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- 「主人が『気管切開』をした」大橋悦子さん
「家族」をテーマにしたエッセーの書き方を、エッセイストの青木奈緖さんに教わるハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から青木さんが選んだエッセーをご紹介します。大橋悦子さんの作品「主人が『気管切開』をした」と青木さんの講評です。
主人が「気管切開」をした
あれから5年が過ぎた。
主人が難病の診断を受けてからだ。
徐々に体が動かなくなってきて、食べることも難しくなり「胃ろう」も造設した。
ある日、主人を介護施設のディサービスに送り出し、私はほっと一息をついていた。
その日の午後一番に、施設から電話があった。
「熱があるので今から帰したい」とのことだった。
その頃、主人は頻繁に熱を出し肺炎になることがしばしばあった。
連絡を受けて、私は一瞬またかと思って薬の用意を始めた。
間もなくして、スタッフ2人に送っていただきベッドまで運んでもらった。氷枕と脇の下用の氷を冷凍庫から出してクーリングをしてもらった。実に手際のよい対応だった。
熱は39度を超えていた。
その後、訪問看護師さんに連絡し、すぐに来てもらい、訪問医の先生の指示を受けて、「入院」となった。
看護師さんが、救急車を呼んで下さり、かかりつけ医のいる病院へ行くことになった。
病院に着くと、担当の先生がすぐに診て下さった。救急隊員が前もって、病院側と連絡を取って下さっていたのだ。
以前から、担当の先生は、「いつでも受け入れるから連れて来なさい」とおっしゃっていたので、安心だった。
そして、診察後、「誤嚥性肺炎で気管切開をしないと助からない」というお話で、すぐに同意を求められた。
考える間もなく、私は同意しサインをした。
2、3ヶ月前から痰が多くなり、頻繁に吸引をしていたが、なかなか痰を取り切れず、肺の機能も限界だったのかもしれない。主人の顔は赤くほてり、とても苦しそうな表情をしていた。
一応処置をしていただき、少し落ち着いてからの手術となった。
2日後、手術は無事に済んだが、主人は「声」を失うことになった。
「胃ろう」の手術、今回の「気管切開」と体にいろいろな装置をつけていくことが、はたしていいのだろうか。
この先にあるのは「人工呼吸器」なのだろうし……。ふと私の頭に、迷いが浮かんだ。
「声」を失った主人は、55日間の入院生活を終えて退院した。
また、介護の日々が続くけれど、私は心を新たに先を見つめていた。
青木奈緖さんからひとこと
この方は講座の参加1回目から一貫して、難病に罹患なさった旦那様についてシリーズで書いていらっしゃいます。
病状の進行とそれに伴う生活の変化、そのたびごとに下さねばならない人生の決断、介護のあれこれを、たじろぐことなく覚悟を持ってお書きになっています。医療・介護の専門用語も出てきますが、適切に説明を加え、状況をとても巧みに伝えています。
誰にでも書ける作品ではありません。お気持ちが痛いほどわかります。
ハルメクの通信制エッセー講座とは?
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回家族の思い出をエッセーに書き、講師で随筆家の青木奈緖さんから添削やアドバイスを受けます。書いていて疑問に思ったことやお便りを作品と一緒に送り、選ばれると、青木さんが動画で回答してくれるという仕掛け。講座の受講期間は半年間。
2022年9月からは第5期の講座を開講します(募集は終了しました)。
次回第6期の参加者の募集は、2023年1月を予定しています。詳しくは雑誌「ハルメク」2023年2月号の誌上とハルメク365WEBサイトをご覧ください。
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