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- コム デ ギャルソンとオペラと50歳からの服選び
50代コラムニストの矢部万紀子さんが、30年来愛用し続けているファッションブランド「コム デ ギャルソン」。働く女子なら共感できるブランドとの出会いや50代になって感じる服選びの変化、「コム デ ギャルソン」についてたっぷり語っちゃいます。
川久保玲さんが、オペラの衣装を手掛けることに
「SWITCH」2020年3月号がコム デ ギャルソンを特集していると聞き、早速入手しました。
デザイナー・川久保玲さんが率いる大好きなファッションブランドで、かれこれ30年近く愛用していると思います。川久保さんのインタビューも載っていました。
2019年12月、川久保さんはウィーン国立歌劇場で上演されたオペラ「オーランドー」の衣装を手掛けました。「オーランドー」の原作者はヴァージニア・ウルフです。彼女が後の英米文学に大変な影響を与えたということは知っていましたが、「オーランドー」については「SWITCH」に掲載された柴田元幸さんの部分訳を読むまで知りませんでした。
30歳までは男性だった英国貴族がある日突然女性になり、そこから数百年を生きるという話でした。オペラになったのは初めてで、作曲したのはオルガ・ノイヴィルトという女性。2019年に150周年を迎えたウィーン国立歌劇場で女性作曲家が起用されたのは、初めて。これも「SWITCH」を読んで知ったことです。
川久保玲さんの思想を感じる?
オルガは衣装デザインを川久保さんに依頼した理由について、こう言っています。『主人公の男性から女性への変化、ジェンダーノーム(性別規範)について考えていて、川久保玲につながる世界だと感じたのです。彼女は常にファッションの中の規範や人間の身体、肉体について疑問を持っていると感じていました』
オルガは川久保さんがデザインするコム デ ギャルソンの「思想」を語っているのだと思います。ですが、ギャルソン愛用者としては、日々「思想」を感じて着ているわけではありません。そもそも私とコム デ ギャルソンの出会いは、会社をさぼって行った某百貨店でした。すっごくかわいいいワンピースに目が止まり、吸い込まれたのがコム デ ギャルソン、即買いしたのです。
30歳を過ぎた頃で、仕事に悩んでいました。だから、さぼって百貨店をウロウロしていたのです。暗い心に明かりが灯った。ワンピースとの出会いは、少し大袈裟に言うならそんな感じでした。コム デ ギャルソンがフランス語で「少年のように」であること、1982年のパリコレで発表した黒の穴あきニットがファッション業界に大変な衝撃を与えたこと、どちらもだいぶ経ってから知りました。
愛用者として私なりにコム デ ギャルソンを語るなら、「自由」があるのです。誰かの好みに合わせるのでなく、自分のための服だと感じます。具体的にいうなら、ウエストやヒップを締め付けるデザインは、コム デ ギャルソンにはないと思います。そういうボディーラインが出る服って、やせた女性のことを好きな男性の目線だよなー、と思うわけです。
若い頃、「彼のお母さまに初めて会う日はこんな服」などという特集をファッション誌で見ると、「ちぇっ」と思いました。戦略としてはわからなくはないが、相手に合わせる発想がどうもなー、などとブツブツ思っていたのです。そんな私の前に現れたのが、コム デ ギャルソン。かわいい。好き。そう思ったので、以来、コム デ ギャルソンと共に自分の感覚でいくぞ、おー、と思ってきたわけです。
50歳を過ぎてから、服が重い。だから、こんな選び方。
話をオペラに戻します。主役のオーランドーを演じたケイト・リンディは、衣装の重さについて話していました。「スーツの衣装は重心が下にあって、でも花のドレスは重心が上にある。だから身体を運ぶ感覚がすべて変わってくる」。他の言葉も合わせて読み解くなら、かなりの重さだったようです。
舞台衣装とショップで売っている服は全く違い、一概に論じることはできません。が、私も50歳を過ぎてから、服の重さに敏感になりました。一番感じるのがコートです。最近は慎重に選んでいます。というのも、少しでも「重い」と感じるとデザインは大好きでも出番が減ってしまうということがわかったからで、試着の際の「重さハードル」を上げております。
そんなことも含め、服を買うとは心が弾むことです。服のことを書くのも、心が弾むと今回わかりました。最後にもう一度、作曲家オルガの言葉を紹介します。
「コム デ ギャルソンはいつも私の心の中にいるのです」
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