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亜紀と靖明の手紙のやり取り
蔵王のダリァ園からドッコ沼へ登るゴンドラ・リフトの中で偶然に再会した亜紀と靖明。別れて10年という日が流れて亜紀は35歳になっていた。平穏な日々の中に突然に靖明と瀬尾由加子の無理心中事件が起こり瀬尾は死んでいく。
亜紀は十分な話し合いもせずに靖明に心を残しながら離婚してしまう。靖明も幼馴染だった瀬尾由加子のことはひと言の説明もないままだった。
亜紀は靖明に長い手紙を書く。靖明への思いのあふれた手紙だった。亜紀は返事が来ることを期待していなかったが返事が届いた。彼もまた亜紀のことが忘れられなかったのだ。
私は一番初めに書かれた亜紀の手紙が好きだ。お互いに手紙の中で語られる出来事、いろんなことが話される。
何回かの手紙のやり取りのなかで亜紀は、体の不自由な息子と二人で生きていく決意を固める。
靖明は彼を支えてくれている令子と歩く道を選んだ。
彼の最後の手紙は令子との仕事のことやこれからのことも書かれていて、今までは過去のことばかりを書いていた手紙であったのに、珍しく彼の再出発の様子が書かれていた。 お互いに相手のこれからの幸せを願いながら新しく生きる姿勢を感じさせられた。
私は亜紀の「モーツアルト」に関する感想の中で、生きていることと、死んでいることはもしかしたら同じことかもしれへん。そんな大きな不思議なものをモーツアルトの優しい音楽が表現しているような気がしましたの」という言葉が心に残った。
手紙のやり取りを通じて、お互いへの好意を感じ取る二人、でも、いまさら後には戻れない。亜紀は愛情を持てなかった、今の夫である勝沼壮一郎と別れて、息子の清高との生活を決意する。清高をいつの日か正常な人間と同じくらいの人間にして見せようと心に誓う。靖明は彼を今支えてくれている令子と新しい商売を始める。
私は「モーツアルト」の39番シンフォニイーを聞きながら、『錦繍』の世界に浸りたいと思う。
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