今月のおすすめエッセー「庭づくり」富山芳子さん
2024.12.312022年05月31日
山本ふみこさんのエッセー講座 第7期第3回
「いったいわない、話した聞いていない」海瀬和美さん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクのエッセー講座。参加者の作品から、山本さんが選んだエッセーをご紹介します。テーマは「見落とす」です。海瀬和美さんの作品「いった、いわない、話した、聞いていない」と山本さんの講評です。
いった、いわない、話した、聞いていない
年のせいか、どうも早とちりが多い。
ネット注文した商品の発送メールが届いた。
その日午後届くと思い込み、指定した時間にずっと待っていても届かないので、確認メールを出そうとよく読んだら、「本日発送手続きをしましたので、1週間ほどでお手元に届きます」と書いてあった。
最後を見落としていた。
午後の4時間買い物にもいけず、ずっと家にいて、最後の1時間はイライラして過ごしていた。あーもったいない。
町内のフラワーアレンジメントの会に4月から参加させてもらっている。みんな私よりちょっと年上。
先生のお手本のお花を生けるのに必死な私に、
「ねぇ、タクシーの中にドライブレコーダーのように、会話が全部録音出来る機械を家に付けることはできないかしら」という話が聞こえてきた。
「エッ!そんな機械を付けたらすべて録音されるから、会話が出来ないわよ」と誰かが言った。
「会話がすべて録音されるからいいのよ。最近わたしがいったことを聞いていない、いっていないと夫が言うことが多くて、録音されていれば、ほらいったでしょうと聞かせられるでしょう。
この日は娘と孫と出かけるといってあるのに、医者の予約を入れて一緒に行ってくれというのよ。
私はきちんと伝えたし、私の予定はすべて書いて冷蔵庫に貼ってあるのに、わざわざ見にいけるかというし、全く頭にくる」
みんなで大笑いした。
全員心あたりがある。
「いった、いわない、話した、聞いていない」
あぁ~どこの家も同じ。
年取った夫婦二人、毎日、こんな会話をして
「どうして、私が予定を変えなければいけないの。今日はダメといってあったでしょう!」と怒って、外で話のタネにして笑って、またくり返す。
山本ふみこさんからひとこと
読者の共感。それはどこから生まれるのでしょう。自分の体験を客観的に描くということが基本になるだろうと、私は考えます。
「どうして、私が予定を変えなければいけないの。今日はダメといってあったでしょう」と怒って、外で話のタネにして笑って、またくり返す。
このやわらかい受けとめ方が素敵です。作品を読んでいると……、ご夫婦の仲がどんな感じか、たちまち伝わります。海瀬夫妻は、私のあこがれです。
山本ふみこさんのエッセー講座(教室コース)とは
随筆家の山本ふみこさんにエッセーの書き方を教わる人気の講座です。
参加者は半年間、月に一度、東京の会場に集い、仲間と共に学びます。月1本のペースで書いたエッセーに、山本さんから添削やアドバイスを受けられます。
現在、参加者を募集中です。申込締切は2022年7月4日(月)まで。詳しくは雑誌「ハルメク」7月号の誌上とハルメク旅と講座サイトをご覧ください。