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- エッセー作品「あなたの心が知りたい」松本 宏美さん
「家族」をテーマにしたエッセーの書き方を、エッセイストの青木奈緖さんに教わるハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から青木さんが選んだエッセーをご紹介します。松本宏美さんの作品「あなたの心が知りたい 」と青木さんの講評です。
あなたの心が知りたい -会話不能の子供との生活-
息子には、重度の知的障害を伴う自閉症という障害があります。
現在は成人していますが、知能は2歳児から3歳児くらい。生活に関しては全面的に援助が必要で、子育てというよりは介護といえるでしょう。物の名前は多く記憶していますが、それを文章化して言葉にすることができません。簡単に言うと、意思の疎通が困難です。
今は、生活のパターンが決まっていますので、簡単な指示を通じて生活はできますが、何が食べたいのか、何をしたいのか、どこが痛いのか、うれしいのか悲しいのか、すべての思いを表せないというのは、つらい障害特性です。
幼少期には摂食障害があり偏食で、グミとごはんと納豆とラーメンしか食べない時期が長く続き、給食もほとんど食べず、痩せていて、食事を与えていないのではないかと疑われたこともあります。
宝物だったはずの息子が時々得体のしれない生き物に思えて、苦しみました。
「彼は生きていたくないのかな。それなら一緒に死のうかな。この人生に希望なんてないものね。私たち、息を殺してかくれているだけだもの」
私自身がうつ病を発症し食事がとれなくなった頃、透視能力があるという人に会いに行きました。スピリチュアルなものを特別信じてはいませんでしたが、当時は藁にも縋る気持ちでした。
その人は、家族3人の前世からの関係性を話してくれた後、息子の写真を見ながら、しばらく黙って泣いていました。
息子の障害内容については話していませんでしたが、
「彼は心の中では、とってもおしゃべりさんね。彼の悲しみはお母さんとしゃべれないこと。その悲しみが伝わって、涙が止まらなかったの」
その人と別れ外へ出ると、夜になっていて、4時間近く経っていました。携帯に心配した夫からのメールがたくさん入っていてびっくりしました。彼女が語ったことが、すべて事実だったかはともかく、今でも泣き顔だけは鮮明に覚えていて、胸の苦しさが少し和らぐのです。
息子の悲しみを一緒に泣いてくれる人が必要だったのだと思います。
重ねるというより、色々なことをあきらめて、削りながら暮らしてきて、重箱の隅をつついてもいいことがなかなか見つかりませんでした。
「つついてまで幸せを探さなくてもいいのかな」
そう思える日が来たらいい。息子の心に、にこにこしている私の顔を残したい。それが、今の目標であり希望です。
ちょっと違うかな。
今は身長180センチに育った息子においしい晩御飯を作ること。それが今日の目標です。
青木奈緖さんからひとこと
通信制エッセー講座の参加者同士、横のつながりを実感する機会は少ないかもしれません。その意味で、この講座作品集のページが大切な役割を果たしています。
私にとっては初めての講座で、皆さん縁あってお集まりの方々と思っています。そして、これは偶然なのか、不思議なめぐり合わせなのか、今回の講座には自閉症の息子さんがいらっしゃるお母様がおふたり参加なさっていました。
もちろん、状況はそれぞれ異なるでしょう。けれど、抑制の効いた書き方はおふたりに通じるものがあり、これまでどれだけ感情の波を超えていらっしゃったかと拝察します。
時間に鍛えられ、思考を重ねた上での文章です。松本様の持ち味は、余分なものを削ぎ落とした文章で読者の心に感情の渦を起こす筆力です。ずっしりした重みがあります。
ハルメクの通信制エッセー講座とは?
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回家族の思い出をエッセーに書き、講師で随筆家の青木奈緖さんから添削やアドバイスを受けます。書いていて疑問に思ったことやお便りを作品と一緒に送り、選ばれると、青木さんが動画で回答してくれるという仕掛け。講座の受講期間は半年間。
次回の参加者の募集は、2021年7月に雑誌「ハルメク」の誌上とハルメク旅と講座サイトで開始予定。募集開始のご案内は、ハルメクWEBメールマガジンでもお送りします。ご登録は、こちらから。
■エッセー作品一覧■
- 青木奈緖さんが選んだ5つのエッセー#2
- 青木奈緖さんが選んだ5つのエッセー#3
- 青木奈緖さんが選んだ3つのエッセー#4
- エッセー作品「普通のクリスマス」澤井 励子さん
- エッセー作品「あなたの心が知りたい」松本 宏美さん
- エッセー作品「最後の靴」田久保 ゆかり
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