誰もが直面する可能性がある、大切な人との別れ
【体験談1】大切な夫を亡くしたとき…悲しみの対処法(柏木さんの場合)
【体験談1】大切な夫を亡くしたとき…悲しみの対処法(柏木さんの場合)
公開日:2025年07月23日
3年前に亡くなった夫。今もすぐそばにいるようで日々話しかけています
柏木美紀子さん (77歳)の場合
武蔵野美術大学在学中に同級生の博さんと結婚し、公私を支えてきた美紀子さん。博さんが大好きだった自宅に、今は一人で暮らしています。
「今年も梅の花が咲いたね、とか、気付くと夫に話しかけています。亡くなって3年たちますが、今も家にいる感じがするんですよ」
柏木美紀子さんの夫、柏木博(ひろし)さんは、2021年、敗血症のため75歳で亡くなりました。
近代デザイン史の評論家で、大学で教鞭をとりながら、自宅で執筆活動に明け暮れた博さん。美紀子さんは博さんの原稿を編集者に送付するなどの事務作業の他、求められればアートについて意見を交換するなど、あらゆる面から博さんをサポートしてきました。
「家を建てるときは、私の意向を優先してくれました。大きな窓越しに庭を眺められるこの部屋が、彼の書斎です」
本棚を埋める本も、博さんが散歩道で拾い、デスクに置いては眺めていた小石や鳥の羽根も、生前のままです。
「本は一度、すべて寄贈しようとしたんですけど、本棚って、その人の頭の中、みたいなところがあるでしょう。並べた順番にも、理由があるはずなんです。これが全部なくなってしまったら、博さんがここにいたという事実が薄れる気がして。いつかは整理しようと思いますが、とりあえずこのままにしておこうかと」
博さんは大学を定年退職した2017年、多発性骨髄腫という血液のがんにかかっています。余命宣告を受けますが、治療の甲斐あって寛解。脚のしびれや寒気に悩まされながらも、「ゆっくり、急がずに」と自らに言い聞かせ、病から得た新しい人生を歩もうとしていたと美紀子さんは話します。
「難しかったのが、私のちょっとしたものの言い方とか、些細なことで博さんが傷つくようになったこと。体が弱ると、心も繊細になるんですね。あのときもっとやさしくしていればと、後悔することもあります」
趣味のコーラスにはずいぶん助けられました
博さんがいない事実にはいつまでも慣れない、と美紀子さん。「新聞やテレビを見て感じたことを言い合ったり、ちょっとした雑談ができないことが寂しい」と話します。それでも意識的に外出し、人と交流する場を持ってきました。
「前から続けているコーラスにはずいぶん助けられました。メンバーとお茶したり、忙しいですよ(笑)。仲間がいて、出掛ける趣味があることは大切ですね」
デスクの上もほぼそのまま。今は亡き愛猫、風子の写真を眺めながら執筆にいそしんだ博さん。旅先で求めた小物など、愛着のあるものに囲まれて
ずっと一人で絵を描いてきた美紀子さんは、コーラスを始めたことで、人と合わせる楽しさを初めて知ったのだそう。「何歳からでも人は変われるし、学べる。始めるのに遅過ぎることはない」と実感しています。
寂しさを抱えながらも、日々に楽しみを見つけている美紀子さんの姿は、無理して前を向こうとしなくても、悲しみをいったん脇に置く時間があればいいのだと教えてくれます。
取材・文=取材・文=田島良子(ハルメク編集部)、撮影=上山知代子
※この記事は、雑誌「ハルメク編集部」2024年12月号を再編集しています。




