ようこそ読書の森へ(2)

たくさんの名言に出会う本『お探し物は図書室まで』

公開日:2024.03.17

今回ご紹介する本は、青山美智子さんの『お探し物は図書室まで』です。2021年本屋大賞第2位に続き、アメリカ『TIME』誌が発表する「2023年の必読書100冊」に、日本人作家として唯一選出されました。

たくさんの名言に出会う本『お探し物は図書室まで』
『お探し物は図書室まで』青山 美智子 (著) ポプラ社

5人の主人公ともう1人のヒロイン

朋香 21歳 婦人服販売員・諒 35歳 家具メーカー経理部勤務・夏美 40歳 元雑誌編集者・浩弥 30歳 ニート・正雄 65歳 定年退職と、年齢も状況も異なる5人が、各章で主人公となりますが、それが後に鮮やかにつながっていく連作短編です。

主人公は5人ですが、町の小さな図書室で司書として働く、小町さゆりさんがもう1人のヒロインではと思いました。

一見不愛想で怖そうだけど、訪れる人々の話をきちんと聞いて、それぞれに相応しい本を選び、羊毛フェルトのかわいい付録までプレゼントして、悩みを抱えた人の背中を後押しします。

大きな人というので、何となくマツコ・デラックスさんを想像してしまい、ドラマ化するなら絶対マツコさんしかいないと思いながら読みました。

5人の主人公ともう1人のヒロイン
レースドールは私が拵えたものです。青山美智子さんの本のイメージに合う気がします

心に響いた言葉

「独身の人は結婚している人をいいなあと思って、結婚している人が子供のいる人をいいなって思って、そして子供のいる人が、独身の人をいいなあって思うの。ぐるぐる回るメリーゴーランド~中略~目の前にいる人のおしりだけ追いかけて、先頭もビリもないの、幸せに優劣も完成形もないってことよ」

女性にとって、永遠のテーマだと思います。

独身の人は自分のための時間が自由にあり、仕事に打ち込めるけど、常にこれで良いのかと悩み、結婚した女性は家事に多くの時間を取られ、子どもがいると子育ては待ったなしで、さらに両立が難しくなり悩みます。

でも、メリーゴーランドと言われて納得しました。

「計画や予定が狂う事を、不運とか失敗って思わなくていいの。そうやって変わっていくのよ、自分も、人生も」

思い描いた通りにいかないと、失敗だと自分を責めてしまいがちですが、これは苦しんでいる人を救う素晴らしい言葉だと思いました。

「たとえば12個入りのハニードーム(お菓子)を10個食べたとして、そのとき箱の中にある2つは残り物?」

残ったハニードームは、食べてしまった10個と同じく価値のある物という考えに、心を動かされました。定年退職しても、残りはつまらない人生ではないのです。

面白くてやがてちょっと涙

各章の主人公たちは、仕事に悩んだり、夢を失いかけて人生に行き詰まったりしますが、共感できる部分が多々あり「そうそう、あるある」と、頷いて笑ったりもします。

そして、じんわり涙がにじみ、いつのまにか心が温かくなっているのです。

これはどなたにでもおすすめできる素敵な本です。私は、特に元編集者と定年退職者の話に感銘しました。

面白くてやがてちょっと涙

作者の青山美智子さんについて

大学卒業後、ワーキングホリデーでオーストラリアに1年滞在し、シドニーの日系新聞社で記者として2年勤務、帰国後雑誌編集者を経て、執筆活動に入ります。

青山さんの本は、デビュー作の『木曜日にはココアを』をはじめ、すでに8冊読んでいます。

どれも優しくて、力強く、本当に背中を押された気になりますので、いずれまた別の作品もご紹介させていただきたいと思います。

■もっと知りたい■

さいとうひろこ

趣味は落語鑑賞・読書・刺しゅう・気功・ロングブレス・テレビ体操。健康は食事からがモットーで、AGEフードコーディネーターと薬膳コーディネーターの資格を取得。人生健康サロンとヘルスアカデミーのメンバーとなり現在も学んでいます。人生100年時代を健康に過ごす方法と読書や落語の楽しみ方をご案内します。

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