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- 児童文学作家・安房直子さんの「魑魅魍魎」の世界
「ハルメク」でエッセイ講座を担当する随筆家・山本ふみこさんが、心に残った先輩女性を紹介する連載企画。今回は、児童文学作家の「安房直子」さん。国語の教科書にも掲載される「きつねの窓」の作家です。異界のものたちが住む世界を愛する者の見方とは…。
好きな先輩「安房直子(あわ・なおこ)」さん
1943-1993年 児童文学作家
東京生まれ。日本女子大学在学中より山室静氏に師事し、美しい物語を発表。著書に『さんしょっ子』『北風のわすれたハンカチ』『風と木の歌』『遠い野ばらの村』『山の童話 風のローラースケート』他。
物語が支えてくれる日常の場面
ある夏、わたしはときどきジャム屋になりました。夫の実家の畑で摘んだブルーベリーを大鍋で煮て、煮沸消毒した瓶に詰めてゆきます。
あるときはいっぺんに100個分のジャムをつくりました。胸のなかに棲みついている物語のおかげで、わたしはいつもよろこびとともに働いたのです。物語というのは、安房直子の「あるジャム屋の話」。書きだしはこうです。
「若いころから、人づきあいのへたな私でした」
ね、いいでしょう?ちょっとはなしを聞いてみたくなるではありませんか。登場するのは青年の「私」、きれいな牝鹿、それから牝鹿のお父さんです。舞台は主に、森の奥の小屋。そこで青年はジャムをつくりはじめます。
おはなしのつづきは、どうかどうか、それぞれご自分でお読みください。
わたしは森のなかの小屋にいる気分になって、ブルーベリーのジャムを煮ては瓶に詰める作業をしたのでした。
物語とは、こんなふうに日常の「場面」を静かに支えてくれるものなのです。
大人になってから歩くやさしい魑魅魍魎の世界
童話作家の安房直子。50歳という若さで亡くなったのはいかにもさびしいことでしたが、それはたくさんの物語が残されています。小学校の国語の教科書にものった「きつねの窓」を知らないひとはないでしょう。
安房直子の紡ぐ世界には、小人や魔女、妖精、鬼や天狗、はなしをする動物が登場します。目には見えないけれど、ひょっとそのへんに隠れているかもしれない、そんなものたちのことを書きたかった、というのが原点です。
「『魑魅魍魎(ちみもうりょう)』という言葉が好きです。この複雑な文字も好きです。この文字を見つめていますと、不気味でぞくっとします」エッセイのなかに、このくだりをみつけたとき、わたしこそ、ぞくっとしました。
生き生きと異界のものたちの住む世界を構築しようとした作家の、子どもたちに伝えようとした作家の、覚悟を目の当たりにしたような気がしたのです。
近年読み返すことが多くなった安房直子の童話。大人になってから歩くやさしい魑魅魍魎の世界には、驚くべき発見が待ち受けていました。
随筆家:山本ふみこ(やまもと・ふみこ)
1958(昭和33)年、北海道生まれ。出版社勤務を経て独立。ハルメク365では、ラジオエッセイのほか、動画「おしゃべりな本棚」、エッセイ講座の講師として活躍。
※この記事は雑誌「ハルメク」2018年12月号を再編集し、掲載しています。
「あるジャム屋の話」は『春の窓』(安房直子ファンタジスタ/講談社X文庫)に収録されています。
>>「安房直子」さんのエッセイ作成時の裏話を音声で聞くにはコチラから
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