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- エッセー作品「見落す」平木智子さん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクのエッセー講座。教室コース 第7期の参加者の作品から、山本さんが選んだエッセーをご紹介します。第3回の作品のテーマは「見落とす」です。平木智子さんの作品「見落す」と山本さんの講評です。
見落す
考えごとをしながら歩くことがある。
子供のころから移動中に大事な件を決定してはならないと教えられていたので、深刻な問題を考えているわけではないが、ボーッともの思いにふけりながら歩いている。
ちょっとした段に気がつかずに踏みはずしたり、雨上りの水たまりをふんだりするから、これは要注意である。
あれはもう3年程前のことになる。
その日午前中に、郵便局に用があった。いつもバスを降りると、ヨーカドーに入り、中を斜に横切って、郵便局側の出口に向かう。
例によって、考えごとをしながら……。
女性がドアを押さえる様に立ち、私が通りすぎるのを待っている風だったが、それを気に留めることなく外に出た。
数歩すすむと「ありがとうくらい言え!」と背後からきびしい声が飛んで来た。
ハッと我にかえり、その瞬間、“あっ!私のことだ。”と気がついて、後をふり返るとその人はすでに店内に入って行った。
その時“しまった。悪いことをしてしまった。”と思ったが、追いかけて行って、訳を話して謝ることを怠ってしまった。
どうしてその行動を起こさなかったのだろうか。
郵便局へ急ぐ用事をかかえていたのだったろうか。
今になると、そのところは思い出せないが、その女性への非礼は今も忘れることなく記憶に残っている。
あの日、あの女性(ひと)は不快をかかえてすごしていたろうか。
郵便局へつながるヨーカドーのドアを開けるたびに、私はあの日のことを思い出す。
あの方が忘れていて下さるとありがたいのだが、と考えながら。
山本ふみこさんからひとこと
本作、どうしてもご紹介したいと思いました。
簡単に申すなら、これは失敗の話です。登場人物の激しい言葉も置かれています。作家はその時のことを悔いています。同時に決して相手を落とさず、そうして、人と人が許し合うことの意味を作品の中に展開させています。
この視点、受けとめ方が、書き手には必要です。作品の中で、自らの言い分だけをよしとする描き方が、読者を傷つけることにもつながるからです。
私はあの日のことを思い出す。あの方が忘れていて下さるとありがたいのだが、と考えながら。
結びを読んで、こみあげるものがありました。
山本ふみこさんのエッセー講座(教室コース)とは
随筆家の山本ふみこさんにエッセーの書き方を教わる人気の講座です。
参加者は半年間、月に一度、東京の会場に集い、仲間と共に学びます。月1本のペースで書いたエッセーに、山本さんから添削やアドバイスを受けられます。
現在、参加者を募集中です。申込締切は2022年7月4日(月)まで。詳しくは雑誌「ハルメク」7月号の誌上とハルメク旅と講座サイトをご覧ください。
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