015:瀬戸貴美恵さん(66歳)

強い願いが周囲を動かす――61歳、定年後の「子ども食堂」運営への道のり

強い願いが周囲を動かす――61歳、定年後の「子ども食堂」運営への道のり

更新日:2026年02月07日

公開日:2025年04月25日

強い願いが周囲を動かす――61歳、定年後の「子ども食堂」運営への道のり

50代から新しい一歩を踏み出して、第二の人生を歩み始めた人たちを追う「わたしリスタート」。子ども家庭支援センター勤務を経て、60歳で子ども食堂をやろうと決意した瀬戸さん。困難があっても着実に夢を現実にしていくステップを伺いました。

************

あなたの“リスタートのヒント”が、きっと見つかるはず。
 → 他のエピソードも読む!(毎月更新)

************

瀬戸貴美恵さんのリスタート・ストーリー 

▼本文
神奈川県内で、精神保健福祉士、社会福祉士の資格を持ち、10年以上にわたって子ども家庭支援センターで子育て支援専門員として子どものいる家庭と向き合ってきた瀬戸さん。

日々、子どもたちと関わる中で、その食生活の大切さに気付き、「いつか子ども食堂をやってみたい」と思うように。そして、そんなぼんやりとした願いがはっきりとした決意に変わったのは、60歳で退職を迎えたとき。

2019年、以前から住みたかった鎌倉で子ども食堂兼民泊「Children's Cafe B&B Kimie」をオープン。

今では、ご近所の親子や大人たちが集う子ども食堂、そして世界中の旅行者が集まる民泊として、グローバルでにぎやかな地域の居場所となっている。

休みたい気持ちと後悔したくない気持ちの狭間で

休みたい気持ちと後悔したくない気持ちの狭間で

――子ども食堂を始めたきっかけは?

40代後半から家庭支援センターで子育て支援専門員として働き始め、毎日コンビニ食やファストフードを食べている子どもたちや孤食の子どもが多いことに気付き、胸を痛めるようになったんです。

専業主婦だった頃から食に興味があり、安全な食材を買って食事をすることが普通だった私にとって、食事が家で用意されていない子どもたちを見るのは、切ないことでした。

そんなとき「子ども食堂」という存在を知り、いつか自分も子どもたちに温かくて安全な食事を提供したいと思うようになりました。

――「チャレンジするなら今だ」と思ったタイミングは?

やりたいと思いながらも、50代は働き続けました。最後の方は精神的に負担の大きい仕事のため、心身ともに疲れ果ててしまい、60歳を迎えたときは、このまま仕事を辞めて何もしないつもりでした。

でも友達に「仕事辞めて何やるの?」「年金は65歳からしかもらえないし、好きな旅行も行けなくなるよ」と言われて、「やっぱり死ぬときに後悔しないように、子ども食堂をやろう」と決意しました。そして、せっかく始めるなら、大好きな鎌倉でやろう、と。

鎌倉は高級なイメージがあるかもしれませんが、外からは見えにくいだけで子ども食堂の需要はあります。また、野菜などの物価が安いのも魅力でした。

――子ども食堂を始めるために、どんな準備を始めましたか?

休みたい気持ちと後悔したくない気持ちの狭間で

まずはインターネットで調べて、わからないことがあったら市役所や保健所に聞きに行っての繰り返し。始めるための条件は?運営し続けるためにはいくら必要?などをシミュレーションしていきました。

試算すると、鎌倉で家を借りて、子ども食堂の収益だけで家賃を支払い、運営していくのはかなり厳しいことが見えてきました。そこで考えたのが、民泊とカフェを併設して、子ども食堂の運営資金を賄う方法。鎌倉は観光都市ですし、需要は高そうだなと。

ですが、その条件を満たすためには、家のリノベーションをする必要があり、思った以上にお金がかかることがわかりました。

新しい一歩を踏み出すにも「お金」が足りない!

新しい一歩を踏み出すにも「お金」が足りない!

――民泊を始めるための準備は大変でしたか?

一番大変だったのは、民泊の許可を取ること。

調べると、民泊新法という法律で年間180日しか部屋貸しできないことがわかって……。年の半分しか稼働できないなんて! これは大誤算でした。

でもやると決めたからには、突っ走るしかありません。

それまで民泊に泊まったことがなかったので、実際に泊まって宿主さんにお話をお聞きしたり、保健所や消防署に何度も通って、書類も何度も書き直して……とにかく手続きを通すのが大変でしたね。

――資金はどうやって工面したのですか?

本当は自分のお金だけで工面したかったのですが、民泊となると、布団やベッド、家具や家電などの購入でさらにお金がかかります。

そこで、クラウドファンディングを利用しました。

目標金額は300万円。クラウドファンディングは、興味や関心を得られれば、多くの人からの支援を受けることができる半面、目標額に達しなければプロジェクトは不成立となり、支援金は支援してくれた人たちに全額返済しなければいけません。

幸い、たくさんの方が支援してくださり、ちょっと足りない分は夫の強力なサポートもあり(笑)、なんとか目標額をクリアし、350万円の支援金を集めることができました。

実は自分の貯金は老後資金のために貯めていたものでしたが、後悔はまったくしていません。自分が死ぬときに「本当は子ども食堂をやりたかったなぁ、鎌倉に住みたかったなぁ」と思いながら死ぬよりも、鎌倉に住めて、子ども食堂ができたら、お金が無くなってもハッピーでしょう?

新しい一歩を踏み出すにも「お金」が足りない!

 ――どうやって物件を探したのですか?

普通に不動産屋さんに行って物件探しを始めました。さすがに購入することはできなかったので、賃貸で。

最初に内見したのがこの家です。もともとシェアハウスとして使われていたので、キッチンも広く、部屋数も多くて、食堂や民泊を始めるにはぴったりの間取り。

もちろん、納戸だったところをトイレにしたり、狭いお風呂を広げたりとリノベーションは必要。カフェの許可を取るのに専用のトイレが必要だったり、民泊専用のキッチンがなければいけなかったり、決まり事があるので、それに合わせて工事をしてもらいました。

2018年から家探しや手続きを始め、4月に賃貸契約、5月からすぐ着工し、7月には子ども食堂と民泊をオープンと、一気に駆け抜けました。

60歳からの単身赴任。住まい、働き方、収入の変化

――家族や周囲の理解や協力はありましたか?

夫は最初から応援してくれていました。私が言い出したら聞かない性格なのをよく知っているから、諦めてるんです(笑)。ありがたいですよね。

神奈川県内の自宅には、夫と息子が2人で暮らしていて、私は鎌倉の家に単身赴任中(笑)。月に2回ほど自宅に帰る、行ったり来たりの2拠点生活です。

娘は最初こそ心配だと反対されましたが、今では子どもを連れて泊まりに来てくれます。

そして、元同僚たちは、今でも大切な仲間。コロナ禍で赤字で苦しんだときに泊まりに来て励ましてくれたり、有益な情報を教えてくれたり、本当に感謝しています。

――子ども食堂はどんな形態で運営しているのですか?

一般的な子ども食堂のほとんどは月1回、しかもその多くが寄付で運営されていますが、私は寄付に頼らず、少なくとも週1回はオープンしたいと思い、今は毎週水曜に開催しています。

食材は、ご近所さんや自治体からの寄付もいただいていますが、それだけでは、食材、場所代、水道光熱費は賄えません。足りない分は、民泊での利益で補っています。

ボランティアさんは、口コミなどで自然と集まってくださった方々。定年退職された元家庭科の先生やご近所の男性、中には遠方から車で来てくださる方もいます。いつも3~4人集まって、テキパキと用意してくれます。お礼は残ったおかずのお裾分け。本当にありがたいです。

60歳からの単身赴任。住まい、働き方、収入の変化
ご近所のパン屋さんが売れ残ったパンを持ってきてくれるので一人1個お土産に

――子ども食堂はどんな雰囲気ですか?

60歳からの単身赴任。住まい、働き方、収入の変化

17時から19時までが子ども食堂。日によって来る人数はまちまちですが、だいたいいつも30~40食分くらいを用意します。民泊の朝食づくり、部屋の掃除、洗濯などの仕事に加えて、15時頃から買い出し、仕込みを始めるので、水曜の午後はもう目の回るような忙しさです。

料金は一食につき、子ども100円、大人500円をいただいて、おかわりは自由。おもちゃや絵本も置いているので、食後にママ同士でおしゃべりしたり、子ども同士で遊んだり、憩いの場にもなるように、自由に過ごしてもらっています。

19時~21時は地元の人から要望を受けて始まった「大人食堂」の時間。やっとひと息つけます。大人食堂ではアルコールも一杯500円で提供しています。

移住してきた私にとって、ご近所さんとの交流を深められる大切な時間です。

――採算は取れていますか?

今は子ども食堂と、途中から近所の人の要望で始まった大人食堂、民泊だけの収入でなんとかやっています。

コロナ禍を経て、今はようやく収支はトントンになった感じです。

ときどき来客数を見誤って大量に料理が残ることもありますが、そんなときは普段、食材の寄付などでお世話になっているご近所さんにお裾分けします。助け合って、お互い様の関係を深めていけたらいいなと思っています。

60歳からの単身赴任。住まい、働き方、収入の変化

未経験の仕事、知らない土地でのチャレンジだけど

――新しいチャレンジを始めたとき、大変だったことは?

鎌倉の人は、親切でやさしい。特にご近所さんには、本当にいろいろな面で助けていただいています。子ども食堂の看板を見て、玄関に油やおしょうゆ、地元の野菜を黙って置いてくれる人も。

一方で、行政とのやりとりは大変でした。以前、働いていた自治体とは違い、サポート体制が薄い上、改善を訴えてもなかなか聞き入れてもらえなくて。学校に子ども食堂のチラシを置いてもらうことができないと、本当に困っている子どもたちに知らせる手だてがなくなってしまう……。だから淡々と続けて、実績を積んでいこうと決めました。

もちろん、気の合わない人や差別的な人に出会うこともありますが、どこにいてもそういうことはあるもの。深く気にせず、「あの意地悪ばあさんめ~」なんて笑い話にして乗り切っています(笑)

――失敗から学んだことは?

未経験の仕事、知らない土地でのチャレンジだけど

子ども食堂に関しては、働いている頃に何度かお手伝いをしたことがあるし、料理はもともと好きで作っていたので、そこまで戸惑うことはありませんでした。

ただ、今の私は自治体の支援員ではなく、食堂のおばちゃん。なのに、つい以前のようにママの子育てに口を出してしまい、失敗したことが何度かあります。ここに来なくなった親子がどうしているか今でも心配しています。

子ども食堂は、子どもだけでなく、ママたちにとっても、あったかいご飯を安く食べられる、ほっと安心できる場所。今の私はその場を提供するのが役目なんだ――、そのことを忘れないように心掛けています。

やりたいことは「これから」でなく「今」やる

やりたいことは「これから」でなく「今」やる

――やりがいを感じるのはどんなときですか?

子どもたちが「おいしい」と言っておかわりをしてくれるのが、本当にうれしい。

あったかいご飯、それを親子で囲む時間、ささやかな食育を通して、一人で悩んだり苦しんだりしているママや子どもたちの力に少しでもなれたら、と願っています。

そして最近、民泊は海外からのリピーター客が多いんです。何度も泊まっているアメリカ人で、ここでのもてなしに感動して自分の国でB&B (ベッド・アンド・ブレックブレックファスト)を始めてしまった方までいるんですよ。

普通だったらなかなか出会えない人ばかりですが、ここにいるだけで世界中の刺激が入ってきます。年を重ねると、同じような年代の同じようなコミュニティばかりとつるみがちですが、子ども食堂では近所の親子、大人食堂では近所のいろいろな世代の大人たちが来て、新しい情報を教えてくれます。

ここで出会った人同士が仲良くなっていったり、ここをきっかけに何かにチャレンジする姿を見るのも、うれしいですね。

――人との付き合い方で気を付けていることは?

人を否定しないこと。

どんな人でも否定せずに受け入れていると、いい人が自分の周りに集まってきて、そうでない人は自然と離れていくものです。

ずっと子育て支援専門員として、いろいろな事情がある人と関わってきたので、人間関係を築く方法をいつの間にか身に付けていたのかもしれません。人生にムダな経験はないんだな、と実感します。

――これからチャレンジしたいことは? 

なぜ、「今」でなく「これから」なの(笑)? 

私は、将来のために「今やりたいこと」を我慢するのはナンセンスだと思っているんです。いつ死ぬかわからないし、人生は「今」の積み重ね。今がハッピーじゃなかったら、ハッピーな人生にはならないと思うから。

だから、「将来のために」と考えたことはなくて、やりたいことは“今”やります。

これは60代になって、親友を立て続けに病で亡くしたり、自分も狭心症で苦しんだりして、いっそう強く感じるようになりました。だから、70代、80代になったときのために備えていることは何もありません。

今をよくするために、日々できることを実践しています。

やりたいことは「これから」でなく「今」やる

50代のリスタートに必要な3つの備え

チャレンジするためではなくて、後悔しないように今やりたいことをやるだけでいいんです。そうすれば、自分の行動すべてが楽しくなると思います。

1.やりたいことを言葉にする

一歩踏み出すときに応援してくれたり、支えてくれたり、力になってくれたのが友達やかつての同僚たちでした。普段からいい関係を築いておくことはもちろん、「こういうことをやりたい!」と夢を口にしておくことも大切です。

2.「今」を楽しむ

3年前に心筋梗塞になり狭心症を抱えて以来、今できることは先延ばしせずすぐやろう、今を楽しもうと決めました。将来のためにお金を貯めることも大切ですが、今をエンジョイすること。それが続けば、きっと後悔の少ない、楽しい人生になっていくはずです。

3.自分を大切にする

自分を大切にしないと、人を大切にできません。自分が幸せだから、人に幸せを分けられるのです。目の前においしそうなケーキがあったら「高いな」と諦めず、自分に食べさせてあげてください。小さなことから、自分をハッピーにしてあげましょう。

取材・文=樋口由夏 写真=masaco 企画・構成=長倉志乃(HALMEK up編集部)


************

あなたの“リスタートのヒント”が、きっと見つかるはず。
 → 他のエピソードも読む!(毎月更新)

************

HALMEK up編集部
HALMEK up編集部

「今日も明日も、楽しみになる」大人女性がそんな毎日を過ごせるように、役立つ情報を記事・動画・イベントでお届けします。

今日の運勢ランキング
獅子座 魚座 水瓶座
1
2
3