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- 「終わりと始まり、流れのままに」吉川洋子さん
「家族」をテーマにしたエッセーの書き方を、エッセイストの青木奈緖さんに教わるハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から青木さんが選んだエッセーをご紹介します。吉川洋子さんの作品「終わりと始まり、流れのままに」と青木さんの講評です。
終わりと始まり、流れのままに
30数年前のことだ。
40過ぎの夫は一技術者として昼夜を忘れて分析機械の開発に没頭していた。
子どもの頃の趣味の延長線上で引き寄せた仕事だった。
それが思わぬ流れからある日突然そこを去り、別会社を立ち上げ社長にならざるを得なくなった。
経営や人事など、それまで無縁の世界が自分の責務役割として加わった。
青天の霹靂の終わりと始まりの出来事だった。
生来、楽天的資質の彼は幾度の苦境も必ずや良き時が来ると、遠くの点のような明かりを信じ続けて、今はどうにか先もありそうな所にいる。
後期高齢者を目前にした夫の重要課題の一つは後継者問題だった。
長男は夫婦で立ち上げた若者自立支援の仕事が、彼の性に合っている。
そこで夫は社員の中から社長を選ぼう、と会社の理念を理解する人を見極め、話を進める決意をしていた。
そんな折、経営コンサルタントから強いダメ出しがはいった。
全権を持つ社長でないと会社は回らないという事例を引いた話で、再び、はてさてという迷路にはいり込んでしまった。
そうなると、夫の脳裏には県外にいる独身の長女の存在もちらほら浮かぶようでもあった。
私は、娘のキャリアや沢山の友人知人や地域などで築いてきたものを思い、彼女への声かけは慎むようにと夫に釘を刺し続けていた。
母親としては娘がそれまでしてきたことを尊重してやりたかった。
その上、異分野の理系の会社に入るなど99%あり得ないとも思い込んでいた。
だが、2年前の夏の帰省の折、親子3人で外食した時の事だった。
彼女が自分から進んで「会社に入ろうか。」とぼそっと口に出したのだ。
残り20年の仕事人生があるなら教員でなくても別のことに挑戦もありかな、と。
私は、一時の気の迷い程度にしか思わなかったが、娘は徐々にその覚悟を決めていったようだ。
その上この流れは、一つの帰結と始まりの思わぬ展開も秘めていた。
直系の親族が我が家のみという祖父の実家が我が家の目と鼻の先にあった。
そこに一人住まいしている90過ぎの叔母の余命がわからぬところにきていた。
3年ほど前から病気を抱えたその叔母の身元引受人に夫がなって、私は彼女の世話を引き受けていた。
高齢の叔母の思いがあやふやで家の相続の問題はほったらかしのままになっていた。
このまま進展もないかと思われた頃、担当の司法書士から、帰ってくる娘を養女にするのが最良の道との後押しがあった。
この降って湧いたような勧めを娘は気軽に受け容れた。
叔母の家は地元に根をはった人たちだった。
私達に任せられることにでもなればその家は地域や種々の活動拠点のコミュニティハウスとして活かそうと考えていた。
どうやらそれは娘の心に叶ったことでもあったらしい。
叔母が亡くなる1ヶ月少し前、滑り込みセーフの養子縁組となった。
事態を静観している中で、堰を切ったようにどっと来た流れだった。
今はコミュニティハウスのオープニングに向けてのリフォームも進んでいる。
娘は何も分からぬことを武器に「仕事を楽しく」をモットーに会社を着実に自分の場にし始めた。
青木奈緖さんからひとこと
わが子の成長をありありと実感する瞬間が見事に描かれています。母親は常に子どものことを思ってあれこれ気を揉むのですし、そんな暖かな家庭の中でお嬢様はいつのまにか家業を継ぐ決意を固めていらしたのですね。
子どもの成長の記録には、写真アルバムだけでなく、今や動画もさまざまな方法があります。「書き残す」ことは古典的で何の目新しさもありませんが、親の気持ちを伝える方法としては雄弁で、古びてしまうことはないように思います。
ハルメクの通信制エッセー講座とは?
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回家族の思い出をエッセーに書き、講師で随筆家の青木奈緖さんから添削やアドバイスを受けます。書いていて疑問に思ったことやお便りを作品と一緒に送り、選ばれると、青木さんが動画で回答してくれるという仕掛け。講座の受講期間は半年間。
現在第5期の講座を開講しています(募集は終了しました)。2023年3月から始まる第6期参加者は2月7日まで受付中。詳しくは雑誌「ハルメク」2023年2月号の誌上とハルメク365WEBサイトのページをご覧ください。
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