通信制 青木奈緖さんのエッセー講座第4期第5回

エッセー作品「一本の電話を受けて」加地由佳さん

公開日:2022.10.07

「家族」をテーマにしたエッセーの書き方を、エッセイストの青木奈緖さんに教わるハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から青木さんが選んだエッセーをご紹介します。加地由佳さんの作品「一本の電話を受けて」と青木さんの講評です。

「一本の電話を受けて」
エッセー作品「一本の電話を受けて」加地由佳さん

一本の電話を受けて

梅雨空の午後1時前、お昼を済ませたのに何かもう一口ほしいなと思ったところに電話がなりました。
電話機を見ると赤いランプが点き、圏外とディスプレーに出ています。
いつもなら登録をしている番号からかかった電話では緑色のランプが光ります。
誰かな? と思いながら好奇な気持ちで受けました。
女性の声で「こちらは北警察署○○課小山です。お宅、狙われています。ゆうちょ銀行サイトウヨシキ37歳、京都銀行ヤマダナオキ41歳が大きな事件を起こし捕まっています。2人は加地さんの所を狙っていたというのですが、2人の名前にお心当たりがありますか?」との事。

「ありませんが……」
「ご家族は?」
「私は1人ですが、大学院生の孫が2階にしますし、隣には息子がいます」
「今、息子さんはいますか?」
「今は仕事で留守です」
「嫁さんはいますか?」
「今、いますよ」
と答えると電話はプツンと切れました。

腑に落ちない私は、同じ北警察管轄の京都銀行鞍馬口支店の懇意にしている支店長に、ヤマダナオキという行員さんを尋ねようと思い電話をしたら、「加地さん、それって詐欺よ。私から北警察に連絡します」との事。
「えー」と思っていたら、折り返し支店長から電話があり、「一応、連絡をしておきましたが、そちらから北警察へ詳細の電話をして下さい」と。

教えられた番号にかけました。
今度は男性の警察官が応答してくれて、「最近この地区の被害が増えています。気をつけて下さい。何かあれば110番をして下さい」と話されました。
このお巡りさんとの電話が終わり5分も経たない間に、パトカーのスピーカーから「先程、この近くで不審な電話があったと通報がありました。決して、他人には通帳やカードを渡さないように気をつけましょう」と流れる声を聞き、私は家の中からパトカーが2、3回、家の周囲を巡回しているのを感じながら、この素早い対応に感激をしました。

早速、娘や大阪の姉に伝えようとしたら留守、和歌山の姉にやっと繋がり、話ができて落ち着きました。
何事もなくよかったですが、北警察ですと言ったので、こちらの情報を話してしまったのを反省しています。
これから気をつけよう。

夕方、帰ってきた孫に話して、着信履歴を調べたら表示圏外と残っています。
これは外国からかけているのでは? と孫が言うやら。不思議な電話でした。

それからは非通知の電話にも出ないようにしていますが、そうもいかず、電話の呼び出し音に一喜一憂するようになっています。

青木奈緖さんからひとこと

昨今、電話の詐欺はいろいろなバージョンがあるので「オレオレ詐欺」とは言わずに、「特殊詐欺」や「電話de詐欺」と呼ばれているようです。この方は幸い被害に遭われずにすみましたが、実際にこんな電話がかかってきたらどんなに慌てるでしょう。

作品全体を会話で構成して、臨場感・切迫感が伝わります。一段落ついたあとも、早くことの顛末を身内に話して安心したい、心を落ち着かせたいというお気持ちがよくわかります。

皆様にご覧頂いて、防犯の意識を高める一助になればと思います。

ハルメクの通信制エッセー講座とは?

全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回家族の思い出をエッセーに書き、講師で随筆家の青木奈緖さんから添削やアドバイスを受けます。書いていて疑問に思ったことやお便りを作品と一緒に送り、選ばれると、青木さんが動画で回答してくれるという仕掛け。講座の受講期間は半年間。

2022年9月からは第5期の講座を開講します(募集は終了しました)。
次回第6期の参加者の募集は、2023年1月を予定しています。詳しくは雑誌「ハルメク」2023年2月号の誌上とwebサイト「ハルメク365」内の『イベント予約』でご案内します。

■エッセー作品一覧■

ハルメク旅と講座

ハルメクならではのオリジナルイベントを企画・運営している部署、文化事業課。スタッフが日々面白いイベント作りのために奔走しています。人気イベント「あなたと歌うコンサート」や「たてもの散歩」など、年に約200本のイベントを開催。皆さんと会ってお話できるのを楽しみにしています♪

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