愛の不時着ロスの特効薬!おすすめヒョンビン沼作品
2020.07.062020年05月24日
ドラマウォッチャーが15年ぶりに韓流ドラマに熱中
沼落ち必至「愛の不時着」は重厚な大人の恋愛ドラマ
50代コラムニストの矢部万紀子さんによる、月2回のカルチャー連載です。「朝ドラ」に関する本も上梓しているドラマウォッチャーの矢部さん。コロナ禍の中ハマったのが、定額制動画配信サービスNetflix (ネットフリックス) の韓流ドラマでした。
私、沼にハマりました
沼にハマる。そんな表現をご存じでしょうか? 例えば3月まで放送されていて朝ドラ「スカーレット」では、ヒロインの夫・八郎を演じていた松下洸平さんが人気になり、「八郎沼」という言葉が飛び交っていました。
今どきらしい、大げさだけど楽しい表現。そう理解していたのですが、まんまとハマったのです、私も。驚きました。まさに沼です。抜けられないどころか、抜けなくていい、むしろずっと沈んでいたい。そんな気持ちになりました。
5日で完走してしまった韓流ドラマ「愛の不時着」とは
というわけで、本日は私がハマった沼、「愛の不時着」について書きます。Netflixで配信中の韓国ドラマです。1話が80分前後で16話。すべて見ると21時間半近くかかります。5日で見ました。最初はポツポツ見ていたのですが、最後の2日は何もしないで見ました。Netflixのトップページでは、このところずっと「(再生数)日本1位」か「2位」が定位置です。ハマる人続出の、深い沼です。
韓国の財閥令嬢で、自らのファッションブランドを成功させている経営者ユン・セリ(ソン・イェジン)が、パラグライダーの事故で北朝鮮に不時着するところから始まります。彼女を発見するのが、北朝鮮の中隊長リ・ジョンヒョク(ヒョンビン)です。そんな二人のラブストーリーであると同時に、セリの脱出劇でもあるのです。
と書くと、荒唐無稽な感じがするかもしれません。でも、一度も「うっそー」と思いません。北朝鮮の暮らしが描かれます。実態のわからない国ですが、リアルに感じます。脱北者から取材をして制作したという報道も見ました。ですが、それ以上に人物造形が深いのだと思います。いくつものストーリーが交差します。それを構成する人々の背景が、丁寧に描かれているから説得されます。実に重層的なドラマです。
分断された国境を挟んでの愛ですから、最初から結ばれないことがわかっています。大きな制約の中で、命を懸けてユン・セリを守ろうとするリ・ジョンヒョク。リ・ジョンヒョクに魅かれていくユン・セリ。双方に感情移入し、気付いたら何時間もパソコンにかじりついています。
リ・ジョンヒョク演じるヒョンビンさんが、とんでもなくカッコいいです。185センチの鍛えられた体&整った顔は、過去のある特殊部隊の精鋭(実はエリート家庭出身)という役どころにぴったりです。日本での「愛の不時着」人気は、従来の韓流ドラマファンを超えている。その理由を韓国人女性に尋ねてみた、という記事を読みました。答えは一言、「ヒョンビンだからね」だったそうです。
私自身、韓流ドラマは15年前に「宮廷女官チャングムの誓い」を見ただけです。夢中で見ましたが、その後は全然見ませんでした。それがこんなにハマったのは、「ヒョンビンだからね」も大いにあります。だけど、それだけではありません。アラフォーの恋愛。それが切なく、ハマりました。
日本のドラマは、アラフォー女優を水戸黄門にしがち
ドラマの中で二人の年齢は語られません。ですが、成功した会社経営者と中隊長ですから、間違いなく大人同士です。調べるとソン・イェジンさんが38歳、ヒョンビンさんは37歳、アラフォー同士でした。二人の円熟した演技が、大人の分別とピュアな恋心を確かに感じさせ、もっていかれます。
そして二人を見ながら考えたのが、日本のドラマのことです。ヒットしたアラフォーのラブストーリーって、あったかしらと思いました。ほとんど見たことがない気がします。
アラフォー女優が主演だと、なぜか水戸黄門的な展開になるのが日本のドラマです。典型は、米倉涼子さん(44歳)が8年前から主演している「ドクターX」(テレビ朝日系)。フリーランスの外科医・大門未知子の決めぜりふ「私、失敗しないので」はとてもカッコいいですが、「この紋所が目に入らぬか」の現代版だと思います。
年齢を重ねた女性は、何でも解決してくれる仕事の達人として描く。それが悪いことだとは思いません。でもそれは、女性の達人は珍しいという制作サイドの思いの表れなのでしょう。実態もまだ、そうかもしれません。実態を分析することはしませんが、少なくともアラフォー女子は仕事だけというのは、少し不自然ではないかしら、と思うのです。
ユン・セリは、できるビジネスウーマンぶりを北朝鮮でも発揮します。村の中で権力を持つ人を探して近づきますし、助けてくれる中隊長の部下たちには表彰状を渡します。そういう人が恋愛をする。それは実に当たり前なことなのに、とても新鮮に映りました。
日本のドラマには、大人の恋愛が不足しすぎ。「愛の不時着」は、そんなことに気付かせてくれる沼でもありました。
矢部万紀子さんと「ナビレラ」について語ろう!
韓国ドラマ「ナビレラ」で<幸せの見つけ方>の話をしませんか? この記事をきっかけに矢部万紀子さんが、神保町にある韓国書籍専門のブックカフェ「CHEKCCORI(チェッコリ)」のイベントに参加することになりました。定員30名のオンラインイベントで、皆さんの感想やお気に入りのセリフ、場面などを語らいましょう。
<イベント概要>
■日時:2021年6月18日(金)20:00~21:00
■参加費:イベント参加券1,500円
■定員:30名
◆お申し込みはチェッコリホームページで!
矢部万紀子(やべ・まきこ)
1961年生まれ。83年、朝日新聞社に入社。「アエラ」、経済部、「週刊朝日」などで記者をし、書籍編集部長。2011年から「いきいき(現ハルメク)」編集長をつとめ、17年からフリーランスに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』(ちくま新書)、『美智子さまという奇跡』『雅子さまの笑顔 生きづらさを超えて』(ともに幻冬舎新書)
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