- ハルメク365トップ
- カルチャー
- エンタメ
- がんばれのんさん!良映画「私をくいとめて」レビュー
50代コラムニストの矢部万紀子さんによる月2回のカルチャー連載です。「朝ドラ」に関する本も上梓している矢部さんが、「親戚のおばちゃん」のような気持ちで応援しているのんさん(改名前:能年玲奈)の主演映画「私をくいとめて」レビューします。
のん主演映画「私をくいとめて」をレビュー
のんさんの主演映画「私をくいとめて」を見ました。彼女の「親戚のおばちゃん」のつもりなので、公開してすぐに行きました。のんさんは現実より少し年上、31歳の女性・黒田みつ子をひたむきに、巧みに演じていました。アップになるたび、「完璧な目だ」と感動しました。二重まぶたが、絶妙に美しいのです。
みつ子はいつも、独り言を言っています。そこがこの映画の骨格なので、その話は後にします。心の中で、みつ子(とのんさん)に「がんばって」と言いながら見ました。帰り道、「人は人に傷つけられるけど、傷を癒やしてくれるのも人だなー」と思いました。そして、「私、励まされたんだ」と気付いたのです。そういう良い映画でした。
理不尽にもテレビドラマから消された能年玲奈さん
なぜ私はのんさんの「親戚のおばちゃん」になったのか、少し説明します。彼女がブレイクしたNHKの朝ドラ「あまちゃん」(2013年)は、マイ朝ドラ・ベスト3に入る名作です。すごくキュートな能年ちゃんでしたが、その後、のんと改名します。所属していた事務所との確執からだと報じられました。
それから彼女は、テレビドラマに出なくなりました。映画も同様です。アニメ映画「この世界の片隅に」(16年)でヒロインの声を担当しました。名作でしたが、画面に彼女は映りません。あんなにかわいく才能のある、伸び盛りの女性が活躍できない。理不尽にも程があると憤りました。親戚のおばちゃんへの第一歩です。
19年7月、公正取引委員会がジャニーズ事務所に注意したことが話題になりました。SMAPの元メンバー3人を出演させないようテレビ局に圧力をかけたなら、それは違反ですよ、そういう注意でした。直後に話題になったのが、のんさんのマネージメント会社の社長のFacebookです。「テレビ局の若い編成マンから出演依頼があっても、話が進むうちに上から潰される」といった内容でした。親戚のおばちゃん心に、ますます火がつきました。
以来、のんさんを追いかけ、初舞台「私の恋人」(19年)にも馳せ参じました。作・演出は「あまちゃん」で共演した渡辺えりさん。のんという女優を評価したから、起用する。えりさんの心意気に感謝しながら、大ベテランに食らいついてくのんさんの姿を目に焼き付けました。
30代独身女・みつ子が持つ複雑さが見どころ
と、長くなりました。映画の話に戻ります。みつ子の独り言ですが、実は頭の中の「A」との会話なのです。脳内での会話でなく、「ねー、A―」と声に出して話しかけるのです。Aは自分でもあるわけで、みつ子を傷つけず、適切なアドバイスをします。「お一人さまはいいけど、大人女子って、無理。黒い白馬みたいなもんでしょ」と毒づいても、「そうなんだー」「そうかもねー」と軽くいなします。
そんなみつ子が好きになるのが、営業マンの多田くん(林遣都)。この恋がゆっくりゆっくり進む様子も描かれます。ほっこりさせてくれますが、同時に見えてくるのがみつ子の複雑さです。人は誰でも複雑で、みつ子の複雑さもその範疇(はんちゅう)ではあります。が、賢く優しいみつ子の気持ちが、Aとのやりとりではっきり形になります。そしてだんだんとわかってきます。複雑さとはつまり、誰にもある悲しみや寂しさの元なのだ、と。
複雑はしんどく、単純は気楽だ。複雑がもたらす感情はつらいけど、きっと人生を深めてくれる。それが人ってもんで、しんどさがきっと明日につながる。そんなふうに思えてくるのです。最初の方に「励まされた」と気付いたと書きました。つまり、そんなことです。
「一人温泉」に行ったみつ子が、感情を爆発させるシーンが秀逸でした。大浴場に併設された舞台でのお笑いショー。女性芸人のシュールなコントが終わると、酔った男性客が舞台に上がって彼女に抱きつくのです。みつ子は怒り、「やめなさい」と言おうとしますが、できません。
外に出て、泣きながらAと会話します。自分は芸人さんに何もしなかった。その後悔の言葉から、会社でのセクハラ体験の話になります。相手は上司で今も会社にいる、仕事のできる女性がヘッドハントされてきたから、抜かれるのは時間の問題、でもその女性を心から歓迎できない自分もいる。Aにそうぶつけるのです。有能な先輩をストレートに認められない。職場でのみつ子に自分が重なり、胸がいっぱいになります。
みつ子のお一人さまライフは、ファッションも部屋も素敵です。だけど、そんな日々だって、いろいろあるのです。だから、浴衣姿で泣くみつ子が心に染みました。多田くんとの恋、そこで見せるみつ子のためらい。それもわかるから、泣けてきます。
最後に、お楽しみを一つ。Aの声を出しているのは、人気急上昇のあの俳優です。途中でわかる方もいるかもですが、私はエンドロールで「あ!」と思いました。誰なのか、ぜひ劇場でお確かめください。
『私をくいとめて』 大ヒット公開中!
原作:綿矢りさ「私をくいとめて」(朝日文庫/朝日新聞出版刊)
出演:のん 林遣都 臼田あさ美 若林拓也 前野朋哉 山田真歩 片桐はいり/橋本愛
監督・脚本:大九明子
音楽:髙野正樹
劇中歌 大滝詠一「君は天然色」(THE NIAGARA ENTERPRISES.)
製作幹事・配給:日活 制作プロダクション:RIKIプロジェクト
企画協力:猿と蛇
©2020『私をくいとめて』製作委員会
矢部万紀子(やべ・まきこ)
1961年生まれ。83年、朝日新聞社に入社。「アエラ」、経済部、「週刊朝日」などで記者をし、書籍編集部長。2011年から「いきいき(現ハルメク)」編集長をつとめ、17年からフリーランスに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』(ちくま新書)、『美智子さまという奇跡』『雅子さまの笑顔 生きづらさを超えて』(ともに幻冬舎新書)
■もっと知りたい■
-
ちらしずしの飾りつけ
ひな祭りに毎年ちらしずしを作ります。 いつも寿司桶にちらしずしを作り、最後に上にスモークサーモンをくるくる巻いてバラのように載せて飾りつけをするのですが、いつもそれなので今年は違う感じでデコレーションしたいと思っています。 何かお勧めのデコレーション方法は無いでしょうか。 よろしくお願いします。 ※OKWAVEより補足:「ハルメク365( エンタメ)」についての質問です。
締切済み ベストアンサー2024.02.20 -
定期的に見ているテレビ番組はありますか?
最近、テレビ番組というと、お笑い芸人や俳優でもないよく分からないタレントたちが、食べたり、クイズしたり、店(スーパー、飲食チェーン、ホムセン)の紹介などをしているものばかりでうんざりしています。仕方ないのでBSのヨーロッパの旅などを見ていますが、皆さんは定期的に見ている番組はありますか?
締切済み ベストアンサー2023.01.27 -
この女性は誰でしょうか?
添付画像のタレントの名前(芸名)を教えて下さい。 20年以上前の写真です。
締切済み ベストアンサー2022.05.19 -
芸能界について
芸能界は、有名で、さも興味や知っていて当然という風潮があります。 しかし自分には興味がありません。 ちょっとそういうのをテレビやネットで見ても、面白く感じませんし、時間が無駄と思います。 ただでさえ時間の使い方が下手なのに、興味や必要のないものに時間を費やすことに疑問を感じます。 いくら芸能人が尊い存在なのだとしても、あらゆる分野で傑出した才能を発揮しているようには見えません。 また、努力や多くの関係各社、人脈などの関わりで素晴らしい成果を出しているのだとしても、CMや芸能界のビジネスの商品のひとつにすぎないとも感じます。 しかもニュースで、スポーツ選手や将棋などの活躍している人を紹介しても、ニュースで芸能人を全く紹介しませんし、違和感も感じます。 そうして、もしかすると、芸能界に興味のある人でも、海外で活躍中のあらゆる芸能人は、日本人ほどテレビやネットにおいて話題にされていない気がします。 もしかして海外のあらゆる芸能人は、テレビなどで頻繁にはやらない。 そのため芸能界に興味のある人も、海外のは特に興味を感じない。 なんてことはないですか? もし違っていたら、心から、本当にすみません。 以後、二度とこのようなことのないよう、独善的にならないように、他人とも話し合った上で書き込みさせていただきますので、お許し願いたいと存じます。 しかし、もし、自身の感じたことが正しいなら、ニュースを少し見る以外は芸能関係をあまり見ない自分と同じなのでは、と思いました。 見ないから興味が出ない。別にそれで良い。興味がないから見ない。 と、有名な芸能人を知っていて当然という人と、正反対の自分と、実は同じなのではと、思うのです。 芸能人以外にも、実績や成果を出している人は、全ての分野にいると思いますし、有名とはいえ、興味のないことに、とくに芸能界ばかりに労力や時間を取りたくはないのですが、どうなんでしょうか。 つまり、芸能界くらい知っていて当然と感じる人も、他のあらゆる分野や、有名な外国人での、膨大な人数の有名人や著名人までは、興味がないから別に把握しようとしない、とそういう分野も存在(自分と同じく)するのでは・・・と疑問を覚えました。 説明が下手で、屁理屈みたいになってしまって失礼しました。 とりあえず、最後の方に書いた疑問に答えていただければ嬉しいです。
締切済み2022.04.29
-
親の医療・介護費が不足?
住宅ローンや子の教育費などお金がかかる50~60代。一方で親は高齢となり、その金銭面の援助も不安。解決策を探ります。 -
プロが教える珈琲の淹れ方
家や職場で手軽に楽しめるドリップコーヒーが、ちょっとしたコツで本格的な味わいに。その極意をプロにこっそり聞きました。 -
質のいい睡眠できてる?
質のいい睡眠は健康の基本。ハルメク読者が専門家に、睡眠の質を向上させる秘訣を聞きました! -
野菜毎日摂れていますか?
毎日の食事で野菜はきちんと摂らないと、と思っているけど……という方に、上手に野菜を補うヒミツをご紹介します。 -
お出掛け後「ひざが楽に」
春はお出掛けや旅行の気分が高まります。「でもひざが痛い・こわばる」というお悩みに、筋肉をほぐすマッサージャーをご紹介。 -
巻き爪から足を守る方法
巻き爪は放っておくと身体の不調やさらなる悪化を招くことも!放置は厳禁の巻き爪の、原因や治療法などを専門家に聞きました。