通信制 山本ふみこさんのエッセー講座第2期第4回

エッセー作品「雨宿り」原エリカさん

公開日:2021.07.30

随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から山本さんが選んだエッセーをご紹介します。今月の作品のテーマは「待つ」です。原エリカさんの作品「雨宿り」と山本さんの講評です。

「雨宿り」
エッセー作品「雨宿り」原エリカさん

雨宿り

雲の合間から薄日が射してきた。もう大丈夫だろう。
イオンミストのような湿り気を顔に感じながら軒下を出た。
10分ほどの雨宿りで気持ちがリセットされ、とりあえず何か食べよう、という気になった。
井之頭五郎(註1)よろしく足を速める。
「腹が、減った。店を探そう。」
全てはそれから考えよう。

「待つ」から「雨宿り」という言葉を連想し、思い付きで書き始めている。
しかし、主人公は誰なのか、この先はどうなるのか、雨に降られる前の状況は、と早くも行き詰った。

「雨宿り」。雰囲気のある言葉だと思う。
折り畳み傘。車での外出。アーケード街や大型ショッピングモール。スマホの雨雲レーダー。それらが雨宿りのシーンを減らした。
今時、どこかの軒下で雨空を見上げるのは自転車通学の中高生や、買い物カートを引いた高齢者くらいだろう。

我が家の門には、瓦屋根が乗っている。冠城門(かぶらきもん)というらしいが、突然の夕立に、女子高校生が数人「キャアキャア」と、その門の下に駆け込んだ夏があった。
タオルやハンカチでお互いを拭きながら笑い転げている。困っているのに困っていない。
騒ぎに気づいた私は、何だか嬉しくて
「大丈夫?濡れちゃったね」
ガラス戸を開けて声をかけた。
「アッ、大丈夫です。すみません。」
笑みを含んだ元気な声が返って来て、また、くすくすと笑いあう。
何でも笑える年頃だと納得しながら
「すぐ止むといいね」
と言って戸を閉めた。
その後も、賑やかなおしゃべりと笑い声が続き、気がつくと私も笑っていた。

台所で夕食の支度をしながら空を見上げ、小降りになって来た、と気付いた時、門の下には誰もいなかった。

見上げる「待つ」は雨上がりやイベントの餅まき。
見下ろす「待つ」はミニトマトの色付きやピタゴラスイッチ(註2)のゴール。
「待つ先」にあるのは良い事ばかりではないかも知れないが、ちょっと先の未来はどうなって行くのか、楽しみに過ごそう。

註1 井之頭五郎……テレビドラマ「孤独のグルメ」の主人公。

註2 ピタゴラスイッチ……ビー玉が様々な仕掛けをクリアしてゴールに行きつく、
   NHKの子供むけ番組。

 

山本ふみこさんからひとこと

書き手「原エリカ」の中に、こういうものが隠れていたんだなと思って、しみじみうれしくなりました。

自分でも気付かない世界観、物語を秘めているのは「原エリカ」だけではありません。

どんな書き手の中にも描かれるのを待っているもの、発見されるのを待っている存在があるのです。大事なのは、自分と自分の未来を信じること。

 

通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは

全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。講座の受講期間は半年間。

第3期の募集は終了しました。次回第4期の参加者の募集は、2021年12月に雑誌「ハルメク」の誌上とハルメク旅と講座サイトで開始予定。募集開始のご案内は、ハルメクWEBメールマガジンでもお送りします。ご登録は、こちらから。


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