8年越しの夢。人と夢と故郷をつなぐ、喜びの一本道
2023.03.062023年03月06日
震災後、東北の冬が育んだ、苦難を受け入れる心
何があっても大丈夫。いつか、そう思える時がくるから
数々の絵本の出版を手がけ、皇后美智子さまの本も出版してきた末盛千枝子さんが故郷・岩手に移住したのは2010年のこと。翌年の東日本大震災後から被災地の子どもたちに絵本を届ける活動を続ける末盛さんの暮らしを追った2011年・初夏のレポートです。
末盛千枝子(すえもり・ちえこ)さんってどんな人?
末盛千枝子
1941年、父・彫刻家・舟越保武と母・道子の長女として東京に生まれる。
4歳から10歳まで岩手県盛岡市で過ごす。慶應義塾大学卒業後、絵本の出版社・至光社に入社。83年、夫の突然死のあと、ジー・シー・プレスで絵本出版を手がける。
最初に出版した本のうちの1冊、『あさ・One morning』が86年、ボローニャ国際児童図書店グランプリを受賞。ニューヨーク・タイムズ年間最優秀絵本に選ばれる。
88年、株式会社すえもりブックスを設立。
以後、まど・みちおの詩を、皇后美智子様が選・英訳された『どうぶつたち・THE ANIMALS』と『ふしぎなポケットTHE MAGIC POCKET』、98年には皇后美智子様のご講演をまとめた『橋をかける・子供時代の読書の思い出』の他、国内外の絵本等を出版。
2010年、69歳のときに住み慣れた東京を離れ、60年暮らした東京から、故郷・岩手に移住。
2011年の東日本大震災後、「3・11絵本プロジェクトいわて」を立ち上げ、被災地の子どもたちに絵本を届ける活動を開始(プロジェクトは2021年に終了)
家族と共に、子ども時代を過ごした故郷・岩手へ
※この記事は2011年6月の取材をもとに構成しています。
末盛さんのご自宅は、盛岡市から車で1時間弱、田んぼや畑が広がる八幡平の、岩手山を一望できる場所にあります。15年前、父・舟越保武さんが画家の親友、松本竣介さんの息子で建築家の松本さんに依頼して設計してもらいました。
末盛さんの学生時代の友人が八幡平に家を建てたのを見に行き、その場所があまりに気に入って、両親に「こんな場所があるのよ」と話したのがきっかけだったそうです。
「父は二夏をここで過ごし、母も昨年の1月に亡くなりましたので、今私たちがここを使わせてもらっています。私が40年暮らした東京のマンションは隣に教会があり、心の拠りどころになっていたので、迷いはありました。ただ、経営していたすえもりブックスをたたむと決断してからは、気持ちの切り替えができて、2~3か月で越してきました」
末盛さんの長男は、10年前、スポーツ中の怪我で下半身不随となり、再婚した夫は5年前、脳溢血で倒れ、今はだんだん...