更年期とは?症状・原因・治療法・よくある質問【医師監修】
更年期とは?症状・原因・治療法・よくある質問【医師監修】
公開日:2025年09月26日
この記事3行まとめ
✓更年期は閉経前後の約10年間に女性ホルモンが急減し心身に不調が起こること
✓50代以上になると症状が変化・長期化も。一人で悩まず婦人科に相談しましょう
✓ホルモン補充療法や漢方、生活習慣の見直しで穏やかに乗り越えることが可能です
更年期とは?
更年期とは、女性が閉経を迎える前後の約10年間(一般的に45歳~55歳頃)を指す言葉です。この時期、卵巣の機能が徐々に低下し、女性ホルモンである「エストロゲン」の分泌が急激に減少します。
このホルモンの大きなゆらぎに体がついていけず、心や体にさまざまな不調が現れることがあります。これが「更年期症状」です。そして、症状が重く日常生活に支障をきたす状態を「更年期障害」と呼びます。
50代以上のみなさんにとっては、まさに人生の大きな節目。子育てが一段落したり、仕事での役割が変わったりと、生活環境も変化する中で、これまでとは違う心身の不調に戸惑われる方も少なくありません。でも、安心してください。更年期は誰にでも訪れる自然な変化であり、正しい知識を持って適切に対処することで、健やかに乗り越えていくことができます。
よく見られる身体的症状
エストロゲンの減少は、自律神経のバランスを乱し、体にさまざまなサインを送ります。50代以上の女性が特に感じやすい身体的症状には、以下のようなものがあります。
- ホットフラッシュ・のぼせ・発汗:突然、顔がカッと熱くなったり、上半身からのぼせるように感じたり、じわっと汗が噴き出す症状です。周りの人は涼しい顔をしているのに、自分だけ汗が止まらない……といった経験はありませんか?
- 肩こり・腰痛・関節痛:以前からのこりや痛みが、さらに強くなったように感じることがあります。特に手指の関節に痛みやこわばり(ヘバーデン結節など)が現れることも、この時期の特徴です。
- 疲れやすさ・だるさ:十分休んだはずなのに、朝から体が重く、気力が湧かない。そんな経験をされる方も多くいらっしゃいます。
- 頭痛・めまい・耳鳴り:天候やストレスに関係なく、ズキズキとした頭痛や、ふわふわとしためまいに悩まされることがあります。
- 動悸・息切れ:ちょっとした動作で心臓がドキドキしたり、息が苦しくなったりします。
- 不眠:寝つきが悪い、夜中に何度も目が覚める、朝早く目が覚めてしまうなど、睡眠の質が低下しがちです。
- 皮膚の乾燥・かゆみ、ドライアイ:エストロゲンは肌や粘膜の潤いを保つ働きも担っているため、減少すると全身が乾燥しやすくなります。
- 頻尿・尿もれ・膣の乾燥(GSM):泌尿生殖器の粘膜も乾燥・萎縮しやすくなり、トイレが近くなったり、くしゃみで尿がもれたり、性交痛を感じたりすることがあります。
心理的な変化
体の変化だけでなく、心のバランスも揺らぎやすくなるのが更年期の特徴です。これは決して「気持ちの問題」ではなく、ホルモンバランスの乱れが脳の神経伝達物質に影響を与えるために起こります。
- イライラ・怒りっぽい:ささいなことでカッとなったり、家族や同僚にきつくあたってしまい、後で自己嫌悪に陥ることも。
- 不安感・気分の落ち込み:理由もなく急に不安になったり、ゆううつな気分が続いたりします。「自分はダメになってしまったのでは」と感じる方もいらっしゃいます。
- 意欲の低下・集中力の散漫:これまで楽しめていた趣味に興味がなくなったり、仕事や家事に集中できなくなったりします。
- 記憶力の低下:人の名前が思い出せない、物をどこに置いたか忘れるなど、「もしかして認知症?」と不安になることもありますが、多くは更年期の一時的な症状です。
厚生労働省の「令和4年度 更年期症状・障害に関する意識調査」によると、更年期についての実態が見えてきます。
- 症状の自覚:40代・50代の女性のうち、何らかの更年期症状を自覚している人は半数以上にのぼります。
- 医療機関の受診状況:驚くべきことに、症状を自覚していても医療機関を受診していない女性が、40代で約8割、50代でも約8割近くに達しています。「このくらいで病院に行くのは大げさ」「どうせ年のせい」と我慢してしまう方が非常に多いのが現状です。
- 日常生活への影響:症状を自覚している人のうち、40代で約34%、50代で約27%が「仕事や家事に影響がある」と回答しており、生活の質(QOL)が大きく低下している実態がうかがえます。
このデータは、多くの女性が一人でつらさを抱え込んでいる現実を示しています。しかし、更年期は適切なケアで必ず楽になる時期です。決して一人で我慢しないでください。
更年期の原因とメカニズム
主な原因
更年期の不調は、決して一つの原因で起こるわけではありません。以下の3つの要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。
1. 生理学的要因
最大の原因は、卵巣機能の低下による女性ホルモン(エストロゲン)の急激な減少です。エストロゲンは、月経や妊娠だけでなく、自律神経、骨、皮膚、血管、脳の働きなど、女性の心身の健康を幅広く支えているホルモンです。この”守り神”のようなホルモンが急激に減少することで、司令塔である脳が混乱し、自律神経のバランスが崩れ、心身にさまざまな不調を引き起こすのです。
2. 環境的要因
50代以上になると、女性を取り巻く環境は大きく変化します。
- 仕事上の役割の変化:責任ある立場になったり、逆に役職定年を迎えたり。
- 家庭内の変化:子どもの独立、夫婦関係の変化、親の介護など。 これらの環境の変化が大きなストレスとなり、更年期症状を悪化させる一因となります。
3. 心理社会的要因
この年代の女性が持つ特有の気質や考え方も影響します。
- 真面目で責任感が強い:「母として、妻として、社会人として、完璧でなければ」と頑張りすぎてしまう。
- 人に頼るのが苦手:弱音を吐けず、すべて自分で抱え込んでしまう。 このような性格傾向が、知らず知らずのうちに心身の負担を増やし、症状を重くしてしまうことがあります。
発症メカニズム
「エストロゲンの減少」が、どのようにしてホットフラッシュやイライラにつながるのでしょうか。
- 卵巣機能が低下し、エストロゲンの分泌が減ると、脳の視床下部という場所にある司令塔が「もっとエストロゲンを出しなさい!」と指令を出します(ゴナドトロピン放出ホルモンを分泌)。
- この指令を受け、脳の下垂体は卵巣を刺激するホルモン(卵胞刺激ホルモン:FSH)を大量に分泌します。
- しかし、機能が低下した卵巣は、その指令に十分応えることができません。
- この一連のフィードバックの混乱が、同じく視床下部がコントロールしている自律神経(体温調節、発汗、心拍、感情などを司る)の働きまで乱してしまいます。
- その結果、体温調節がうまくいかなくなりホットフラッシュが起きたり、感情のコントロールが難しくなってイライラしたりするのです。
リスク要因
すべての女性が更年期を迎えますが、症状が重くなりやすい(更年期障害になりやすい)方には、いくつかのリスク要因が指摘されています。
- 几帳面、完璧主義、神経質な性格
- 運動習慣がない、または過度な運動をしている
- 食生活の乱れ(偏食、欠食など)
- 喫煙、過度な飲酒
- 人間関係のストレス(家庭、職場など)
- 過去に月経前症候群(PMS)やマタニティブルーが重かった方
これらに当てはまるからといって必ずしも重症化するわけではありませんが、ご自身の生活を見直すきっかけとしてみてください。
診断方法と受診について
「これって更年期?」「病院に行くべき?」と迷ったら、ぜひこのセクションを参考にしてください。
いつ受診すべきか
日常生活に支障が出始めたら、それが受診のサインです。
- ホットフラッシュで仕事に集中できない、夜中に何度も目が覚めてしまう
- 気分の落ち込みが続き、何もやる気が起きない
- めまいや動悸がひどく、外出するのが怖い
- 関節の痛みが強く、家事をするのがつらい
- 症状のせいで家族や周囲の人との関係がギクシャクしている
このような状態であれば、我慢せずに専門医に相談しましょう。また、不正出血が続く、胸のしこりがあるなど、更年期症状とは異なる病気のサインが見られる場合も、速やかな受診が必要です。
診断の流れ
婦人科などを受診すると、一般的に以下のような流れで診断が進められます。
1. 問診で確認すること
医師は、あなたの症状を詳しく知るために、いくつかの質問をします。これが診断の最も重要な手がかりになります。リラックスして、ありのままを伝えてください。
- どのような症状が、いつから、どのくらいの頻度でありますか?
- 月経の状況(周期、出血量、最終月経はいつか)
- 過去の病気や、現在治療中の病気はありますか?
- 妊娠・出産の経験
- 日常生活や仕事への影響はありますか?
- 家族関係やストレスに感じていることはありますか?
この問診の後、医師は症状や状況に応じて次の検査を検討します。
2. 身体検査
内診や経膣超音波検査で、子宮や卵巣に異常がないかを確認します。不正出血がある場合や、子宮筋腫・卵巣嚢腫などの病気が疑われる場合に特に重要です。少し緊張するかもしれませんが、婦人科系の病気を見逃さないための大切な検査です。
3. 代表的な検査例
更年期障害の診断は、主に問診によって行われますが、他の病気との鑑別や治療方針の決定のために、以下のような検査を行うことがあります。(医師の判断により、必ずしもすべて実施するわけではありません)
- 血液検査:女性ホルモン(エストラジオール:E2)と、下垂体から分泌される卵胞刺激ホルモン(FSH)の値を測定します。更年期にはE2が低く、FSHが高い値を示すのが特徴です。また、甲状腺機能の異常や貧血など、似た症状を示す他の病気がないかも同時に調べることができます。
- 骨密度検査:エストロゲンの減少は骨粗しょう症のリスクを高めるため、骨の密度を測定します。
- その他:必要に応じて、子宮頸がん・体がん検診、マンモグラフィ(乳がん検診)などをすすめることもあります。
受診時の準備
いざ受診する際に、準備しておくとスムーズです。
- 症状のメモ:いつから、どんな症状が、どの程度つらいか、などを簡単にメモしておくと、医師に的確に伝えられます。「症状日記」のようなものも有効です。
- 基礎体温表:つけている方は持参しましょう。排卵の有無などを知る手がかりになります。
- お薬手帳:現在服用している薬やサプリメントがわかるもの。
- 服装:内診がある可能性を考え、着脱しやすい服装(スカートなど)がおすすめです。
何よりも大切なのは、「こんなことで受診していいのかな」とためらわないことです。あなたのつらさを理解し、一緒に解決策を探してくれる専門家を訪ねる、という気持ちで臨んでください。
受診すべき診療科
更年期症状の相談は、まず婦人科が第一選択です。ホルモンの専門家であり、子宮や卵巣など女性特有の病気も同時に診てもらえるため、最も的確な診断と治療が期待できます。
最近では「更年期外来」や「女性ヘルスケア外来」など、専門の外来を設けている病院も増えています。
もし、精神的な症状(強い不安、抑うつなど)が特に顕著な場合は、心療内科や精神科への相談も選択肢の一つです。婦人科と連携して治療を進めてくれる医療機関もあります。
かかりつけの婦人科がない場合は、お住まいの自治体の保健所や、日本産科婦人科学会のホームページなどで医療機関を探すことができます。
更年期の治療法
治療方針の決定
更年期障害の治療は、画一的なものではありません。医師は、あなたの症状の強さ、年齢、健康状態、そして何よりも「あなたがどのような生活を送りたいか」という希望を丁寧にヒアリングし、相談しながら最適な治療法を決定していきます。薬物療法だけでなく、生活習慣の改善やカウンセリングなど、さまざまな選択肢を組み合わせて、あなただけのオーダーメイドの治療プランを立てていきます。
薬物療法
つらい症状を和らげるために、薬の力を借りることは非常に有効です。代表的な薬物療法には以下のものがあります。
- ホルモン補充療法(HRT):減少したエストロゲンを、飲み薬、貼り薬、塗り薬(ジェル)などで少量補う治療法です。ホットフラッシュ、発汗、動悸、泌尿生殖器の萎縮(GSM)など、更年期のさまざまな症状に根本的にアプローチでき、最も効果が期待できる治療法とされています。また、骨密度を維持し骨粗しょう症を予防する効果や、肌の潤いを保つ効果もあります。子宮がある方は、子宮体がんのリスクを抑えるために黄体ホルモンも併用します。乳がんや血栓症などのリスクについて心配される方もいますが、医師が適切に判断すれば、そのリスクは非常に低いことがわかっています。
- 医療プラセンタ注射:ヒト胎盤から抽出されたエキスを用いた治療。副作用のリスクが比較的低いとされています。献血ができなくなるデメリットあり(輸血を受けることは可能)。
- 漢方薬:心と体のバランスの乱れを整えることで、症状を緩和します。特定の症状を狙い撃ちするというより、体全体の調子を底上げするイメージです。「冷え」や「気分の落ち込み」「疲れやすさ」など、多彩な症状に効果を発揮します。代表的な処方には、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)、加味逍遙散(かみしょうようさん)、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)などがあり、その人の体質(証)に合わせて使い分けられます。HRTが使えない方や、HRTと併用することもあります。
- 向精神薬:イライラ、不安、抑うつ、不眠などの精神症状が特に強い場合には、抗うつ薬や抗不安薬、睡眠導入剤などが処方されることもあります。
【注意】 これらの薬物療法は、必ず医師の診断のもとで行う必要があります。自己判断で市販薬やサプリメントに頼ったり、中断したりせず、必ず専門医に相談してください。
非薬物療法
薬だけに頼らず、心身両面からアプローチする方法もあります。
- カウンセリング・認知行動療法:専門のカウンセラーと対話することで、更年期に対するネガティブな思い込みや考え方の癖に気づき、ストレスへの対処法を身につけることができます。物事の捉え方が変わるだけで、症状が軽くなることも少なくありません。
- 理学療法:肩こりや腰痛、関節痛など、運動器の症状が強い場合に有効です。ストレッチや筋力トレーニングの指導を受け、体の機能を改善します。
【注意】 これらの療法も、専門家の指導のもとで行うことが大切です。まずは主治医に相談し、適切な専門家を紹介してもらうのが良いでしょう。
生活習慣による管理
治療の基本であり、もっとも大切なのが日々の生活習慣の見直しです。
- 食事:バランスの良い食事を基本に、女性ホルモンと似た働きをする大豆イソフラボン(豆腐、納豆、豆乳など)を積極的に摂りましょう。骨の健康のためにカルシウム(乳製品、小魚など)やビタミンD・Kも重要です。
- 運動:ウォーキング・水泳などの有酸素運動やヨガは、血行を促進し、自律神経を整え、気分転換にもなります。無理のない範囲で、楽しみながら続けることが大切です。
- 睡眠:質の良い睡眠は、心身の回復に不可欠です。寝る前のスマホ操作を控え、リラックスできる環境を整えましょう。
- ストレスマネジメント:趣味の時間を持つ、友人とおしゃべりする、アロマを焚くなど、自分なりのリラックス法を見つけましょう。
治療期間と予後
更年期症状が続く期間は人それぞれですが、適切な治療を始めれば、数週間から数ヶ月で症状の改善を実感できることが多いです。HRTの場合、数年間継続し、症状が安定したら、医師と相談しながら少しずつ薬を減らしていくのが一般的です。
更年期は「終わり」ではなく、新しいステージへの「移行期間」です。この時期を上手に乗り越えることで、その後の人生をより健やかに、自分らしく輝かせることができます。
予防法と日常生活での注意点
一次予防(発症予防)
更年期症状を完全に「なくす」ことはできませんが、日頃の心がけで症状を軽くし、更年期障害への移行を「予防」することは可能です。
- バランスの取れた食事:若い頃から、特定の食品に偏らず、多様な食材を摂る習慣をつけましょう。特に大豆製品は、コツコツ続けることが大切です。
- 適度な運動習慣:筋肉量を維持し、血行を良くしておくことは、自律神経の安定につながります。
- 質の良い睡眠:体内時計を整え、ホルモンバランスの乱れを最小限に抑えます。
- ストレス対処法を持つ:自分なりのストレス解消法をいくつか持っておき、溜め込まない習慣をつけましょう。
二次予防(早期発見・早期治療)
「あれ?おかしいな」と感じたら、我慢せずに早めに対処することが、症状の重症化を防ぐ鍵です。
- 症状日記をつける:自分の心身の変化を客観的に把握し、受診の際に役立ちます。
- 婦人科のかかりつけ医を持つ:若い頃から定期的に婦人科検診を受け、気軽に相談できる医師を見つけておくと、いざという時に安心です。
- 正しい情報を得る:インターネットの不確かな情報に惑わされず、公的機関や専門医からの信頼できる情報を参考にしましょう。
日常生活の工夫
つらい症状と上手に付き合いながら、生活の質を保つための工夫をご紹介します。
- ホットフラッシュ対策:体温調節しやすいように、着脱しやすい服装(カーディガンなど)を心がけましょう。濡らしたタオルや冷却シート、扇子などを持ち歩くのもおすすめです。
- 気分の浮き沈み対策:感情の波はホルモンのせい、と割り切り、自分を責めないこと。「今はそういう時期」と受け流すことも大切です。
- スケジュール管理:疲れやすい時期なので、予定を詰め込みすぎず、休息の時間を意識的に確保しましょう。
- リラクゼーション:深呼吸、瞑想、ヨガ、アロマテラピーなど、自分が心地よいと感じるリラックス法を日常生活に取り入れましょう。
家族・周囲のサポート
更年期は、ご本人だけでなく、家族や周囲の理解とサポートが不可欠です。
- パートナーや家族へ:奥様やお母様のイライラや不調は、決して「わがまま」や「怠け」ではありません。ホルモンの変化によるつらい症状なのだと理解し、「大変だね」「何か手伝おうか?」と優しい言葉をかけてあげてください。家事を分担したり、話を聞いてあげるだけでも、ご本人の心は軽くなります。
- 職場の方へ:同僚の女性が体調不良を訴えたり、急に汗をかいていたりしたら、それは更年期症状かもしれません。空調の温度を気遣ったり、休憩を促したりするなどの配慮があると、安心して働き続けることができます。
ご本人からも、「今、更年期で少しつらいの」とオープンに話してみる勇気も、時には必要かもしれません。社会全体で更年期への理解を深めていくことが大切です。
よくある質問(FAQ)
更年期に関する50代のみなさんからよく寄せられる疑問に、一つ一つ丁寧にお答えします。
Q1: 更年期はいつから始まり、いつ終わるのですか?
A: 更年期は一般的に閉経を挟んだ前後10年間、年齢でいうと45歳~55歳頃を指します。日本人女性の平均閉経年齢が約50.5歳なので、その前後5年ずつが目安です。ただし、これはあくまで平均であり、始まる時期や終わる時期には個人差が大きいです。40代前半から症状を感じる方もいれば、50代後半になってから始まる方もいます。症状が続く期間も、1~2年で落ち着く方もいれば、10年以上続く方もいらっしゃいます。
Q2: 60代になっても症状が続くことはありますか?
A: はい、あります。閉経後も、女性ホルモンが少ない状態に体が慣れるまでに時間がかかり、ほてりや気分の落ち込みなどの症状が続くことがあります。これを「閉後更年期」と呼ぶこともあります。また、加齢による体力の低下や、生活環境の変化によるストレスが引き金となって、60代になってから症状がぶり返したり、新たに出てきたりすることもめずらしくありません。年齢で諦めず、つらい場合は婦人科にご相談ください。
Q3: PMS(月経前症候群)と更年期症状の違いは何ですか?
A: PMSは月経が始まる前に症状が現れ、月経が始まると軽快・消失するのが特徴です。周期性があるのが大きな違いです。一方、更年期症状は月経周期とは関係なく、持続的に、あるいは不定期に現れます。更年期に移行する40代前半は、PMSの症状が悪化したり、更年期症状と見分けがつきにくくなったりすることもあります。
Q4: ホルモン補充療法(HRT)は太りやすいと聞きましたが…
A: 「HRT=太る」というのは誤解です。むしろ、更年期はエストロゲンの減少によって基礎代謝が落ち、内臓脂肪がつきやすくなるため、何もしないと太りやすい時期なのです。HRTでホルモンバランスを整えることは、代謝の改善にもつながる可能性があります。HRT開始後に体重が増えた場合、それは薬の影響というより、年齢的な代謝の変化や、症状が楽になって食欲が増したことなどが原因と考えられます。
Q5: HRTには乳がんや血栓症のリスクがあると聞いて不安です。
A: HRTのリスクはゼロではありませんが、過度に心配する必要はありません。現在の研究では、適切な種類のホルモン剤を適切な期間使用した場合、乳がんのリスク増加はごくわずかであること、また、貼り薬や塗り薬タイプのHRTでは、血栓症のリスクはほとんど上昇しないことがわかっています。医師は、治療のメリットとリスクを十分に比較検討し、定期的な検診を行いながら安全に治療を進めます。不安な点は、納得がいくまで医師に質問してください。
Q6: 漢方薬は効果が出るまで時間がかかりますか?
A: 漢方薬は体質を根本から改善していくため、即効性を期待する薬ではありません。しかし、その人の体質(証)に合った処方であれば、2週間~1か月程度で何らかの効果を感じ始めることが多いです。「何となく調子が良い」「イライラすることが減った」といった穏やかな効き方が特徴です。効果を感じられない場合は、処方が合っていない可能性もあるので、医師や薬剤師に相談しましょう。
Q7: 「エクオール」のサプリメントは効果がありますか?
A: エクオールは、大豆イソフラボンが腸内細菌によって変換されて作られる成分で、エストロゲンに似た働きをします。ほてりや首・肩のこりなど、更年期症状を和らげる効果が報告されています。ただし、エクオールを体内で作れるかどうかは個人差があり、日本人では約半数の人しか作れないと言われています。
作れない方や、作れても量が少ない方は、サプリメントで補うのも一つの方法です。ただし、サプリメントはあくまで食品であり、医薬品ほどの効果は期待できません。つらい症状がある場合は、まず医療機関を受診することをおすすめします。
Q8: 何科を受診すればよいか分かりません。
A: 更年期症状の相談は、まず婦人科が第一選択です。ホルモンの専門家であり、子宮や卵巣の病気がないかも含めて総合的に診てもらえます。精神的な症状が特に強い場合は心療内科や精神科、関節痛が主症状の場合は整形外科という選択肢もありますが、まずは婦人科で「他の病気が隠れていないか」を診てもらうのが安心です。
Q9: 医療機関ではどんな検査をするのですか?費用はどのくらい?
A: 主に問診と、必要に応じて血液検査(ホルモン値など)、内診、超音波検査などを行います。費用は、保険診療(3割負担)の場合、初診で問診と血液検査などを行うと、数千円程度が目安です。治療が始まると、薬の種類にもよりますが、HRTや漢方薬の処方で1ヶ月あたり1000円~5000円程度が一般的です。
Q10: 夫や家族に、つらさを理解してもらえません。
A: これは非常によくあるお悩みです。目に見えない症状が多いため、怠けていると誤解されがちです。可能であれば、婦人科の受診にパートナーに付き添ってもらい、医師から直接説明してもらうのが効果的です。また、厚生労働省や関連学会が発行しているパンフレットなど、客観的な情報を見せて説明するのも良いでしょう。「あなたを責めているのではなく、ホルモンのせいで自分でもコントロールできない時がある」と伝えてみてください。
Q11: 仕事と治療の両立は可能ですか?
A: もちろんです。むしろ、つらい症状を我慢して仕事のパフォーマンスが落ちるよりも、適切に治療を受けて症状をコントロールする方が、より意欲的に仕事に取り組めます。通院の時間を確保する必要はありますが、貼り薬や長期処方など、通院回数を減らす工夫も可能です。職場に相談できる産業医や保健師がいれば、相談してみるのも良いでしょう。
Q12: 更年期を過ぎれば、元の体調に戻るのでしょうか?
A: 更年期の症状そのものは、体がホルモンの変化に慣れることで、いずれ落ち着いていきます。しかし、エストロゲンが低い状態はその後も続くため、骨粗鬆症や脂質異常症、動脈硬化などのリスクはむしろ高まっていきます。更年期は、症状を乗り越えるだけでなく、その後の人生の健康管理を見直す大切なターニングポイントだと捉えましょう。
Q13: 運動はした方が良いですか?どんな運動が良いですか?
A: はい、ぜひ行いましょう。ウォーキング、ジョギング、水泳、サイクリングなどの有酸素運動は、血行を促進し、自律神経を整え、骨を丈夫にする効果も期待できます。また、ヨガやストレッチは心身をリラックスさせ、筋肉の柔軟性を高めます。大切なのは、無理なく、楽しみながら続けられること。「週に2~3回、30分程度」を目安に始めてみましょう。
Q14: 食事で気をつけることは何ですか?
A: 1日3食、バランス良く食べることが基本です。その上で、①大豆製品(豆腐、納豆、豆乳など)でイソフラボンを、②乳製品・小魚・緑黄色野菜で骨を作るカルシウムとビタミンD・Kを、③青魚(サバ、イワシなど)で血液をサラサラにするEPA・DHAを意識して摂ると良いでしょう。加工食品や甘いものの摂りすぎは、不調を悪化させることがあるので注意が必要です。
Q15: 記憶力の低下が心配です。認知症の始まりでしょうか?
A: 更年期には、エストロゲンの減少により、脳の血流や神経伝達物質に影響が出て、一時的に記憶力や集中力が低下することがよくあります。「人の名前が出てこない」「うっかりミスが増えた」といった症状は、多くの場合、更年期によるものです。ただし、症状が進行する場合や、時間や場所が分からなくなるなどの症状があれば、専門医に相談しましょう。
Q16: 性交痛があり、夫婦生活が苦痛です。
A: 非常にデリケートで、相談しにくいお悩みですね。これはGSM(閉経関連泌尿生殖器症候群)の代表的な症状で、エストロゲンの減少により膣の粘膜が薄く、乾燥するために起こります。我慢せず、婦人科で相談してください。HRT(特に膣錠)や、潤滑ゼリーの使用で、多くの場合改善します。パートナーにも、痛みがあることを正直に伝え、理解を求めることが大切です。
Q17: 急に太りやすくなりました。どうすれば良いですか?
A: 更年期は、基礎代謝が低下し、特に内臓脂肪がつきやすくなる時期です。食事の内容を見直し、間食を控えめにするとともに、前述したような運動習慣を取り入れることが最も効果的です。特に、筋肉量を増やすための軽い筋力トレーニング(スクワットなど)を加えると、代謝がアップしやすくなります。
Q18: 治療に保険は適用されますか?
A: はい。医師が更年期障害と診断した場合、ホルモン補充療法(HRT)や漢方薬治療、カウンセリングなどは、基本的に健康保険が適用されます。ただし、使用する薬剤や検査の種類によっては、一部自費診療となる場合もありますので、事前に医療機関にご確認ください。
Q19: 母親も更年期がひどかったのですが、遺伝しますか?
A: 更年期症状の重さや現れ方が、直接的に遺伝するという医学的な証拠はまだ明確ではありません。しかし、体質や骨格、生活習慣などは親子で似ることが多いため、症状の出方が似る傾向はあるかもしれません。お母様がどのような症状で、どう乗り越えたかを聞いてみるのは、参考になるかもしれませんね。
Q20: 更年期症状かと思っていたら、別の病気だったということもありますか?
A: はい、その可能性は十分にあります。例えば、動悸や発汗は甲状腺機能亢進症、だるさや気分の落ち込みは甲状腺機能低下症やうつ病、めまいはメニエール病など、更年期と似た症状を持つ病気は少なくありません。だからこそ、「年のせい」と自己判断せず、一度専門医の診察を受けることが非常に重要なのです。
Q21: ピルを飲んでいますが、いつやめれば良いですか?
A: 低用量ピルを服用している間は、月経のような出血が起こるため、閉経したかどうかが分かりません。一般的には、50歳を過ぎたあたりで一度ピルを中止し、ホルモン値を測定して閉経しているかを確認し、その後の治療方針(HRTへの切り替えなど)を医師と相談します。自己判断で中止せず、必ず主治医に相談してください。
Q22: 手指の関節が痛むのですが、これも更年期ですか?
A: はい、その可能性が高いです。エストロゲンには、関節の炎症を抑えたり、滑膜の腫れを防いだりする働きがあります。そのため、エストロゲンが減少する更年期には、手指の第一関節が腫れて痛む「ヘバーデン結節」や、第二関節に起こる「ブシャール結節」、ばね指などが起こりやすくなります。リウマチとの鑑別も必要なので、整形外科か婦人科にご相談ください。
Q23: 治療をやめたら、また症状はぶり返しますか?
A: HRTなどを中止した後に、一時的に症状がぶり返すことはあります。そのため、治療をやめる際は、急に中断するのではなく、医師と相談しながら、数ヶ月かけて少しずつ薬の量や頻度を減らしていくのが一般的です。そうすることで、体がホルモンの少ない状態にソフトランディング(軟着陸)できます。
Q24: 更年期うつとは何ですか?
A: 更年期に見られる抑うつ症状で、気分の落ち込み、意欲の低下、不安感などが強く現れる状態を指します。ホルモンバランスの乱れという身体的要因と、環境の変化や喪失感といった心理社会的要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。一般的なうつ病の治療に加えて、HRTを併用することで症状が劇的に改善することもあります。
Q25: 鍼灸やアロマテラピーは効果がありますか?
A: 鍼灸は自律神経のバランスを整え、血行を促進することで、冷えや肩こり、精神的な緊張などを和らげる効果が期待できます。アロマテラピーは、香りが直接脳に働きかけ、リラックス効果や気分のリフレッシュをもたらします。これらは西洋医学的な治療の補完・代替療法として、上手に取り入れると心身の助けになるでしょう。ただし、効果には個人差があります。
Q26: 閉経したら、もう婦人科に行く必要はありませんか?
A: いいえ、そんなことはありません。閉経後は、骨粗鬆症や脂質異常症のリスクが高まるほか、子宮体がんや卵巣がんのリスクも年齢とともに上昇します。また、GSM(閉経関連泌尿生殖器症候群)による不快な症状が出てくることもあります。年に1回は婦人科検診を受け、健康状態をチェックする習慣を続けることが、健やかなシニアライフにつながります。
Q27: 更年期を乗り越えた人は、どんな工夫をしましたか?
A: 多くの方が、「良い意味でのあきらめ」と「新しい楽しみを見つけること」を挙げています。「完璧じゃなくても良い」「できない自分を許す」と考えることで、心が楽になったという声が多く聞かれます。また、症状が少し楽になった時期に、新しい趣味や学び、ボランティア活動などを始め、自分のための時間を持つことが、前向きな気持ちにつながるようです。
Q28: パートナー(男性)にも更年期があると聞きました。
A: はい、男性にも男性ホルモン(テストステロン)の減少によって、女性の更年期と似た症状(意欲低下、ED、不眠、イライラなど)が起こることがあり、LOH症候群(加齢男性性腺機能低下症候群)と呼ばれています。夫婦そろって体調が優れない時期は、お互いを責めるのではなく、「お互いさま」の気持ちで労わり合うことが大切です。
Q29: 治療を受けるほどではない軽い症状の場合、どうすれば良いですか?
A: まずは生活習慣の見直し(食事、運動、睡眠)を徹底してみましょう。それに加えて、市販の漢方薬や、エクオールなどのサプリメントを試してみるのも一つの方法です。ただし、1か月程度試しても改善しない場合や、症状が悪化する場合は、やはり一度医療機関を受診することをお勧めします。
Q30: 更年期をポジティブに捉えるコツはありますか?
A: 更年期は、これまでの人生を振り返り、これからの生き方を見つめ直す絶好の機会です。「誰かのための人生」から「自分のための人生」へとシフトする準備期間と捉えてみてはいかがでしょうか。体の声に耳を澄まし、自分をいたわることを最優先する。そうすることで、心身ともに健やかで、より自分らしい新しいステージへと進んでいくことができるはずです。
まとめ
大切なポイント
- 更年期は病気ではなく自然な変化:誰にでも訪れる人生の移行期です。正しい知識を持ち、過度に恐れないことが大切です。
- 我慢は禁物:つらい症状は、生活の質を大きく低下させます。専門家の助けを借りて、積極的に対処しましょう。
- 治療法は一つではない:HRT、漢方、カウンセリング、生活習慣の改善など、選択肢は多様です。あなたに合った方法が必ず見つかります。
- 閉経後も健康管理を:更年期は、その後の人生を健康に過ごすための準備期間。骨や血管の健康にも目を向けましょう。
健康に関するご相談は最寄りのかかりつけ医へ
この記事の健康情報は一般的な内容です。ご自身の症状や体調について心配なことがある場合は、必ずかかりつけ医にご相談ください。適切な診断・治療には専門医による個別の判断が不可欠です。自己判断せず、まずは信頼できる医師にお話しすることをおすすめします。
監修者プロフィール:押切佳代さん

沢岻美奈子女性医療クリニック(兵庫県神戸市)院長。日本内科学会認定医。日本糖尿病学会専門医。ダイエット外来担当医。




