今月のおすすめエッセー「秘密の時間」めぐみさん
2024.12.312021年07月30日
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座第2期第4回
エッセー作品「山椒」高村富恵さん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から山本さんが選んだエッセーをご紹介します。今月の作品のテーマは「待つ」です。高村富恵さんの作品「山椒」と山本さんの講評です。
山椒
結婚して初めて住んだアパートのお風呂は、今のようにお湯をためるのではなく、水を入れて、ガス釜に火をつけて沸かすものでした。
「もう、沸いたかな?」と思って湯船のふたを開けると、上の方は触れないくらい熱いのだけれど、下の方は真水で、かき混ぜるとまだまだ入れる温度ではなく……。じっと待っていればいいものを、待ちきれなくて、何度も勢いよくかき混ぜたものです。
途中で何度もかき混ぜるものだから、余計に熱が逃げて、沸くのに時間がかかってしまったのですね。
のちに、「教育とは、湯沸かしのように、待つことが大切である。成果が出るのには時間がかかる。」という教育学者の話を聞いて、合点がいきました。
親が約束を守る、時間を守る、といった姿を見せて子供を育てる。そうすればやがて……、といったことですね。
随分前のことですが、何かのアンケートで「ことわざのうち、信じられないものは何ですか?」というのがあって、1番は「果報は寝て待て。」でした。
「運というものは人の力ではどうにもできない。良いことは自然にやってくるものなので、静かに待っているのがいい。」と解釈する人が多かったらしい。でも本当の意味は「やるべきことをやったら、良い結果になるか悪い結果になるかは運次第だから、あわてず落ち着いて待っているのが良い。」だそうです。
待つのも忍耐がいりますよね。
今、庭の山椒の木が芽吹き、日一日と若葉が大きくなっています。
植物は誰に何を言われるまでもなく、時期がくれば芽を出し、花を咲かせ、実を結びます。ああ、自然の素晴らしさよ。
私はと言えば、パソコンの反応が遅いからと、待ちきれずにカチャカチャと余計なクリックをして、画面がフリーズしてしまうという情けなさ。
まだまだ修業が足りません。
山本ふみこさんからひとこと
「じっと待っていればいいものを、待ちきれなくてなんども勢いよくかき混ぜたものです」
「植物は誰に何を言われるまでもなく、時期がくれば芽を出し花を咲かせ、身を結びます」
この二つが、この作品の節目になっています。この節目をうまくつないで、「待つ」ことの意味をとらえてゆく……。
うまくゆきました。読んでいると、書き手は、ほんとは待つことのできる人なのではないかと思わされます。
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。講座の受講期間は半年間。
第3期の募集は終了しました。次回第4期の参加者の募集は、2021年12月に雑誌「ハルメク」の誌上とハルメク旅と講座サイトで開始予定。募集開始のご案内は、ハルメクWEBメールマガジンでもお送りします。ご登録は、こちらから。
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