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- 「オススメに乗らないためのおすすめ」木村真理さん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から山本さんが選んだエッセーをご紹介。今月のテーマは「オススメ」です。木村真理さんの「『オススメ』に乗らないための『おすすめ』」と山本さんの講評です。
「オススメ」に乗らないための「おすすめ」
世の中は「オススメ」にあふれている。「かわいらしいオススメ」から「怖―いオススメ」まで。
賞味期限が迫った20円割引のオススメパン。インターネット購入の「一緒にこれもどうですか」「この商品を購入した方はこちらの商品も購入されています」のオススメ。
生命保険の「より保障が充実した商品が出ました」「保険料はちょい上がりますが」と懲りずに送られてくるパンフレットによるオススメ。
そんなものに比べ闇の部分がとてつもなく深いカルト宗教による、善良な市民という「獲物」を獲得し、家庭を崩壊させてきたオススメ。
大学生の時のことである。
小山を一つ越えていく通学路で、あるアンケートに答えた。抽選で海外旅行が当たるという歌い文句。
「まさか」と思いながらも、貧乏学生の自分には海外旅行なんて自費で行けるはずもなく、ちょっとだけ夢を見た。
1週間ほどしてハガキが届いた。
「素晴らしいプレゼントが当たりました。つきましては新宿高層ビル〇〇までお越しください。」暇な大学生は疑いながらも、冷やかし半分で出かけて行った。
今の分別であれば「なんと危ないことを」と思うのだが、若いころは性善説と自分への自信に生きていた。
幸いそこまで悪い会社ではなかったようで、高層ビルの1階のおしゃれな喫茶店でコーヒーをおごってもらい、始まったのが英会話教材のオススメ。
コーヒーを飲み終わるまで、ひとまずおしとやかに説明を聞いてみたが、ここは貧乏学生の強み。
「学費で手一杯、お金ないんで」と英会話の小冊子だけプレゼントにもらってさっさと帰ってきた。
「うまい話はやっぱりないもんだな」と社会勉強し、「オススメ、すばらしいもの、にはだまされないもんね~」と記憶に刷り込ませてきた。
そのはずだったが……
数年前62歳の時、いろいろあってやむを得ず仕事を辞めた時のことである。
それまでは仕事や子育てに追われ、「オススメ」に付き合っている暇はなかった。まれに夜帰宅後に電話が入っても「忙しいんで」「間に合ってまーす」とすぐに受話器を置いてきた。
ところが、退職によって手に入れた今までになかった「暇」は、オススメを迎え入れる隙間を運んできた。
日中に在宅していると様々な勧誘の電話がかかってくる。
マンション購入による資産活用、家のリフォーム、害虫駆除、リサイクル買取など。
ほとんどのお誘いに斜に構えて乗らないのだが、リサイクルという言葉には心が動かされてしまう。
「お洋服、高価買取ります。ブランド物でなくてもOK」の広告に「どうせ捨てるのならだれかに着てもらえて、何百円かになれば」と着ることのなかった服にせっせとアイロンをかけて待つこと数時間。
買い取りに来た業者はきちんと畳んだ洋服にさっと目を通しながら「奥さん、いらなくなった指輪とかネックレスとかないですかね」。
結局貴金属狙いなのだ。ないとわかると洋服代20円を置いてさっさと帰っていった。
「ああ、私の半日を返してくれ」
というわけで、二度目の「社会勉強」をした私は「日々の生活に2つのおすすめ」を手に入れた。
一つ、日中はできるだけ家の電話のそばに近寄らず、健康的に散歩、買い物、ボランティア、庭仕事をする。
二つ、際限のないネットショッピングに引きずり込まれないように、家の中では絵を描き、エッセイを書くことに全精力を注ぐ。
(なるべく、できるだけ……ね)
山本ふみこさんからひとこと
怖―いおススメについて、学ばせていただきました。ご自身の決意も表れていて、「読ませる」作品でした。
さてところで。木村真理さんから、エッセイにはどんなことでも(平和、戦争について、環境問題ほか)書くことができるのだろうかという問いが出されました。
「はい、どんなことでも書けます」と私はお答えしました。ただし、難しい問題に挑むときは、ことさら機嫌よく、慎重に。
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。講座の受講期間は半年間。
現在は第5期の講座を開催中(募集は終了しました)。次回第6期の参加者の募集は、2022年12月を予定しています。詳しくは雑誌「ハルメク」2023年1月号の誌上とハルメク365WEBサイトのページをご覧ください。
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