通信制 山本ふみこさんのエッセー講座第4期第3回

エッセー作品「メガネばあば」小田原薫さん

公開日:2022.07.07

随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から山本さんが選んだエッセーをご紹介します。今月の作品のテーマは「見落とす」です。小田原薫さんの作品「メガネばあば」と山本さんの講評です。

「メガネばあば」
エッセー作品「メガネばあば」小田原薫さん

メガネばあば

メガネが苦手だ。
レンズが曇るとよく見えないし、はずすと置いた場所を忘れて探し回る。
その上マスクをするから、顔中覆われている気がして息苦しい。
でも今はメガネなしの生活は考えられず、正真正銘の「メガネばあば」になった。

中一か中二だったか、席替えで後ろの席になったら、黒板に書いてある白いチョークの字が見えにくかった。
メガネかけなきゃ、と焦ったが両親に相談しなかった。
前の席に代わってもらったり、横の席の友達に、板書の文字を見せてもらったりして、メガネと縁のない学生生活を過ごしていた。

メガネをかけるのはかっこ悪くて嫌だ、というただそれだけの理由だった。
他人の目を意識する気持が大きくて、自分にとって何が一番大事なことかをじっくり考えることをしなかった。自分中心の考えを押し通し、はっきりとした自覚がないままに、年を重ねていった気がする。弱くて頼りない自分だった。

メガネをかけずに過ごしていた時期に、見落としたり、見過ごしたりして、気がつかなかったことがあったに違いない。

顔の形や雰囲気に似合うメガネを選んで、かっこいいでしょ、と「メガネ女子」の生活をしていたら、今とは違う暮らしぶりになっていたかもしれない。
でも七十路(ななそじ)になった「メガネばあば」の私には学びがある。

腰の手術をしてから、訪問リハビリに励んでいるが、外出するのに歩行器を使うのをためらっていた。
メガネと一緒の結果になっては大変と、玄関の扉を一気に開けると春風が優しく頬に当たった。

 

山本ふみこさんからひとこと

美しい原稿用紙に、風格のある万年筆の文字(愛らしさも感じさせるのです)。うっとりとして読みました。

内容も、同じ。物書きは、反省なんかしてはだめです。したければ、短く反省して「つぎ」にまいりましょう。

「メガネばあば」の結びをご覧くださいな。メガネと一緒の結果になっては大変と、玄関の扉を一気に開けると春風が優しく頬に当たった。 

 

通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは

全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。講座の受講期間は半年間。

現在、参加者を募集中です。申込締切は2022年7月4日(月)まで。詳しくは雑誌「ハルメク」7月号の誌上ハルメク旅と講座サイトをご覧ください。


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ハルメク旅と講座

ハルメクならではのオリジナルイベントを企画・運営している部署、文化事業課。スタッフが日々面白いイベント作りのために奔走しています。人気イベント「あなたと歌うコンサート」や「たてもの散歩」など、年に約200本のイベントを開催。皆さんと会ってお話できるのを楽しみにしています♪

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