目標に向かって邁進するのと、
努力は違う
私はね、努力というものは、自分ひとりではできない。一緒にいる人、共に歩く人がそれをさせてくれる。そういう人たち、いわば“世間様”がさせてくれたと思っています。
生きることは苦だらけで
ええことは一瞬。
だけど、その一瞬の積み重ねが
50代になったときに物を言うんです
軽快なトークにパワフルな演奏と歌声で人々を魅了するジャズシンガーの綾戸智恵さん。2023年6月にデビュー25周年を迎えました。第3回は、過密スケジュールで多忙を極めた綾戸さんが世間の声やプレッシャーに負けずにふんばれた、心の持ち方について。
私はね、努力というものは、自分ひとりではできない。一緒にいる人、共に歩く人がそれをさせてくれる。そういう人たち、いわば“世間様”がさせてくれたと思っています。
デビュー後2年目には、オーチャードホールで3日間ライブして、さらにアンコールで追加公演までさせてもらって、紅白歌合戦にも出させてもらって……というと、才能があるからとか努力したんやねとか言う人がたくさんいますが、私はそんな大したもんではありませんよ。人生を切り開こうと思ったことも、成功するために努力したことも、一度もない。
世の中には悪い人間もいっぱいいるんですけど、それでもやっぱり、人生が動いていくのは家族や友人、そして世間様のおかげなんやないかと思っています。
私は子どもの頃、朝なかなか起きられない子どもでした。でも息子ができて自然と起きられるようになって、朝ご飯もつくるし、お弁当もつくるようになりました。夜も、一度寝たら朝まで絶対起きない子どもだったのに、母の介護をするようになって、母が「痛い!」と言ったら誰に起こされなくてもすぐに起きるようになりました。
息子のおかげ、母のおかげですわ。
息子がいるから、ゴミ出しするときも人様に笑われるような格好じゃ外に出られないし、変な男と引っ付くこともできない。親不孝したくないから、母がつらそうにしてたら放っておかれない。
私の場合はね「これになりたいなー」でがんばるのは、努力とは言わんのではないかと思っています。それは、やりたいと思うことに“邁進”しているだけ。つらいこと、いやなことでもがんばれるのが、“努力”じゃないでしょうか。そういう努力ができるのは、そうさせる人がいるからです。