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- 視聴率10%超ドラマ「捜査一課長」がクセになる理由
コラムニストの矢部万紀子さんのカルチャー連載。今回はテレビ朝日系で木曜日夜8時から放送中のドラマ「警視庁・捜査一課長」の魅力を語ります。シリーズ10年目で視聴率は10%越え。そのクセになる面白さにあるという「様式美」とは?
何となく見ても楽しめるドラマ「捜査一課長」
あまりいろいろなことを考えず、なんとなくドラマを眺めていたい。そんな日にピッタリなのが、「警視庁・捜査一課長」(木曜夜8時、テレビ朝日系)です。シリーズ誕生10年という長寿ドラマで、2021年4月に始まったシーズン5も6話まですべて視聴率が10%超え(関東地区、ビデオリサーチ調べ)という人気ぶりです。
人気の秘密は「様式美」にあると思います。「最初はこうで、次はこう、その次はこう」とお決まりの流れがあって、それが心地よいのです。テレビ朝日のドラマの「お家芸」ではありますが、中でも群を抜いていて、しかも全体に絶妙な緩さもあります。だから、じっと見ていなくてもオーケー。「眺めたいNo. 1ドラマ」です。
内藤剛志さん演じる大岩純一・捜査一課長は、とても熱い人です。最初の捜査会議の締めはいつも「必ず、ホシをあげる!」という号令。何十人といる捜査官が一斉に「はい!」と応えるのもお約束です。
お決まりの流れがあるのに飽きない!
熱いけれど、暑っ苦しくならないのがこのドラマ。そもそもオープニングが脱力系です。まず一課長の電話が鳴ります。「一課長、大岩」と電話に出て、次に「何、○○○○なご遺体が? わかった、すぐに臨場する」が決まりです。で、この○○○○が最高なんです。
第5話は「着物でぐるぐる巻きにされたご遺体」でした。4話は「わさび入りのシュークリームを握った」で、3話は「警察官のコスプレを身にまとった」、2話は「矢印だらけ」。1話は「初回スペシャル」だったので違うオープニングでしたが、それは例外ということで。
電話の後は現場です。一課長を待っているのが、小山田管理官。演じているのは金田明夫さんで、同じくテレビ朝日の刑事ドラマ「科捜研の女」では内藤さんの上司(刑事部長)を演じています。こういうところも大好きなのですが、それはさておき。
もう一人、現場に必ずいるのが、斉藤由貴さん演じる平井真琴主任です。彼女はいつも遺体を眺め、何かしらの違和感を口にします。その根拠は「勘」だと言うのもいつものこと。「勘など、捜査のあてになるか」と小山田管理官がたしなめ、一課長がこう言うのもいつものことです。「やまさん、大福の勘は特別だ」。
小山田管理官は「やまさん」、平井主任は「大福」。そう呼ぶのは一課長だけですが、とにかくそのたびにやまさんは「そうでした。頭の隅にとめておきます」と軽く頭を下げます。そして、この大福の「勘」が必ず捜査を導いていきます。彼女はいつも、一人で「怪しい度」抜群の人に会いに行きます。いろいろな証拠が出てきて、その人を任意で取り調べるのも毎回のことです。
このように流れが決まっているのに、ちっともあきない。それがこのドラマのすぐれたところ、鉄の「様式美」なのです。さらに、この「怪しい度」抜群の人は、絶対に真犯人でない、というのもお約束です。
えー、そんなことがわかっていて、面白いの? と思う方もいらっしゃることでしょう。はい、面白いです。「様式美」以外にも理由があります。このドラマ、謎解きより人情話に力点を置いていて、それがけっこう楽しめる。そこが、大きいと思います。
怪しかった人の事情とボタンの掛け違いを丁寧に描く
真犯人発見の道筋はほとんど描かず、最初は怪しく見えた人は悪い人ではなく、なぜ怪しく見えたのか、その背景、事情がたっぷり描かれます。例えばそれは、厳しかった父親への反発。なぜかシーズン5ではそれが多いのですが、お互いに尊敬しているのにすれ違っているとか、目指しているのは同じものだったのに気付かないとか、そういう事情が浮かび上がります。
ありきたり事情のようですが、なぜか「陳腐」には感じられません。そして、一課長や大福、やまさんらの優しさで迎える大団円。これも毎回のことですが、素直についていけるのです。「大福の勘は特別だ」と必ず言う一課長の眼差しもそうですが、女性を肯定的に見る感じがドラマ全体に流れてるので、素直になれる気がします。
他にもたくさんお約束があります。途中で刑事部長(本田博太郎さんが演じています)が出てきて、一課長をシュールな方法で叱咤激励するというのもその一つ。一課長がそれを大真面目に見つめ、「ありがとうございます」と深々頭を下げるのも好感度大。一課長が家に帰ると妻(と猫)が待っていて、何気ないやりとりが捜査のヒントになるというのは、ほっこりポイントです。
最後に小さな自慢を。ナイツの塙宣之さんが一課長の運転担当刑事として出演しています。私はナイツが大好きで、単独ライブにときどき行きます。あるとき、会場で内藤さんと本田さんに会いました。ロビーですれ違い、「あ、一課長と刑事部長だ」と思いました。以上、自慢、終了です。
ちなみに、塙さんの役名は奥野親道。「おくのちかみち」さんです。細い道より近い道。そんな楽しいドラマです。
矢部万紀子(やべ・まきこ)
1961年生まれ。83年、朝日新聞社に入社。「アエラ」、経済部、「週刊朝日」などで記者をし、書籍編集部長。2011年から「いきいき(現ハルメク)」編集長をつとめ、17年からフリーランスに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』(ちくま新書)、『美智子さまという奇跡』『雅子さまの笑顔 生きづらさを超えて』(ともに幻冬舎新書)
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