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- 小泉今日子に思う50代こそ攻めの姿勢と政治的センス
50代コラムニストの矢部万紀子さんによる、月2回のカルチャー連載。2020年5月「検察庁法改正案」に対して多くの人が異を唱えました。芸能人もSNSを通じて発信する中でひと際輝いていたのが小泉今日子さんです。キョンキョン愛を語らせてください。
55歳、攻めの姿勢で生きる小泉今日子さん
株式会社明後日(あさって)は、小泉今日子さんが代表取締役を務める会社です。2015年2月4日、小泉さんの50回目の誕生日に設立されました。設立挨拶にはこうあります。
「少なくてもあと十年はアクティブに攻めの姿勢で生きたいものです」
それから5年。「あと十年」のちょうど折り返しに当たる20年5月、アカウント「株式会社明後日」のツイッターが注目されました。「#検察庁法改正案に抗議します」というハッシュタグ(※後述説明)を付けた投稿が大きく広がりましたが、「明後日」もその一つだったのです。「代表取締役の小泉今日子が呟きます」と説明されています。このハッシュタグは「ツイッター世論」などといわれるようになり、小泉さんはムーブメントをつくった一人と注目されたわけです。
私は5歳年下の小泉さんが大好きです。「ばっくれる」という言葉を、デビュー間もない小泉さんが使っていて感動したのが最初です。しらばっくれる→ばっくれる。なんて面白い言葉、なんて自由な人。そう思いました。
政治を動かした「#検察庁法改正案に抗議します」
https://twitter.com/asatte2015/status/1259151936369987584
ツイートを振り返ると、「#検察庁法改正案に抗議します」が付いた投稿は5月10日が最初です。その日のうちに「もう一度言っておきます!」と書いて、同じハッシュタグの投稿をしています。その後、改正案を解説する投稿をいくつかリツイートし、次に投稿したのは12日。「私、更に勉強してみました。読んで、見て、考えた。その上で今日も呟かずにはいられない」とありました。
それからいろいろあり、安倍晋三首相が改正案見送りを表明したのが18日夜。小泉さんは翌日、「小さな石をたくさん投げたら山が少し動いた。が、浮き足立ってはいけない。冷静に誰が何を言い、どんな行動をとるのか見守りたい」と投稿しています。
小泉今日子さんの発言には、物事を考えさせる力がある
芸能人は政治的発言をすべきでないという人もいます。おかしな話ですし、小泉さんは堂々とつぶやいています。「アクティブに攻めの姿勢で生きたい」と表明した通りです。
投稿から、小泉さんの勉強ぶりもわかります。例えば5月15日、「泣きました。そして背筋が伸びました。こういう大人にわたしはなりたい」と書いて貼り付けたのは、「検察庁法改正に反対する検察OBの意見書全文」です。読みました。長いです。難しいです。小泉さんは、どこで泣いたのでしょう。ここではないかと思ったのは、最後の「追記」のところです。
この意見書はもっと多数の元検察官に呼びかけるべきだが、とりまとめる私が85歳と高齢で、身体の自由を失っている事情もあり、親しい人に限った。もっと呼びかければ名前を連ねてくれる人も増えると思うが、そのような事情なので、意のあるところを汲み取っていただきたいーーそんな趣旨でした。背筋の伸びる、という表現にぴったりの85歳。そう思いました。
政治についての意見表明には、センスが必要です。ハッシュタグがあればいいですが、ない場合、声の大きさというかトーンというか、それが難しいのです。大声ならよいわけではありません。その点、小泉さん、センスが抜群です。
4月13日に、こんな投稿をしています。「昨日のことは早く忘れよう。音楽の力!」。「Arts Innovator JAPAN」の「オーケストラで『うちで踊ろう』」の紹介でした。若手プロ音楽家60人が、星野源さんの「うちで踊ろう」をリモート演奏しているのです。音楽への愛と確かな技術が伝わる、感動の演奏です。
投稿にある「昨日」、つまり4月12日は安倍首相が「うちで踊ろう」とのコラボ動画をアップした日です。私は「安倍さんのコラボは早く忘れて、このコラボで音楽の力を感じて」と投稿しているのだと勝手に解釈しました。ひと言も書かず、そう解釈させる。さすがのセンスと思います。
「世の中に対して何ができる?」 を考えるお年頃
『小泉放談』(宝島社刊)という小泉さんの本は、「50代以降をどう生きるか」について年上の女性と語る対談集です。初回の相手であるYOUさんに、50歳の小泉さんはこう言っています。「今、私が思うのは『この先、何を残せるのか』っていうことかな。(略)いったい自分は世の中に対して何ができるんだろう? みたいなことを、やっぱり考えたりするんですよねぇ」。ツイートでの意思表示は、「できること」の一つなのだと思います。
もちろん小泉さんは、政治に関することばかりつぶやいているわけではありません。最近はプロデューサーの一人として制作した映画「ソワレ」の紹介を、たくさん投稿しています。「晩夏公開予定」とのことです。
映画館も開き始めました。見に行こうと思っています。
「#検察庁法改正案に抗議します」とは?
内閣の判断で検事総長や検事長の定年引き上げを可能にする「検察庁法改正案」に対して、ツイッター上で反対の意思を示す人が使った言葉です。ツイッター上で「#(ハッシュマーク)」をつけた同じキーワードを投稿することによって、その投稿を検索することができたり、自分と同じ趣味や意見を持つ人に対して情報を共有したり発信できます。
「#検察庁法改正案に抗議します」というハッシュタグをつけた投稿は、10日夜までの2日間で延べ480万件を超え広がりました。(参照:NHKニュース「「検察庁法改正案 日弁連が臨時会見「法案成立急ぐ理由は皆無」)
そしてハッシュタグによる反対世論に加えて、黒川弘務検事長が賭け麻雀をしていたと報道されたことで、「検察庁法改正案」は今国会での成立が見送られることになりました。
矢部万紀子(やべ・まきこ)
1961年生まれ。83年、朝日新聞社に入社。「アエラ」、経済部、「週刊朝日」などで記者をし、書籍編集部長、2011年から「いきいき(現ハルメク)」編集長をつとめ、17年からフリーランスに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』(ちくま新書)、『美智子さまという奇跡』『雅子さまの笑顔 生きづらさを超えて』(ともに幻冬舎新書)
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