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女性におすすめの最新映画情報を映画ジャーナリスト・立田敦子さんが解説。今回は、塚本晋也(つかもと・しんや)監督の最新作、第二次世界大戦直後を舞台に、戦争がもたらしたものを子どもの視点で描き出す骨太な作品。
目次
「ほかげ」
ヴェネチア国際映画祭をはじめとする国際映画祭の常連で世界的に多くのファンを抱える塚本晋也(つかもと・しんや)監督の最新作は、第二次世界大戦直後を舞台に、戦争がもたらしたものを子どもの視点で描き出す骨太な作品だ。
第二次世界大戦のフィリピン戦線における極限状態を描いた大岡昇平(おおおか・しょうへい)の小説が原作の「野火」、幕末を舞台に暴力の本質に迫る「斬、」に続く、「戦争と人間」がテーマだが、本作が焦点を合わせているのは、生き残った者たちの痛みである。
夫と息子を亡くし、焼け残った小さな酒場で体を売りながら一人生きている女(趣里<しゅり>)は、元教師の復員兵(河野宏紀<こうの・ひろき>)と戦争孤児(塚尾桜雅<つかお・おうが>)とともに暮らし始める。
3人にはそれぞれ、戦争の爪痕が深く刻まれており、終戦は必ずしも幸福の幕開けではないことを改めて思い知らされる。戦争が奪ったものはあまりにも大きく、復元は不可能だ。後半に登場する、森山未來(もりやま・みらい)が演じる謎のテキ屋は、「野火」の世界の延長といえるかもしれない。
戦死した仲間たちの亡霊を背負って生き延びた復員兵は、生きながら魂の地獄をさまよう。
本作は、塚本監督が子どもの頃に抱いた「闇市」への興味が起点になっているという。叩きのめされてもなお、生きることへの執着は驚くべきエネルギーとなって戦後の「闇市」にみなぎっていたのだという。
物語で描かれることは確かに悲痛な状況であるが、暗さだけが漂っているわけではない。ひと筋の光は子どもが体現する底知れない生命力と未来である。転んでも立ち上がり、明日に向かって生きようとする本能的な力を子どもは宿している。
子どもの目には大人たちの起こした戦争という愚行はどのように映っているのだろうか。世界的に戦争が影を落とす今こそ、戦争の本質を見つめ直すべきだろう。
「ほかげ」
戦後、瓦礫だらけの町でかろうじて焼け残った小さな酒場で一人暮らしをしている女(趣里)の元に、戦争孤児の少年が転がり込む。客として訪れた若い復員兵とともに疑似家族のような暮らしを始めるが――。
監督・脚本・撮影・編集・製作/塚本晋也
出演/趣里、森山未來、塚尾桜雅、河野宏紀、利重剛、大森立嗣他
製作/海獣シアター 配給/新日本映画社
2023年11月25日(土)より、ユーロスペース他、全国順次公開
https://hokage-movie.com/
今月のもう1本「正欲」
実家暮らしの販売員の桐生夏月(新垣結衣)は、中学の同級生(磯村勇斗)と再会し、心がさざ波だつ――。
“人とは違っている”と自認する性癖ゆえに孤独を深めている人々を通して、現代社会における人と人との絆や孤独という問題に踏み込む。冒頭で起こる事件を担当する検事・寺井を稲垣吾郎が演じる。
朝井リョウのベストセラーを元に「あゝ、荒野」の岸善幸監督がセンシティブなテーマに挑んだ野心作。
監督・編集/岸善幸
原作/朝井リョウ『正欲』(新潮文庫)
出演/稲垣吾郎、新垣結衣、磯村勇斗、佐藤寛太、東野絢香他
製作/murmur 配給/ビターズ・エンド
202311月10日(金)よりTOHOシネマズ日比谷他、全国公開
https://bitters.co.jp/seiyoku/
文・立田敦子
たつた・あつこ 映画ジャーナリスト。雑誌や新聞などで執筆する他、カンヌ、ヴェネチアなど国際映画祭の取材活動もフィールドワークとしている。エンターテインメント・メディア『ファンズボイス』(fansvoice.jp)を運営。
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