- ハルメク365トップ
- 暮らし
- 生きるヒント
- 児童文学作家・安房直子さんの「魑魅魍魎」の世界
「ハルメク」でエッセイ講座を担当する随筆家・山本ふみこさんが、心に残った先輩女性を紹介する連載企画。今回は、児童文学作家の「安房直子」さん。国語の教科書にも掲載される「きつねの窓」の作家です。異界のものたちが住む世界を愛する者の見方とは…。
好きな先輩「安房直子(あわ・なおこ)」さん
1943-1993年 児童文学作家
東京生まれ。日本女子大学在学中より山室静氏に師事し、美しい物語を発表。著書に『さんしょっ子』『北風のわすれたハンカチ』『風と木の歌』『遠い野ばらの村』『山の童話 風のローラースケート』他。
物語が支えてくれる日常の場面
ある夏、わたしはときどきジャム屋になりました。夫の実家の畑で摘んだブルーベリーを大鍋で煮て、煮沸消毒した瓶に詰めてゆきます。
あるときはいっぺんに100個分のジャムをつくりました。胸のなかに棲みついている物語のおかげで、わたしはいつもよろこびとともに働いたのです。物語というのは、安房直子の「あるジャム屋の話」。書きだしはこうです。
「若いころから、人づきあいのへたな私でした」
ね、いいでしょう?ちょっとはなしを聞いてみたくなるではありませんか。登場するのは青年の「私」、きれいな牝鹿、それから牝鹿のお父さんです。舞台は主に、森の奥の小屋。そこで青年はジャムをつくりはじめます。
おはなしのつづきは、どうかどうか、それぞれご自分でお読みください。
わたしは森のなかの小屋にいる気分になって、ブルーベリーのジャムを煮ては瓶に詰める作業をしたのでした。
物語とは、こんなふうに日常の「場面」を静かに支えてくれるものなのです。
大人になってから歩くやさしい魑魅魍魎の世界
童話作家の安房直子。50歳という若さで亡くなったのはいかにもさびしいことでしたが、それはたくさんの物語が残されています。小学校の国語の教科書にものった「きつねの窓」を知らないひとはないでしょう。
安房直子の紡ぐ世界には、小人や魔女、妖精、鬼や天狗、はなしをする動物が登場します。目には見えないけれど、ひょっとそのへんに隠れているかもしれない、そんなものたちのことを書きたかった、というのが原点です。
「『魑魅魍魎(ちみもうりょう)』という言葉が好きです。この複雑な文字も好きです。この文字を見つめていますと、不気味でぞくっとします」エッセイのなかに、このくだりをみつけたとき、わたしこそ、ぞくっとしました。
生き生きと異界のものたちの住む世界を構築しようとした作家の、子どもたちに伝えようとした作家の、覚悟を目の当たりにしたような気がしたのです。
近年読み返すことが多くなった安房直子の童話。大人になってから歩くやさしい魑魅魍魎の世界には、驚くべき発見が待ち受けていました。
随筆家:山本ふみこ(やまもと・ふみこ)
1958(昭和33)年、北海道生まれ。出版社勤務を経て独立。ハルメク365では、ラジオエッセイのほか、動画「おしゃべりな本棚」、エッセイ講座の講師として活躍。
※この記事は雑誌「ハルメク」2018年12月号を再編集し、掲載しています。
「あるジャム屋の話」は『春の窓』(安房直子ファンタジスタ/講談社X文庫)に収録されています。
>>「安房直子」さんのエッセイ作成時の裏話を音声で聞くにはコチラから
「だから、好きな先輩」は、雑誌「ハルメク」で毎月好評連載中! 最新情報もあわせてチェックしてくださいね。
※ハルメク365では、雑誌「ハルメク」の電子版アーカイブを12か月分見ることができます。詳しくは電子版ハルメクのサイトをご確認ください。
-
子に遺すべき資産は?
「現金」か「不動産」か…どっちが得?メリット・デメリットは?相続や親族間のトラブルに悩まされないためにしておくべき準備とは -
突然の我慢できない尿意
実は多くのハルメク世代が悩んでいる「尿トラブル」…中には上手に対策をしている人も!気軽にできる対策って? -
個人情報管理できてる?
銀行口座・保険・クレジットカードなど、「デジタルの情報」をきちんと管理できていますか?煩雑にしていると思わぬ落とし穴が… -
お金の管理が簡単に!
三井住友銀行アプリに「シンプルモード」が新登場!スマホ操作が苦手な人でも簡単に使える便利機能が満載です! -
認知症セルフチェック
「もの忘れが増えた」「名前が思い出せない」という症状に心当たりがある方は要注意!それ、「認知機能のレベル低下」が原因かもしれません… -
健気な姿がかわいい!
「思わず笑顔になる」と巷で話題の「永遠の2歳児・ニコボ」!ハルメク世代の2人に、ニコボとの生活にハマる理由をお聞きしました! -
生前親に●●聞き忘れると
老親の契約や登録しているサービス、これらを子が把握していないと将来ムダな出費や面倒なトラブルに発展する可能性が!特に見落としがちなのは… -
50代~お金の増やし方
将来を見据えて、50代から「まとまった資金の調達」が重要になります。どんな選択肢があるか、ご存知ですか? -
60日で英語が話せる!
英語をマスターするのに「完璧」はいらない!初心者でも60日で英語が話せるようになる、驚きの3つのコツとは? -
今なら無料でお試し!
将来、自分の認知機能が低下するリスクがあるか、簡単に予測できるサービスが誕生。今なら無料で先行利用できます! -
おひとり様の備えはOK?
この先「おひとり様」になったら意外な落とし穴がいっぱい…。そんな不安に備える、おひとり様専用お助けサービスが誕生! -
50代から1日1分脳トレ
認知機能を衰えさせないためには、早い時期から「脳を活性化」させることが大切。脳トレ効果がグッとアップするコツって?