面会に来た弁護士さんが大笑いしながら私にそう報告してくれました。ひどい、ちょっとは主婦しているのに。
しかし、そんな夫だから、勾留中、家族の日々の暮らしを心配せずに済み、また、退職後、悠々と1か月近いイギリス一人旅という家出を楽しめたのです。次は、いつ、どこへ、どんな家出をしようかと心を膨らませています。
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その2「マスコミって…」
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その4「孤立・孤独」
その5「家出の勧め」
その6「初めての海外一人旅」
この記事は雑誌「ハルメク」2017年5月号を再編集し、掲載しています。
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