「いのち」を見つめ「どう生きるか」を考える

中村桂子×内藤いづみ【対談】自分らしく生き切るコツ

中村桂子×内藤いづみ【対談】自分らしく生き切るコツ

更新日:2023年08月19日

公開日:2022年11月19日

【対談】自分らしく生き切るコツは日々を楽しむこと!

生と死とは、限られた時間での本当の勇気とは何か…。「どう生きるか」を探るための学問「生命誌」の第一人者・中村桂子さんと、30年近く在宅ホスピスケアに取り組む医師・内藤いづみさんが、「自分らしく生き切る」をテーマに対談しました。

「自分らしく生き切る」をテーマに対談

中村桂子(なかむら・けいこ)プロフィール

中村桂子(なかむら・けいこ)プロフィール

1936(昭和11)年東京都生まれ。東京大学理学部化学科卒業。同大学大学院博士課程修了。理学博士。国立予防衛生研究所研究員、三菱化成生命科学研究所人間・自然研究部長などを経て、JT生命誌研究館を創設。長年館長を務め、現在は名誉館長。38億年の生命のつながりを見つめてきた生命誌研究者。

内藤いづみ(ないとう・いづみ)さんプロフィール

内藤いづみ(ないとう・いづみ)さんプロフィール

1956(昭和31)年山梨県生まれ。福島県立医科大学卒業。三井記念病院内科などでの勤務を経て英国に移住。プリンス・オブ・ウェールズ・ホスピスで研修を受ける。帰国後、山梨県甲府市にふじ内科クリニックを設立、院長として在宅ホスピスを実践している。4000人以上のいのちに寄り添ってきたホスピス医。

※この対談は2021年12月に行いました。

不安がらず、愚痴らず、私らしく生き切るために

不安がらず、愚痴らず、私らしく生き切るため
「昨日の晩、娘と一緒に慌てて焼いたのよ」という中村さんお手製のアップルパイ

お二人の対談は2021年末、東京都内の静かな住宅街にある中村さんのご自宅で行われました。訪れてまず圧倒されるのは、多種多様な草木花に覆われた崖状の広い庭。急こう配なため、レンガの階段を上り下りしなければならず、「足元に気を付けて」と中村さん。

崖の下には湧き水もあり、水くみや庭の手入れのために毎日上り下りしているそう。内藤さんは「日常的に足腰が鍛えられて運動不足にならない庭ですね」と息を弾ませます。

実は内藤さんがここを訪れるのは今回が2回目。対談の半年ほど前に、お二人はこの庭でじっくり語り合い、そのやりとりは新刊『人間が生きているってこういうことかしら?』(ポプラ社刊)に収録されています。

久しぶりに再会したお二人は、鳥のさえずりを聴きながら庭で撮影後、暖炉のあるリビングへ。中村さんお手製のアップルパイと紅茶をお供に対談が始まりました。

生と死は別のものではなく、ずっとつながっているもの

生と死は別のものではなく、ずっとつながっているもの
山桜やねむの木の葉が風に揺れる庭で

内藤いづみ(以下、内藤) 今日は明け方に患者さんが一人お亡くなりになって、ご自宅で最期を看取ってきました。私はいつもバッグの中に死亡診断書をしのばせていて、今朝、書き上げて、ご家族にお渡ししてきました。たった1枚の紙ですが、人生を終えたという証しですから、私は「人生の卒業証書」と呼んでいるんです。 

中村桂子(以下、中村) 看取りというのは「いのちの卒業式」で、患者さんの代理であるご家族に卒業証書をお渡しになるのね。

内藤 そうです。法的には、この紙がないと、ご遺体を1mも動かせません。だから私が早く渡さないと、ご家族は葬儀などを進められなくなってしまうんです。

中村 なるほど。

内藤 医学的には、死の3つの兆候(編集部注・呼吸の停止、心臓の停止、瞳孔の散大)を調べて「何時何分に亡くなりました」と死亡時刻を決めます。

でも一方で、患者さんには確かに“名残”があるんですね。

それまで過ごされてきた人生だとか、筋金入りの頑固者で家族を散々困らせていたけど、それでも愛されていたなという人柄だとか、そういうものは呼吸が止まって心臓が止まってもなくならない。完全に名残があるわけです。

中村 お医者さまや警察にとっては死亡時刻が大事なのでしょうが、家族にとっては何時何分なんて関係ないですよね。私が83歳の母を看取ったときに感じたのは、生と死は別のものではなく、つながっているということでした。

というのも、母が亡くなる前から、“ああ、もう戻ってこないんだな”とだんだん母が離れていく感じがあって、一方、亡くなった後には、まだ自分と同じ世界にいるという感じがあるんですね。

つまり生も死も過程であって、ずっとつながって続いている。死亡時刻で区切られるものではないのです。ある意味、生まれたときからだんだん死に近付いているともいえるわけでしょう。

内藤 本当にそうですね。生と死は鎖のようにつながっています。

中村 そして10年たっても20年たっても、いまだに母と一緒に生きている感じがあって、全然いなくなっていない。料理も日常の暮らし方も、“母はこんなふうにしていたな”と思いながらやっているから、あんまりいい加減にはできませんね。

内藤 わかります。私の場合、鏡を見ると、母がいますもん。年を取ってだんだん顔が似てきたから、鏡を見るのが怖い(笑)。「いづみ、仕事が足りんよ。もっとがんばれ」って、96歳で亡くなるまで言い続けた母でしたから、叱られそうで。お風呂上がりは曇った鏡を拭かないようにしています(笑)。

いのちのたすきを渡せれば、死は恐怖ではなく安堵に

いのちのたすきを渡せれば、死は恐怖ではなく安堵に
リビングにある暖炉で手際よく火をおこし、ときどき薪をくべる中村さん。優しい暖かさが部屋を包みます

内藤 うちは父も母も教師をしていたから、私にもその素質があって、看取りの場に子どもがいると、すぐ「いのちの教室」をしたくなるんですね。

おばあちゃんの布団を囲んで最期を見守っている孫の耳に聴診器をつけて、「君の心臓の音を聴いてごらん。ドクドクしているでしょ。それが生きているってことなの。おばあちゃんの心臓に当ててごらん。静かでしょ。それが死んだってことだよ」と。

そして、「おばあちゃんは宿題を全部果たして、最期までみんなと一緒にいたいという思いを果たしてもらって、ありがとうと天国に行ったんだよ。だから、これからおばあちゃんのことをよーく思い出してあげて」と伝えます。

そうやって看取りと「いのちの教室」を両立させていたら、そこから看護師さんになった女の子もいるんですよ。ある男の子は「死ってわからないことで、怖いものだと思っていたけど、おばあちゃんが亡くなるのをずっと見ていたら怖いものじゃなくなった。たすきをもらったような気がする」と言いました。ああ、子どもはすごいなと思いましたね。

中村 理屈じゃないのよね。その場にいて本当に自分で感じることだから。

内藤 いのちのそばにちゃんと寄れた子は、いのちのつながりを感じてくれる。亡くなっていく人も、いのちのたすきを渡すと感じられたら、死は恐怖ではなく安堵になると思うんです。

昔はそういうことが自然にできていたはずですが、今は必要以上に日常から死を遠のけてしまっているから、かえって不安や恐怖を抱える人が多いのかもしれません。

日常の小さなことでも楽しむ、不安になる時間はもったいない

日常の小さなことでも楽しむ、不安になる時間はもったいない
広い庭にも室内にもたくさんの草花の鉢植えが飾られ、どれもいきいきとしています

中村 私はどんなことでもいいから、自分が大好きなことや夢中になれることをお持ちになったら、死や老いへの不安を感じる暇なんてなくなると思いますね。

私だって死が怖くないわけじゃないですよ。だけど私たちの生きる時間、考える時間は限られているわけじゃないですか。だったら自分のやりたいことをして、好きなことを考えている方が面白いし、不安になる時間はもったいないと思うんです。

世の中の役に立つとか立たないとかそういうことではなく、小さなことでいいから、自分が夢中になれることを見つける。そして、ちゃんとお食事やお散歩をして当たり前の日常をしっかり送ることだと思います。

私が子どもの頃からずっと、今も大好きで、自分と重ね合わせてきたのが『あしながおじさん』の主人公ジュディです。彼女の言葉でとても好きなところがあります。

「人生で立派な人格を要するのは、大きな困難にぶつかった場合ではないのです。誰だって一大事が起これば奮い立つことができます。また心を押しつぶされるような悲しいことにも勇気をふるってあたることはできます。けれども毎日のつまらない出来事に笑いながらあたっていくのは、それこそ勇気がいると思います」

これって本当にそうだと思いませんか。私たちは毎日毎日何かにぶつかるんだけど、そのときにマイナスに考えないで、自分なりにやっていくのが本当の勇気。

毎日を生きていくってそんなに楽なことではありませんから、日常の小さなことでも楽しむ、それが一番大事じゃないかなと思います。

内藤 コロナ禍になってからは特に、明日はわからないというか、今を大切にしなきゃという気持ちが募りますね。私にとって大事な言葉は「一期一会」。

こうして語り合う日は二度とこないかもしれない。それをむなしいと思うのではなく、ありがたいなと思います。

中村 私の好きな言葉に「雨の日には雨の中を 風の日には風の中を」があります。雨が降って嫌だなんて言わず、雨の日には雨と一緒に、風が吹いたら風と一緒に生きてゆく。当たり前のことですが、この言葉を唱えると、どんな日でもまあいいか、と思えるんです。

内藤 愚痴ったり、不安がったりする時間はもったいない。今を楽しむことですね。

自分らしく生き切るために

対談を終えて、改めてお二人に「自分らしく生き切る」ということについて一言いただきました。

中村桂子さん
「日常の小さなことを楽しむ、それが一番大事だと思います」

内藤いづみさん
「明日がわからないからこそ、今を大切に生きたいです」

中村さん・内藤さんが好きな本を紹介

中村桂子さんが好きな2冊

中村桂子さんが好きな2冊

  • 『あしながおじさん』ジーン・ウェブスター(著)、谷口由美子(訳)/岩波少年文庫/836円
  • 『ふたりのロッテ』エーリヒ・ケストナー(著)、池田香代子(訳)/岩波少年文庫/726円

「『あしながおじさん』の主人公ジュディも、『ふたりのロッテ』のロッテとルイーゼも、日々を楽しむことに幸せを感じる普通の女の子。読むたびに小さな幸せの大切さを感じます」と中村さん。

内藤いづみさんが好きな2冊

内藤いづみさんが好きな2冊

  • 『小説伊勢物語 業平』髙樹のぶ子(著)/日本経済新聞出版刊/2420円
  • 『おかあさんになるってどんなこと』内田麟太郎(著)、中村悦子(絵)/PHP研究所刊/1320円

「コロナ禍で印象に残った『小説伊勢物語 業平』。業平の辞世の一首に心動かされます。『おかあさんになるってどんなこと』は、作者の母に対する強い思いが込められた素敵な絵本です」と内藤さん。

お二人が語り合った本

二人が語り合った本

『人間が生きているってこういうことかしら?』中村桂子・内藤いづみ/ポプラ社刊/1650円

新型コロナの流行などで生き方を考え直さなければいけない今、一人一人の「いのちの力」を信じ、「わからないこと」に上手に向き合って、明日へと歩いていくためには――。

取材・文=五十嵐香奈(ハルメク編集部) 撮影=中西裕人 ヘアメイク=中田マリ子 スタリング=清水けい子
※この記事は雑誌「ハルメク」2022年3月号を再編集し、掲載しています。

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みんなのコメント
  1. ほぼ一年中変わらない規則正しい生活を送っています。私なりに充実していることが嬉しくて、毎日感謝して翌日を迎えます。お二人の対談の中で「日常の小さなことでも楽しむ。不安になる時間はもったいない。」と言うアドバイスに、これからも楽しめる工夫をもっとしていきたいと思いました。