今月のおすすめエッセー「秘密の時間」めぐみさん
2024.12.312022年10月07日
通信制 青木奈緖さんのエッセー講座第4期第5回
「アマリリス嫌いといいし父の事」中田富子さん
「家族」をテーマにしたエッセーの書き方を、エッセイストの青木奈緖さんに教わるハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から青木さんが選んだエッセーをご紹介します。中田富子さんの作品「アマリリス嫌いといいし父の事」と青木さんの講評です。
アマリリス嫌いと いいし父の事
ある日、父が言った一言である。
その花を嫌いと言った理由を、「なぜなの?」と聞かなかったので得心がいかないまま、今にいたっている。
嫌いと言ったのはかなり前の事で、その後、アマリリスを人から頂いて鉢に入れ、庭に置いたのも20年以上前の事だった。
定年後、公民館の俳句クラブに入会して毎月5首提出し、読了後、皆で投票し優秀句を選出するという流れの中で、「アマリリス……」の一句に1票入れて頂いた。
長いこと祖父母との3人暮らしだったので会話が弾むという事もなく、
20歳から両親も同居するようになったが、母も無口な人だった。
一方、父は明るい人で、不機嫌な顔は見た事がなく、良くしゃべる人だったと思う。
私は一方的に聞くばかりで、会話の途中に、こちらから言葉をさし挟む事はなかった。
アマリリスの一件も、なぜ嫌いになったのか、いかにも嫌そうに言った父の顔を思い出すたび、聞かなかった事を心残りに思っている。
家族だから、当然、理解し合える筈だという思い込みは、しばしば外れる。
家族だからこそ、分かり合えない。
時々、黙り込む夫を見ていると、なおいっそう言葉で伝える事はとても大事なことだと切実に感じている。
私も面と向かって話すのは苦手だ。娘からも「話す事が回りくどく、支離滅裂だ。」と怒られる事がある。
だからか、私は電話が苦手である。
文章に書き綴る方がより楽かもしれない。
書く事も、とても大変だけれども時間をかけられるので、書き直しながら、
人に伝わる文章を書く努力を続けていきたいと切に思っている。
青木奈緖さんからひとこと
アマリリスの花は独特で存在感がありますから、このお父様が「嫌い」とおっしゃったのも漠然とわかるような気がします。けれど、その理由は今となっては不明で、タイトルにもなっているアマリリスの俳句の余韻と共に、このエッセーの世界観をつくっています。
家族だからお互い何でもわかっていると思いがちですが、この作品に書かれている通り、意外に語られないまま時が経ってしまうこともありますね。短く、きゅっとまとまった良い作品です。
ハルメクの通信制エッセー講座とは?
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回家族の思い出をエッセーに書き、講師で随筆家の青木奈緖さんから添削やアドバイスを受けます。書いていて疑問に思ったことやお便りを作品と一緒に送り、選ばれると、青木さんが動画で回答してくれるという仕掛け。講座の受講期間は半年間。
2022年9月からは第5期の講座を開講します(募集は終了しました)。
次回第6期の参加者の募集は、2023年1月を予定しています。詳しくは雑誌「ハルメク」2023年2月号の誌上とwebサイト「ハルメク365」内の『イベント予約』でご案内します。
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