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- エッセー作品「次男の言い分」北谷利花さん
「家族」をテーマにしたエッセーの書き方を、エッセイストの青木奈緖さんに教わるハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から青木さんが選んだエッセーをご紹介します。北谷利花さんの作品「次男の言い分」と青木さんの講評です。
次男の言い分
「3人の兄弟の中で、俺だけが幼稚園から大学まで、ずっと公立や。
兄ちゃんや妹は、私立の高校行ってお金かけてもらっとる。不平等や。」
と次男が言った。
いやいや、できれば、3人とも授業料が安い公立に行かせたかったよ。
でも、私立しか受からなかったんよ。
兄弟の中で、一番頭の良いあなたには将来を期待しているよ、と答えた。
そして、その次男の大学生活。
長男も同じ時期に県外の大学に行っており、仕送りが充分にはしてあげられなかった。
次男は日中は大学に通い、夜はゲームセンターでアルバイトを始めた。
もともと夜には強いが、朝に弱い子だった。
県外から毎朝、電話をかけて、朝起こしていた。
だが、その内に、朝に起きても二度寝をするようになり、寝過ごして授業に出られなくなった。
ついには、単位を落として、留年になった。
次男を連れ出しては、何度もゼミの教授のところに頭を下げに行ったものだ。
2年、そして3年と、留年を繰り返していた。
もうこれからは本当に、きちんと朝起きて大学へ行くんやで、としつこく言いきかせた。
今度こそは、と思っていた日のこと。
電話をかけても出なくなり、何度も送ったラインも未読のままになった。
それが数日続き、教授に連絡を取ったが、しばらく大学に来ていないとのこと。
不安を覚えた。車をとばして、次男のアパートまで行った。
ドアのチャイムを鳴らしてもドンドン叩いても、応答がない。
アパートの管理人さんに頼んで、部屋の鍵を開けてもらった。
足の踏み場もないほどちらかった部屋。
こもった空気。
窓際のベッドに、やどかりのように頭からふとんをかぶり、小さく閉じこもった次男がいた。
無事で良かった。
次男に期待をかけ、追いつめ過ぎていたのだ。
大学をとにかく卒業することを目標にしてきたが、次男だけでなく、親の私たちもあきらめることにした。
中途退学の手続きを大学に取りに行った。
本当は、もっと早くこうすべきだったのかもしれない。
次男はずっと一人で苦しい思いをしていたけれど、言い出せなかったのだ、と思った。
その後、次男はゲームセンターのアルバイトを続け、こちらの地元の店に転勤となり、店長になった。
家に帰って来て、仕事も落ち着き、安心した。
そして先月、「家を出て、彼女と同棲しようかと思っているんやけど。」と次男が言い出した。
戸惑った。けれども、次男はちゃんと自分の選んだ道を歩んで行っているのだ。
「好きなようにしたら良いよ。」
と答えると、
「良いの? 反対しないの?」
と、私の目をのぞき込み、嬉しそうにほほ笑んだ。
青木奈緖さんからひとこと
家庭内の会話がいきいきと描写されていて、この作品を読む人はまるでこの家のリビングに同席しているかのような感覚が味わえます。
最後のシーンはそれまで心配をかけ通しだったご次男が大人の責任ある男性へと変貌する瞬間が捉えられていますね。きっと後々とても感慨深い作品になるはずです。
この作品は動画朗読作になったのですが、とても音読しやすく流れるような文章です。
ハルメクの通信制エッセー講座とは?
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回家族の思い出をエッセーに書き、講師で随筆家の青木奈緖さんから添削やアドバイスを受けます。書いていて疑問に思ったことやお便りを作品と一緒に送り、選ばれると、青木さんが動画で回答してくれるという仕掛け。講座の受講期間は半年間。
現在第5期の講座を開講しています(募集は終了しました)。2023年3月から始まる第6期参加者は2月7日まで受付中。詳しくは雑誌「ハルメク」2023年2月号の誌上とハルメク365WEBサイトのページをご覧ください。
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