1985年の朝ドラから2020年の科捜研の女まで

沢口靖子さんは朝ドラ「澪つくし」から沢口さんだった

公開日:2020/03/18

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50代コラムニストの矢部万紀子さんが、NHK連続テレビ小説「澪つくし」からドラマ「科捜研の女」の35年間を通じて、気付いた沢口靖子さんのすごさについて考えます。

2020年3月19日(木)夜8時より最終回スペシャルを放送予定の「科捜研の女」
2020年3月19日(木)夜8時より最終回スペシャルを放送予定の「科捜研の女」

85年放送「澪つくし」のヒロインを演じていた

澪つくしDVDBOX
NHKスクエア ホームページより。連続テレビ小説 澪つくし 完全版 DVD-BOXI

朝ドラ(連続テレビ小説)の第1回だけを見るという勉強会に、最近参加しました。朝ドラ好きが高じて、『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』という本を出版したことがきっかけで、NHK放送文化研究所で開かれた勉強会に誘っていただいたのです。

「おはなはん」(1966年)から始まり、「鳩子の海」(74年)、「澪つくし」(85年)、「ふたりっこ」(96年)、「すずらん」(99年)、「ちゅらさん」(2001年)、「てるてる家族」(03年)、「あまちゃん」(13年)、「ひよっこ」(17年)、そして現在放映中の「スカーレット」まで合計10本を見ました。

それぞれの時代を映す作品がずらっと並んだ中、一番衝撃的だったのは「澪つくし」でした。ヒロインは沢口靖子さん。第1回「東宝シンデレラ」オーディションでグランプリに選ばれた翌年の抜擢です。初回オンエア時、沢口さんは19歳。今より少しふっくらしていましたが、そこには紛れもなく今の沢口さんがいたことに衝撃を受けました。
 

「科捜研の女」榊マリコは、恋とおしゃれが苦手

恋は危険な訪問者である

始まり方も衝撃でした。男性アナウンサーによる長いナレーションが入ります。「恋は危険な訪問者である」。それが第一声。そして、こう終わります。「しかし人は、誰でも恋を待っている」。えー、なんてストレートな恋愛ドラマの始め方。しかも今の沢口さんを知る者には、余りにも遠い世界です。そのギャップに、度肝を抜かれました。

沢口さんと言えば、「科捜研の女」(テレビ朝日系)です。99年に始まったこの番組で、沢口さんは20年も榊マリコという京都府警科学捜査研究所の法医研究員を演じています。マリコは「おしゃれ」と「恋愛」は苦手分野です。反対に得意分野は「正義」。19年、テレビ朝日60周年に合わせ「科捜研の女」は1年間放送することに。人気を支えているのは沢口さんが醸し出す「恋愛下手」への共感と、「正義」へのリスペクトではないかと思っています

「澪つくし」での沢口さんは、銚子高等女学校の4年生‟かをる”を演じていました。時代は大正15年です。先ほど紹介した超ストレートのナレーション後、やっとドラマが始まります。かをるは袴の制服を着て、海岸にいました。詳細は省きますが、そこに若い漁師(川野太郎)が現れ、かをるの指に刺さったトゲを口で吸い取るのです。

何という驚きの急展開。これでもう「危険な訪問者」であるところの「恋」の相手が、彼なのだとわかります。そんなドキドキのスタートですが、沢口さんはなぜかキョトンとしています。どこ吹く風。そんな言葉が浮かんできました。そして場面が変わって下校途中、かをるは「妾の子」と囃されます。でも動じません。帰宅後、母や伯父に「私、平気よ、妾の子には違わないでしょ」、「逃げるのはいやです」ときっぱり言うのです。
 

35年前から1本道を歩いてきた沢口靖子さん

沢口さんは「澪つくし」以来、ひたすら1本の道を歩んできたのだと思いました。恋愛方向にはキョトンで、正義方向ではきっぱり。キョトンときっぱりの間を、絶妙のバランスで歩く。その沢口さんの歩みを、「澪つくし」第1回が示していました。さすが我が愛する朝ドラです。

榊マリコがお気に入りの私は、19年に放送された「小吉の女房」(BSプレミアム)も見ました。沢口さんは無役の武士・小吉の女房・お信を演じていました。お信もまた、世事には疎いけれど優しく、おかしいことはおかしいという女性でした。息子の麟太郎が後の勝海舟。終わってみれば、「正義とは何か」がテーマだとわかる。そんな時代劇だったからこそ沢口さんが主演に選ばれたのでしょう。いや、沢口さんが主演だから、そんな時代劇になったのかもしれません。

生きていると、ウロウロします。少しうまくいかないことがあると、自分への自信が揺らぎます。誰かに合わせた方がよかったなと後悔し、今からでも誰かに合わせようかなと思ったりします。沢口さんだって、ウロウロすることがあるかもしれません。でも女優としての沢口さんは、35年前から一本道を歩いていました。

人に合わせずに来たんだな、その原点は朝ドラだったんだな。私も私で歩まねば。そんなふうに思い、ちょっと元気が出た勉強会でした。
 

■もっと知りたい■

矢部 万紀子

1961年生まれ。83年朝日新聞社に入社。「アエラ」、経済部、「週刊朝日」などで記者をし、書籍編集部長、11年から「いきいき(現ハルメク)」編集長をつとめ、17年からフリーランスに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』(ちくま新書)、『美智子さまという奇跡』『雅子さまの笑顔』(幻冬舎新書)

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