通信制 山本ふみこさんのエッセー講座第5期第2回

エッセー作品「お見事!」かわばたえつこさん

公開日:2022.11.30

随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から山本さんが選んだエッセーをご紹介します。 今月の作品のテーマは「オススメ」です。かわばたえつこさんの作品「お見事!」と山本さんの講評です。

「お見事!」
エッセー作品「お見事!」かわばたえつこさん

お見事!

家電製品は「壊れるまで買わない」というのが、我が家のルールである。
ルールといえばおおげさだが、「壊れるまで大切に使おう」、というのが暗黙の了解であった。だから、年末にテレビの画面が映らなくなり、楽しみにしていた「紅白歌合戦」が見られないと、家中大騒ぎになったこともある。
それなのに、先日、毎日使っていて、全く壊れてもいないのに、新しいヘアドライヤーを買ってしまった。

娘は東京で電機メーカーの販売会社に勤めているが、我が家で新しい家電を買う時は、
「どこのメーカーでも好きなのを買えばいいのよ」
と言って、自分の会社の製品を勧めることはめったにない。親心としてはそのメーカーの製品をと思いながら、家電はその時々で好みのものを選んでいた。

娘一家は、これまでは年に1、2度帰省していたが、このコロナ禍でほとんど帰ることが出来なくなった。
その代わりにスマートフォンに孫たちの画像がたくさん送られてくる。
学校の行事やサッカーの試合、バレエのレッスン、そして何気ない日常の1コマなど、まさにスマホ時代ならではの恩恵で、いつも楽しみに見ている。

その中に、小学1年生になった孫娘がドライヤーを使って、楽しそうに髪を乾かせている動画があり、特に説明もないのだが、妙に感心して見入ってしまった。
ふと、自分自身が小学1年生の時、ドライヤーが使えただろうかと考えてみた。そもそも、その時代には、家庭にドライヤーなどなかったではないか。
では、娘が1年生の時は、どうだっただろうか。当時でも、子どもはタオルで頭をふいて水気を取り、自然に乾燥させていただけだったはずだ。
そんなことを考えながら見ていると、右に左に器用にドライヤーを髪に当て、あっという間に乾かした孫娘のつやつやの頭に、天使の輪と言われる光の輪が輝いた。
最後におかっぱの頭を小さく左右に振って、照れながら少し誇らしげに笑うしぐさは、幼児というよりは少女のもので、しばらく会わないうちに成長したのだなあと感慨深かった。

それから急に新しいドライヤーが欲しくなった。
我が家のものは熱い風が出るのに風量は少なく、髪を乾かすのに時間がかかる。でも、壊れているわけではない。
それに孫娘が使っていたのは、ヘアドライヤーとしてはかなり値段がはる製品だった。
しかし、オンラインショップで少し値下がりしたのを見て、指がポチっと購入を押していた。

早速、娘に新しいドライヤーを購入したことを報告した。
「ほら、うちのメーカーのドライヤーはいいでしょう」
私はいつのまにか、彼女の販売戦略にのせられていたようだ。

山本ふみこさんからひとこと

そも「壊れるまで買わない」というルール、すばらしいですね。しかしこのたびばかりは、ルール破り。ドライヤーです。全編情景が目に浮かびます。ていねいに描けています。細部の大切さが伝わるではありませんか!

「紅白歌合戦」。天使の輪。指がポチッと。お嬢さんの販売戦略。

お見事です。 

通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは

全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。講座の受講期間は半年間。

現在は第5期の講座を開催中(募集は終了しました)。次回第6期の参加者の募集は、2022年12月を予定しています。詳しくは雑誌「ハルメク」2023年1月号の誌上とハルメク365WEBサイトのページをご覧ください。


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ハルメクならではのオリジナルイベントを企画・運営している部署、文化事業課。スタッフが日々面白いイベント作りのために奔走しています。人気イベント「あなたと歌うコンサート」や「たてもの散歩」など、年に約200本のイベントを開催。皆さんと会ってお話できるのを楽しみにしています♪

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