山本ふみこさんのエッセー講座 第7期第3回

エッセー作品「どんぐり」島戸菅子さん

公開日:2022.05.31

更新日:2022.06.27

随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクのエッセー講座。教室コース 第7期の参加者の作品から、山本さんが選んだエッセーをご紹介します。第3回の作品のテーマは「見落とす」です。島戸菅子さんの作品「どんぐり」と山本さんの講評です。

「どんぐり」
エッセー作品「どんぐり」島戸菅子さん

どんぐり

我家の庭の東側に、1本の櫟(くぬぎ)の木がある。
東側に聳える櫟(の木)は、毎年入る、シルバーの植木屋さんと、刈り込みの際、相談しながら、どんどん延びる上のほうを刈りつめている。

この櫟は、子供達が成長した、西荻の社宅のすぐ側の公園(=通称どんぐり公園)で二男が拾ってきた、いくつかのどんぐりが、彼のポケットから、こぼれ落ちた場所が、引っ越してきた現在の我が家の庭であった。
思い出すのも楽しい櫟の樹であるが、彼のポケットから、ころがり落ちたどんぐりは、新しい土の中で、芽生え、今では幹が直径25㎝以上にまで成長した。
2階のベランダを優に越している。

ベランダの端から手を延ばせば、風に吹かれる大きな葉が、届く程になった。
葉脈が美しい。
春、新しく出た葉が、どんどん成長し、夏には、日陰になる。
秋の台風シーズンには、大きな葉が、強風に煽られて耐えている。
冬の季節は、すっかり、葉を落とした櫟は、寒い冬、周囲からも忘れ去られている。
然し、四季を通じて、世の移りゆく情景を、環境を、又家族の成長を見渡し、見護り続けてきてくれた。

堂々と立つ姿は、小さな一粒のどんぐりからとは、到底、考えられないから不思議。
我家の家族と共に育ってきた、生命とも云える。
機械のように、油を差したり、故障の修理は、我家の櫟に限って、必要はなかった。

然し、植物にも、病は、数限りなくあると聴く。
30年という時間の流れの中で、何とも逞しく、堂々と風雪に、堪えてきた、我家の櫟よ!

 

山本ふみこさんからひとこと

美しい作品です。どんぐりの成長を読みながら、ポール・ギャリコの『雪のひとひら』(矢川澄子・訳)を思いました。私にとって大切な本なのです。かつて講座でも読んだことがあり、島戸菅子さんも好きだと云われていたと記憶しています。

庭の櫟(くぬぎ)を観察し、合わせて自らの内面を観察。そしてこのような静かなエッセーが生まれたのです。 

 

山本ふみこさんのエッセー講座(教室コース)とは

随筆家の山本ふみこさんにエッセーの書き方を教わる人気の講座です。

参加者は半年間、月に一度、東京の会場に集い、仲間と共に学びます。月1本のペースで書いたエッセーに、山本さんから添削やアドバイスを受けられます。

現在、参加者を募集中です。申込締切は2022年7月4日(月)まで。詳しくは雑誌「ハルメク」7月号の誌上とハルメク旅と講座サイトをご覧ください。


■エッセー作品一覧■

ハルメク旅と講座

ハルメクならではのオリジナルイベントを企画・運営している部署、文化事業課。スタッフが日々面白いイベント作りのために奔走しています。人気イベント「あなたと歌うコンサート」や「たてもの散歩」など、年に約200本のイベントを開催。皆さんと会ってお話できるのを楽しみにしています♪

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