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HRTは、更年期以降のQOLを上げる手段
更年期障害対策の切り札、ホルモン補充療法とは?
対馬ルリ子女性ライフクリニック銀座 院長
対馬ルリ子
公開日:2020.08.21
更新日:2022.09.26
更年期の症状は、閉経により女性ホルモンの分泌が急激に減ることによって引き起こされます。更年期障害の根本的な解決手段になりえる治療方法、ホルモン補充療法(HRT)について解説します。
ホルモン補充療法(HRT)とは?主な効果は?
HRT(ホルモン補充療法)とは、更年期を迎えて閉経が近づき、女性の体の中で分泌が低下していくエストロゲンの不足によって生じる心と体の不調を、エストロゲンを薬で補う治療法です。
閉経後の女性の体に欠乏しているエストロゲンを補うことで、ホットフラッシュ症状(のぼせ、ほてり)や異常発汗などの症状を改善したり、性器の萎縮で起こる膣炎や性交痛を改善したり、骨粗しょう症を防いだりする効果をもたらしてくれることが明らかになっています。
またこれ以外にも、意欲や集中力の低下を回復させ、気分の落ち込みを和らげてくれる効果や、悪玉コレステロールを減らし、善玉コレステロールを増やし、血管のしなやかさを保ち、動脈硬化を防ぐ効果や、皮膚のコラーゲンを増やして、肌の潤いを保つ効果、頻尿・尿もれなどの改善効果なども確認されています。
ホルモン補充療法(HRT)の薬の種類は?
HRTの薬のうち、エストロゲン製剤には、飲み薬、貼り薬、塗り薬があります。
エストロゲン製剤
- 飲み薬…錠剤の薬で、胃腸で吸収されます。皮膚のかぶれなどが気になる人に適しています。
- 貼り薬…下腹部などに張って皮膚から吸収します。胃腸や肝臓の弱い人に適しています。500円玉大のシールを2日に1回貼るだけなので簡単です。
- 塗り薬[TH2] …下腹部や内股に塗る薬で皮膚から吸収します。毎日塗る場合が多いので貼り薬より手間がかかりますが貼り薬でかぶれる人向きです。胃腸や肝臓の弱い人に適しています。
プロゲステロン(黄体ホルモン)製剤
子宮があり、閉経して時間が経過していない人には、子宮体がんを予防するためにプロゲステロン(黄体ホルモン)製剤を使用します。錠剤の飲み薬です。また、子宮内に留置して黄体ホルモンを放出するバー(愛称:ミレーナ)を併用する方法もあります。
エストロゲンとプロゲステロン(黄体ホルモン)の配合剤
1錠の中にエストロゲンとプロゲステロンが配合されている飲み薬で、1つの薬ですむので便利です。
ホルモン補充療法(HRT)の投与方法とは?
HRTは大きく分けて2つの投与方法があります。
- エストロゲン単独療法…子宮摘出後の女性にエストロゲン製剤のみを投与する方法です。エストロゲン製剤を毎日使う方法と、周期的に休薬期間を作って使う方法があります。
- エストロゲン・黄体ホルモン併用療法…子宮のある女性にエストロゲン製剤と黄体ホルモン製剤を投与する方法です。エストロゲンと黄体ホルモンを、それぞれ休薬期間を設けて使う方法と、黄体ホルモンだけ休薬期間を設けてエストロゲンは毎日使い続ける方法、
エストロゲンも黄体ホルモンも毎日使い続ける方法があります。また、子宮内に留置して黄体ホルモンを放出するバー(愛称:ミレーナ、1回入れたら5年間持続的に放出されるもの)を併用する方法もあります。
ホルモン補充療法で改善する、更年期障害の症状とは?
ではホルモン補充療法で、実際にどんな更年期障害の症状が改善するのでしょうか。
株式会社QLife(キューライフ)が、HRTを受けた500人を対象に2015年に調査した「更年期におけるホルモン補充療法(HRT)関する実態調査」によると、「ホルモン補充療法(HRT)を始めて更年期障害の症状が改善した」と答えた人は71.3%でした。
中でも改善された症状として多く挙げられたのが、「急に顔がほてる(49%)」「汗をかきやすい(38.3%)」「頭痛、めまい、吐き気がよくある(20.6%)」「怒りやすく、イライラする(19.7%)」「くよくよして、憂鬱になる(15.5%)」「寝つきが悪い、眠りが浅い(14.4%)」「息切れ、動悸がする(13.5%)」「疲れやすい(10.1%)」等でした。
HRTを始めたことによって、QOLがどの程度変わったのかという質問では、更年期障害によって、「まったく日常生活ができない」「手につかないほど苦しい」「手につくが苦しい」と感じていた人が61.2%いましたが、HRT後は13.2%まで減少。ホルモン補充療法を行った、74%の人が更年期でも支障を感じていないことがわかりました。
HRTを行えない、注意が必要なのはどんな人?
HRTを行えない人
- 乳がん、子宮体がんの治療中の方
- 血栓症、心筋梗塞の既往がある方
- 重い高血圧、心臓病、肝臓病の方
HRTを受ける際に注意が必要な人
- 肝臓が悪い人、高血圧や糖尿病、子宮筋腫がある場合
投与方法や投与量をコントロールしながら行う必要があります。主治医と相談しながら、治療をしましょう。
- タバコを吸う人
タバコを吸う人は同時に禁煙治療をしましょう。禁煙すると、体調がよくなるだけでなく、全身の健康度が飛躍的に増し、肌つやもよくなるでしょう。
HRTは必ず医師の指示の下で!
ホルモン補充療法は、常にかかりつけの婦人科医と相談しながら二人三脚でよく話し合い、定期的な健診で身体の状態をチェックし、自分の体や更年期症状の変化とともに投与方法や投与量をコントロールしながら、施行していくことが大切です。
ホルモン補充療法(HRT)を始めた頃に感じる症状、副作用は?
HRTをスタートするとき、不正出血・乳房のはりや痛み・おりもの・下腹部のはり・吐き気などが起こることもまれにありますが、エストロゲン欠乏状態からエストロゲン補充状態に慣れ始める1~2か月くらいで治まるものがほとんどです。
HRTを始めると、月経のような出血が起こることもありますが、避けたい場合は薬の種類や量、組み合わせで避けることもできますので、医師に相談しましょう。
女性ホルモンの薬を治療に使うとなると、「副作用」を気にする人も多いようです。「副作用で太る」とか「がんになりやすい」などの誤ったイメージを抱いている人もいるでしょう。
しかしHRTに用いられている女性ホルモン薬は、50年以上にわたり研究されてきた実績があり、とても安全です。50代以上の女性はHRTを使うメリットがデメリットよりも大きく上回ることが明らかになっています。また通常のHRTでは乳がんのリスクは上がりませんし、エストロゲンとプロゲステロンという2種類の女性ホルモンを併用すれば、子宮体がんのリスクを低くします。
もちろん使用上の注意点はいくつかありますが、かかりつけ医師と相談しながら、安全に治療を進めることができます。
HRTと乳がんリスクの関係は?
HRTで女性ホルモンを補充すると乳がんリスクが高まるのでは……と心配に思うかもしれませんが、エストロゲンの単独でのHRTでは、乳がんの明らかに増加は認められません。
エストロゲンとプロゲステロンの併用をしたHRTでも、乳がんリスクは軽度の肥満などの生活習慣のリスクと同等か、それ以下という研究結果が出ています。そのため、現在ではHRTによる乳がんリスクは小さいと考えられています。
乳がんになるリスクと考えられている主な要因
3.67倍……乳腺疾患(異形過形成)の経緯がある
2.26倍……初産経験が35歳以上(初産年齢25歳未満の女性と比較した場合)
2.10倍……乳がんになった家族(親、姉妹、子)がいる
1.56倍……出産経験なし(初産年齢25歳未満の女性と比較した場合)
1.2~1.4倍……閉経後にエストロゲンと黄体ホルモンを併用したHRTを行った
1.03倍……閉経後女性の肥満(BMIが2増えた場合)
0.68倍……3回以上出産している(未産婦と比較した場合)
※化学的根拠に基づく乳がん診療ガイドライン2.疫学・診断編2011年版より抜粋して作成
さらにHRTを受ける際には、乳がん検診で異常がないことを確認する必要があるため、毎年乳がん検診を確実に受ける必要がありますから、乳がんの早期発見や早期治療に役立ちます。
正しい知識を持たずに、思い込みや誤解で「ホルモン治療は怖い」と切り捨ててしまうのはもったいないことです。むしろ自分自身の健康に関する知識を得るチャンスと考えましょう。更年期で次から次へと現れる心身の不調に悩まされている人は、ぜひ検討してみてください。
次回は、ホルモン補充療法の金額や継続期間などをお伝えします。
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