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『女の一生』
主人公ジャンヌの波乱に満ちた生涯を描いた長編小説で、1883年に刊行され、世界の名著のひとつとなっています。たびたび映画化や舞台化もされています。
この小説を読んで思い出されるのは、「人の一生は重荷を負て遠き道をゆくが如し」という徳川家康の名言です。
女三界に家なし
私の母は、「女三界に家なし」と言っていました。調べてみますと、三界は仏教語で欲界・色界・無色界、すなわち全世界のことだそうで、女はこの広い世界でどこにも安住できるところがない、という意味のようです。
「生まれては父母に従い、嫁しては夫に従い、老いては子に従う」という、大正初期生まれの亡母の道徳観を如実に表しています。
母は、嫁いだ家のために身を粉にして働いていたようです。戦時中には家族の食料調達にも活躍したようで、実家に頼ったり、着物を持って農家をまわったりしていたそうです。
そんな食糧難時代、買出しの帰途に食料を背負っていた母は道端で転び、立ち上がれず苦しんでいたところ、遠縁のおばさんが通りかかってリヤカーで運ばれました。
戦時中ゆえ、医者は戦地にかり出されていて不在。母は股関節骨折だったのですが、ただ布団で横になっているほかなすすべもなかったそうです。見かねて母の実家から迎えが来て、立って歩けるようになるまで、母は両親と長兄家族と過ごしたようです。
母の晩年
母は生涯、股関節の痛みに苦しんでいましたが、相変わらずよく働く人でした。晩年は北陸の寒さがこたえるようでしたが、温暖な広島での同居を何度すすめても首を縦に振りませんでした。
住み馴れた北陸から見知らぬ土地への移住には、一人娘の私と同居とはいえ抵抗があったのかもしれません。が、最大の理由は、私に何か不幸があった時に帰る家を保持しておきたいということのようでした。
晩年の6年間、母は広島で私たち夫婦と同居し、デイケア通いをしながら、入退院を繰り返していました。
母の葬儀は、母の長兄と次兄の家族が親族代表として広島まで来てくれて営みました。四十九日忌には私たち家族がふるさとの富山に赴きました。母の甥姪や友人知人がたくさん来てくれて、笑顔で思い出を語り、にぎやかに母を偲んでくれました。
母はにぎやかなことが好きな人でしたから、きっと喜んでいたことでしょう。
モーパッサンの『女の一生』は、ジャンヌの小間使いロザリがジャンヌに語りかける「世の中って、ねえ、人が思うほどいいものでも悪いものでもありませんね」という言葉で終わります。
母の人生に思いを馳せながら、この小説を再読しました。
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