今どきの若者たちが単純には結婚しない理由も伝わる

「バチェロレッテ」は古い男女観を消し去った深い番組

公開日:2020.10.29

更新日:2020.10.29

50代コラムニストの矢部万紀子さんによる、月2回のカルチャー連載です。今回はAmazon Prime Videoで独占配信中の婚活サバイバル番組「バチェロレッテ・ジャパン」。アップデートされた今どきの男女観と若者たちの恋愛事情にも注目です。

(C) 2020 Warner Bros. International Television Production Limited
(C) 2020 Warner Bros. International Television Production Limited

正直、バチェラーシリーズは共感できませんでした

Amazonプライムビデオで配信中の「バチェロレッテ・ジャパン」は、アメリカ発の人気「恋愛リアリティーショー」の日本版です。バチェロレッテは「独身女性」を意味する英語、先行した「バチェラー・ジャパン」という番組があり、そちらは「独身男性」という意味です。

キーワードは「独身」。どちらの番組も、ハイスペック(見かけが良くて、お金持ち)の1人を複数の異性が争う「結婚相手争奪、勝ち抜きデート合戦」です。デートは国内外での豪華なもので、それを実況中継するという構成です。

2017年に始まった「バチェラー・ジャパン」はシーズン3まで配信されています。1と2を2年前に見ました。アラサー女性に人気だと聞き、仕事として見たのです。でも、苦痛でした。婚活とはかなり無縁のアラ還なのもありますが、そもそも女性たちが「選んでいただく」構図に共感できません。

その上、シーズン1は35歳のバチェラーに対し、女性25人のうち14人が20代前半。明らかな若さ優先でした。2では少し是正されていましたが、構図は同じです。ところが「バチェロレッテ・ジャパン」は違いました。選ぶ方と選ばれる方が互角というか、それぞれが真剣なのです。

「バチェロレッテ」は人間対人間のドキュメンタリー番組

その違いはどこから来ているかというと、バチェロレッテの姿勢です。相手の内面を知りたい、そして自分の内面を知ってほしいと切に願っています。だから、質問を繰り返します。あなたは何を思っているのか。私をどう思っているのか。きちんと言葉で返せなかったり、つじつまの合わない話をした人は振るい落とされます。結果的に、男性たちが変わっていきます。内面を見つめ、成長していきます。人間対人間。ドキュメンタリー番組を見ているように感じます。

バチェロレッテ
(C) 2020 Warner Bros. International Television Production Limited

バチェロレッテはモデル兼スポーツトラベラーという肩書の福田萌子さん(32歳)です。バチェラーのときと違い、番組ホームページに学歴は書かれていませんが、「規格外セレブにして現代的な強さと美しさを兼ね備えた」と紹介されています。

対する男性は17人。彼女はまず、「好きな仕事を2か月間休んでまで、なぜこの番組に参加したのか」という質問をします。自分も仕事が好きだから、聞くのだと思います。

バチェロレッテ
(C) 2020 Warner Bros. International Television Production Limited

「萌子さんだったから」と答えた人に、彼女は「私を見て、応募してくれたの?」と聞き直しました。ある人は、「応募時には見ていない」という答えでした。「(自分の仕事であるスーツテーラーとして)スーツのよさを知ってほしかった」と答えた人もいました。番組に出れば知名度が上がる。それを考えた、と率直に語ったのです。最初の人はその回でお別れ、次の人は次にコマを進めました。福田さんの選択、すごく共感が持てます。

バチェロレッテ
(C) 2020 Warner Bros. International Television Production Limited

全員とハードな運動をするというデートもありました。腕立て伏せをしながら「ふざけんな、このヤロー」と言った男性がいました。自分に喝を入れるためだったとは思います。が、彼女はそれを「どっきりした」と語りました。言葉は大切なものだから気になる、とも言っていました。その男性も、そこまででした。本気で結婚したいから、相性はとても大切なのだと福田さんは言います。視点がとても正しい、と思えます。

人前で弱みを見せない「男らしさ」は過去のものに

バチェロレッテ
(C) 2020 Warner Bros. International Television Production Limited

日本育ちだけれど、ルーツはオーストラリアとブラジルという2人のハンサムも登場します。通訳と歌手という2人です。2人ともが小さい頃に受けた「いじめ」のことを語ります。通訳さんは「見かけで人を判断しないで」と訴えます。福田さんは「私は見かけで判断しない。逆に、人は見かけで判断すると最初に判断してはダメ」と彼に伝えます。それを聞いて彼は、福田さんを「先生です」と言っていました。同感です。

2人以外にも、自分語りをする男性が続出です。泣きながら、心情を切々と訴えます。男性は、人前で弱みを見せない。そんな「男性らしさ」は過去のものだとわかります。女性は「選ばれる存在」ではなく、仕事観も含め、同じ感性の人を探しているのです。男性も同じはずなのに、古い男女観のままで進んだのが「バチェラー・ジャパン」。だからまるで楽しめなかったと、福田さんのおかげでわかりました。

単純に恋愛してそのまま結婚する時代ではなくなっている

バチェロレッテ

そんな彼女の相手ですが、すごく対照的な2人が残ったということだけ書いておきます。Amazonプライムビデオはいつでも視聴可能ですので、ぜひ初回から見てください。今どきの人が、どんなに繊細かがわかります。自分というものが捉えきれず、だから自分より人の目を気にしてしまい、自分を見せることが不得手なようなのです。単純に恋愛し、そのまま結婚する。そういう時代ではないと、「晩婚、非婚」の一端に触れた気もします。

最終的に選ばれるのはどんな人か。結果がわかる最終話の配信は、10月30日(金)午前零時(木曜24時)。私もとても楽しみです。

 

■もっと知りたい■

矢部 万紀子

1961年生まれ。83年朝日新聞社に入社。「アエラ」、経済部、「週刊朝日」などで記者をし書籍編集部長。2011年から「いきいき(現ハルメク)」編集長をつとめ、17年からフリーランスに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』(ちくま新書)『美智子さまという奇跡』『雅子さまの笑顔』(幻冬舎新書)

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