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- エッセー作品「夜行列車」西山聖子さん
「家族」をテーマにしたエッセーの書き方を、エッセイストの青木奈緖さんに教わるハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から青木さんが選んだエッセーをご紹介します。西山聖子さんの作品「夜行列車」と青木さんの講評です。
夜行列車
毎年、2月の祖母の命日が近づいて来ると思い出すことがある。
42年前、青森に住んでいた大学4年生の私は、卒業と同時に国家試験を控え、毎日必死に勉強する日々を送っていた。
そんなある日、部屋の黒電話が鳴り、東京の実家の母から祖母が危篤であることを伝えられた。
前の年に叔母と兄と3人で青森まで観光がてら訪ねてくれた、あんなに元気な祖母がまさかと思ったが、91歳という年齢を考えればあり得る現実だった。
私は、その日のうちに夜行列車に乗り上野に向かった。
実家の畳の部屋で、祖母は静かに目を閉じていた。
この歳まで一人暮らしをしていたが、1週間前に風邪をひいたようだと娘の家に来た途端、安心したのかそのまま寝込んでしまったそうだ。
枕もとに座った私は、「おばあちゃん、帰ってきたよ」と耳元で大きな声で話しかけた。
すると、祖母の片方の目から一筋の涙が頬をつたった。
間に合って良かったと心から思った瞬間だった。
その数時間後、医者であり婿であった父に看取られて、祖母は旅立った。
自宅でのお通夜、葬儀と沢山の方に見送って頂き、私が大学へ戻る支度をしていると、母が「実は貴方に電話するかどうか、すごく迷っていたの」と打ち明けた。
皆でどうしたら良いか話し合う中、親戚のお姉さんが
「国家試験はまた、来年も受けることができるけど身内とのお別れは一度きりだから知らせた方がいいと思う」
ときっぱりと言ってくれたので、母も納得して受話器を取ったのだと教えてくれた。
人生にはその時しか出来ない事が一度か二度はあるのだろう。大切な人とのお別れもきっとその時だけのこと……。
国家試験まであと3日。帰りは少しでも早くと思い、羽田空港から飛行機に乗った。
1時間後、乗客のほとんどいない機内にアナウンスが流れる。
三沢空港の上空まで来ているが、滑走路が凍っているため着陸できず、このまま羽田空港へ引き返すとの内容。
この時、不思議と私は焦らなかった。むしろ腹が据わった。
羽田から上野駅へ。再び夜行列車に揺られて青森へ戻り、試験には何とかぎりぎり間に合った。
開き直ったのが良かったのか、祖母が力をくれたのか、無事に試験に合格した私は、その資格のお陰で、これまで仕事を続けてこられた。
時代の流れと共に、上野発の夜行列車は年々、姿を消していくようだ。
青木奈緖さんからひとこと
「死」は「誕生」と同様、家族の歴史の重要な一部分です。エッセーとして大切な人の思い出を書き留めたいと思う方が多くいらっしゃいます。
この作品では死をただひたすら悲しい別れではなく、亡くなられたお祖母様からのバトンの受け渡しの瞬間として捉えられています。悲しみを胸に前を向いて進んで行こうという意思が読者を勇気づけてくれるでしょう。見事にまとまった作品です。
ハルメクの通信制エッセー講座とは?
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回家族の思い出をエッセーに書き、講師で随筆家の青木奈緖さんから添削やアドバイスを受けます。書いていて疑問に思ったことやお便りを作品と一緒に送り、選ばれると、青木さんが動画で回答してくれるという仕掛け。講座の受講期間は半年間。
現在、参加者を募集中です。申込締切は2022年7月26日(火)まで。詳しくは雑誌「ハルメク」7月号の誌上とハルメク旅と講座サイトで開始します。
■エッセー作品一覧■
- 青木奈緖さんが選んだ3つのエッセー第3期#5
- 青木奈緖さんが選んだ3つのエッセー第3期#6
- 青木奈緖さんが選んだ3つのエッセー第4期#1
- エッセー作品「若夏のころ」塚原明子さん
- エッセー作品「夜行列車」西山聖子さん
- エッセー作品「『ちゃあちゃあん』の頃」林宏子さん
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