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- エッセー作品「ネックレス」大嶋きこさん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から山本さんが選んだエッセーをご紹介します。今月の作品のテーマは「見落とす」です。大嶋きこさんの作品「ネックレス」と山本さんの講評です。
ネックレス
ずっとおばあちゃん子だった。
母が働いていたので、小学校に入学するまで父方の祖母宅で過ごすことが多く、初の内孫である私を祖母はとても可愛がってくれた。
祖母はクリスチャンで、祖母の母親から譲りうけた十字架のネックレスを肌身離さずつけていた。
お風呂に入る時もはずさなかったので、祖母がネックレスをつけていないのを見たことがなかった。
結婚前に母が祖母に初めて会った日も、祖母はつけていたという。
着物姿の胸元に金の十字架が光っていて、母は少なからず違和感を覚えたと言っていた。ちょっと変わったお姑さんなのかもしれないと思ったに違いない。
子供の頃、「おばあちゃんが死んじゃったらあのネックレスほしいな」と母に言ったら「あれはあなたが生まれるずっと前から先約があるからダメなのよ」と言われた。
祖母が亡くなるとその先約通り、20歳年上のいとこが持って行った。
祖母が亡くなってから20年たって父が亡くなった。
父の葬儀の後にいとこが私にネックレスを譲ってくれた。
「乳がんを手術して10年たって私は十分にこのネックレスに守ってもらったから、これからはあなたが守ってもらって」と。
父の跡を継いだ私への激励のプレゼントだった。
いとこは祖母が「どんな小さな形でもいいから家業を続けてほしい」といつも言っていたのを知っていたから。
ネックレスが私のもとに来て13年たったある日、いつもの場所に無いことに気づいた。
しょっちゅう身につけてはいたけれど、祖母と違って365日24時間つけていたわけではなかった。
家の中の心当たりのあるところは全部見たけど見つからない。
前日に行ったスーパーマーケットやショッピングモールの遺失物係に連絡したり、前日会った人に「私、昨日いつものネックレスをつけていたか覚えてる?」なんて聞いてみたりもした。
結局行方は分からずじまいだった。
しばらくして「いつもつけてるネックレス、最近つけてないね」と母に言われたので、正直に失くしたと伝えた。
すると失くしもののスペシャリストである母は
「落とすわけがない、家のどこかに必ずある、そのうち見つかる」
と断言したが、当の本人は代々受け継いでいる大切なものを失くした申し訳なさと悲しさにとらえられ、ふとした瞬間に思い出しては大きなため息をついていた。
数か月たったある日、いつものようにウオークインクローゼットで着替えてアクセサリーをつけようとした時、クローゼットの棚板のわずかな隙間にペンダントトップが挟まっているのを見つけた。
えっ、こんなに近くにあったのに見落としていたなんて……。
どうしてアクセサリーボックスのいつもの場所に置かなかったのだろう、後悔と反省の念にかられて本当に情けなく、失くしたことで家族にも心配をかけたことが恥ずかしかった。
でも何よりまた身につけることができることが有難くて、とにかくうれしかった。
家族も「見つかって本当によかったね」と言ってくれた。
改めてこのネックレスが私のものじゃなくてみんなのもので、私が代表してつけさせてもらっているのを実感した。
母が「しばらくぶりに見たら前より一層輝いて見えるわ」と言った。
山本ふみこさんからひとこと
このネックレス、「ロザリオ」?と思いましたが、調べたら、それはカトリックの呼び方だと、ありました。読んでゆくうち、この作品には「十字架のネックレス」というのがふさわしいな、と思いました(呼び名というのは、作品にっては重大な位置づけなのです)。
後半の「落とすわけがない、家のどこかに必ずある、そのうちみつかる」、結びの「しばらくぶりに見たら前より一層輝いて見えるわ」というお母さまの台詞、効いていますね。
おばあさまからお父さまに受け継がれ、きこさんに渡された「家業」について、ちょっと触れるとよいと思います。……知りたいです。
通信制 山本ふみこさんのエッセー講座とは
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回出されるテーマについて書き、講師で随筆家の山本ふみこさんから添削やアドバイスを受けられます。講座の受講期間は半年間。
現在、参加者を募集中です。申込締切は2022年7月4日(月)まで。詳しくは雑誌「ハルメク」7月号の誌上ハルメク旅と講座サイトをご覧ください。
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