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- 「夫さん」に感銘。外れなしの脚本家・坂元裕二ドラマ
50代コラムニストの矢部万紀子さんによる、月2回のカルチャー連載。今回は「カルテット」などの人気ドラマを手掛けてきた脚本家・坂元裕二さんについて。最近の出来事にもつながる、ハッとしたせりふとは?
脚本家・坂元裕二さんのドラマを愛しています
新型コロナウイルスの影響で中断、延期されていたドラマが、徐々にスタートしています。待ち時間、長かったー。
この間、いくつかの「リモートドラマ」を見ました。画面が分割され、どうしても違和感が残る中、一つだけ最高に面白い作品と出合いました。偶然見つけたのではありません。面白いだろうなーと予想して見たら、予想以上に面白かったのです。
坂元裕二さんが書いたドラマと知って、チャンネルをNHKに合わせました。大好きな脚本家なのです。例えばこんなドラマを書いた人です。ある年齢以上の方ならきっと覚えている「東京ラブストーリー」、5歳の芦田愛菜さんがすごい演技をした「Mother」、最近では「最高の離婚」「カルテット」……ほんの一部です。
坂元さんが脚本を書いたリモートドラマは、タイトルもずばり「リモートドラマ Living」。実際の夫婦ときょうだいが出演するのが特徴の全4話でした。家族同士なら、家の中なら、ソーシャルディスタンスをとらなくてもいい。そういう発想です。
1話が広瀬アリス&広瀬すず、2話が永山瑛太&永山絢斗、3話が中尾明慶&仲里依紗、4話が青木崇高&優香(声)。豪華キャストです。すべてがホームドラマなのですが、とある作家(阿部サダヲ)が書いたファンタジー小説という仕掛けになっています。とにかく楽しいドラマでした。
第1話には爆笑しました。広瀬姉妹はなんと、絶滅危惧種のネアンデルタール人なのです。もちろん見かけはホモサピエンスです。姉のシイ(25歳)はダンスインストラクター、妹クコ(21歳)は無職、普通に暮らしています。種を絶やさないためにはネアンデルタール人と結婚しなくてはなりませんが、絶滅危惧種だけに人数が少なく、オス(と二人は言います)との出会いがすごく少ないのです。
ホモサピエンスの“野本くん”が話題になります。「その野本くんってオスの人、どんな人なの?」「ちょっと悪っぽくて、でもちょっとかわいいところもあってー」「あー、そりゃしょうがないね。ホモサピエンスのメスはね、ちょっと悪っぽくて、ちょっとかわいいところもあるオスが大好きだからね」
広瀬アリスさんはコメディエンヌの才能ありと知っていましたが、すずさんも才能ありありでした。
他には、こんな会話も。
「ホモピエンスは優しいよー」
「優しいんじゃないよ。ただコミュ力が高いだけだよ。あいつら裏表あるし、社会の輪の外から出たら露骨にいじめてくるからね。しかも、あいつら長く歩けないし」
少し皮肉が効いた会話も、坂元さんの持ち味の一つです。
「ご主人」と呼ぶ違和感を「夫さん」ですっきり解決した「カルテット」
私が「一生、坂元さんについていこう」と決めたのは、「カルテット」を見たときです。4人の30代男女(松田龍平&高橋一生&松たか子&満島ひかり)の話で、松さん演じる真紀だけが既婚という設定でした。4人は共同生活をするのですが、それが決まる前、こんなせりふが真紀に投げ掛けられます。
「泊まりとなると、夫さんに叱られちゃいますよね」
え、「夫さん」って言った? 頭の中で問い掛けました。その場はそれで終わりでしたが、それ以後3人は「夫さん」と普通のように言うのです。「夫さんとケンカでもしたんですか?」「夫さんはどっち派ですか?」
誰かの夫にあたる人をどう呼ぶか、悩ましいと思っていました。「ご主人」が普通ですが、妻が「使用人」みたいで抵抗があります。「旦那さん」も「パートナー」も、どうもしっくりきません。そこに「夫さん」。「娘さん」と同じです。シンプルです。坂元さんに、ついていこう。そう決めました。
「主人」と書いた佐々木希さんの謝罪の言葉
最近、お笑いタレントの渡部建さんが複数の女性と不倫をしていたと報じられました。しばらくして、妻でタレントの佐々木希さんがインスタグラムに謝罪の言葉を載せたという報道も目にしました。
「この度は、主人の無自覚な行動により多くの方々を不快な気持ちにさせてしまい、大変申し訳ございません」。そう佐々木さんは書いたそうです。一番不快だったのは、佐々木さんだったはずです。なのに、謝罪して、夫を「主人」と呼んでいるのです。
佐々木さんの気持ちはわかりません。読んでいて、少し苦しくなる文でした。
夫を「主人」と呼ぶこと、誰かの夫を「ご主人」と呼ぶこと。まだまだ当たり前です。少し窮屈な世の中に、新型コロナウイルスまでやってきました。坂元さんのドラマは、いつも風穴を空けてくれます。
矢部万紀子(やべ・まきこ)
1961年生まれ。83年、朝日新聞社に入社。「アエラ」、経済部、「週刊朝日」などで記者をし、書籍編集部長、2011年から「いきいき(現ハルメク)」編集長をつとめ、17年からフリーランスに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』(ちくま新書)、『美智子さまという奇跡』『雅子さまの笑顔 生きづらさを超えて』(ともに幻冬舎新書)
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