同世代アイドルたちの歌を聞き比べて

まりや&薬師丸の人生応援ソング、なぜ居心地が悪い?

公開日:2020/04/02

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50代コラムニストの矢部万紀子さんが、同世代のアイドル、薬師丸ひろ子さんと竹内まりやさんの歌う、「人生応援ソング」について考えます。

薬師丸ひろ子さんが作詞した「アナタノコトバ」

ライブの風景イメージ

大好きな歌がたくさんある薬師丸ひろ子さんのコンサートに行ったのは、2018年2月のことでした。

オープニングで「お仕事や介護などお忙しい中のご来場」への感謝を薬師丸さんが語るのを聞き、ああこの空間は同年代に包まれているのだなあと思ったものです。

2020年になり、「SONGS」(NHK)に薬師丸さんが出ました。最後に歌ったのは「アナタノコトバ」でした。18年5月に出したアルバムに納められた歌だそうで、初めて聞くものでした。作詞は薬師丸さん。「生きていく上で、ちょっと背中を押してくれるような」歌だと、確かそんな説明を自らしていました。

それで思い出したのが、竹内まりやさんの「人生の扉」です。07年に発表され、作詞作曲ともに竹内さん。私は19年に知りました。竹内さんのデビュー40周年にあたるその年、竹内さんの特別番組を見たのです。そこで竹内さんは年齢を重ねることについて語り、「人生の扉」を歌いました。
 

「年を取っても生きる価値がある」竹内まりやの「人生の扉」

サビは「I say it’s fun to be 20 You say it’s great to be 30」から始まり、40歳はlovely、50歳はnice、60歳はfine、70歳はall right、80歳はstill good、90歳もmaybe liveと予測します。そして、弱っていくことはsad、年を取るのはhard、人生はno meaningって言うけれど、と歌い、こう締めくくるのです。

「But I still believe it’s worth living」

人生への応援歌です。ほろ苦さがあるけれど、おしゃれです。薬師丸さんが「生きていく上で、ちょっと背中を押してくれるような」歌だと言っているのを聞き、すぐにこの歌を思い出しました。

一方、薬師丸さんの「アナタノコトバ」は、こう始まりました。「ああ 母のアイロン スチームの匂い 思い出した ああ 夕餉どきの暖かい窓 私はいた」。どうやら「アナタ」は母のようです。では「コトバ」は何でしょうか。「良く生きよう」という言葉が繰り返されます。

薬師丸さんの高い声が、「明日につながる今日を良く生きよう」「争いのない世界なんてない。それでも今日を良く生きよう」と歌っていました。「良く生きよう」とはつまり「いつまでも前向きにいきましょう」。そういうことだと理解しました。

薬師丸さんも、人生を重ねた人を励ましてくれていました。竹内さんが「ほろ苦&おしゃれ」だとしたら、薬師丸さんは「ほろ苦&郷愁」でしょうか。どちらも「シニア心」をわかってるなーと思います。

だって年齢を重ねるとは、思考を重ねるということです。そして、衰えを日々実感することです。「年を取るって素敵よ」とただ言われても、すぐにうなずくほど単純ではありません。だからといってありのままを見せられても、それはそれで楽しいものではありません。だから2人が「ほろ苦」に「おしゃれ」や「郷愁」を足してくれると、心に励ましが入りやすくなる。そんな仕掛けだと思います。
 

年を取ると、励まされるべき存在になる?

My Bouquet(特典なし)
伊藤蘭さんのアルバム「my bouquet」

というわけで、「人生の扉」も「アナタノコトバ」もよい歌です。そのことを前提に正直な気持ちを書くならば、聞いていて少しだけ居心地が悪いのです。応援されていることへの複雑な思い、「励まされるのは励ますべき存在だからよね」などと思ってしまうのです。私は、ひねくれ者なのです。と同時に、まだ年齢を重ねることとの折り合いがつき切れていないのだと思います。

ところで話は変わって、伊藤蘭さんです。2019年、元キャンディーズの蘭ちゃんは41年ぶりに歌手活動を始めました。そのことは知っていましたが、実際に新曲を聞いたのは20年になってからでした。「女なら」という曲でした。作詞は伊藤さんです。昭和歌謡の香りのする曲に合わせ、こう始まります。

「連れて行って どこか遠く ここじゃない場所へ プライドは砂の城 あなたの手で壊して」
何と! 恋愛の歌、しかも背徳の匂いがする歌だったのです。伊藤さんは竹内さんと同じ65歳です。「夢見るほど けなげじゃない 悲しみ選んでも 責めないで」というリフレインを聞きながら、「いいぞ、いいぞ、蘭ちゃん」と思いました。

まじめに励まされるのもよいもので、それが必要なときもあります。でも、恋愛ゴーゴー、背徳ゴーゴー。シニアだって、そんな気分なときもあるのです。伊藤さんの歌をノリノリで聞きながら、「励まされる前に攻めるぞ」などと思った私、59歳です。
 

■もっと知りたい■

矢部 万紀子

1961年生まれ。83年、朝日新聞社に入社。「アエラ」、経済部、「週刊朝日」などで記者をし、書籍編集部長、11年から「いきいき(現ハルメク)」編集長をつとめ、17年からフリーランスに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』(ちくま新書)、『美智子さまという奇跡』(幻冬舎新書)

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