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- エッセー作品「心の枷が解けるとき」塚原明子さん
「家族」をテーマにしたエッセーの書き方を、エッセイストの青木奈緖さんに教わるハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から青木さんが選んだエッセーをご紹介します。塚原明子さんの作品「心の枷が解けるとき」と青木さんの講評です。
心の枷が解けるとき
昨年の盆過ぎ、700キロ程離れた県に住む息子が新型コロナに感染した。
携帯電話に知らない番号からの着信があり、固定電話からだったので市外局番から調べたら息子の住む県だった。
折り返してみたらそこはなんと保健所なのだ。大学進学の時から一人暮らしを始めた息子は、就職してから2度転職し、数回、住居も変えている。
2度目の転職の時に大ゲンカをしてから用事がないと連絡は取り合わなくなった。
新型コロナの感染爆発がおこりテレビでは毎日、自宅療養者が入院出来なくて苦しむ姿をとりあげていた。
気になって「元気にしてる?」程度のメールをちょくちょく送ったがいっこうに返事が来ず、ラインじゃないから既読かどうかもわからない。
そんな、さなかの出来事だった。
電話口に出た女性は、かけてくれた人とは別の人だったので「先ほど電話をいただいたのですが」と言っても用件はわからない。
もの凄く忙しそうなのは、漏れ聞こえる背景音で伝わってきた。
負担をかけたくないとは思ったが「お忙しい時に本当に申し訳ありません。私は岐阜に住んでいます。息子はそちらで一人暮らしをしています。本人と連絡がつかないもので……」と、食い下がった。言いながら涙が出てきた。
「それはご心配でしょう……。わかりました。調べて私が必ず連絡さしあげますから待っていてもらえますか?」やわらかい声で言ってくださった。
待つ間、落ち着かずに小刻みに震えウロウロ歩きまわった。荷物を鞄に詰めすぐに出掛けられるよう準備をした。
2時間くらい経って女性は電話をくださった。
「息子さんは入院されています。病院の名前と電話番号を言いますね。」親切な県と職員さんだ。
すぐ病院に電話したが担当医じゃないと病状については語れないということで不安はマックスな状態。
暗くなりかけた頃、担当医から電話があった。
「肺炎をおこして入院しましたが命に別状はありません。既に快方に向かっています。」とのことだった。心から安堵した。
自宅療養からホテル療養にきりかわる頃に肺炎をおこして入院したらしい。
自宅には保健所から要請された医師が毎日2度、往診に来てくれたと、後から息子に聞いた。
本当に親切な県だ。病院に行っても会えないし、駆け付けるのは我慢した。
「退院したらこっちでしばらく療養したら?」と気持ちを込めてメールした。
2度目の転職で息子の方向性が間違ったほうに向かっているようで正そうとして色々言った事がきっかけの大ゲンカから3年。
生きていてくれさえすればいい。息子のする事を見守り、できるだけ応援してあげられる母親になろうと思えた。
考えを変えたら、私自身が反省すべき事に色々と気がついた。
青木奈緖さんからひとこと
私たちの生活が新型コロナウイルス感染症に脅かされるようになって2年以上が経ちます。
これまでも家族のエッセーの中で「友人知人に会えなくなった」とか「外出できない」ということを数行お書きになる方はいらっしゃいましたが、家族の感染をテーマに取り上げた作品はこれが初めてです。
現在進行形のタイムリーな出来事を作品に切り取るのは意外に難しいものです。個人的な事情もありながら、多くの人が「明日は我が身」と思って読める作品です。
ハルメクの通信制エッセー講座とは?
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回家族の思い出をエッセーに書き、講師で随筆家の青木奈緖さんから添削やアドバイスを受けます。書いていて疑問に思ったことやお便りを作品と一緒に送り、選ばれると、青木さんが動画で回答してくれるという仕掛け。講座の受講期間は半年間。
次回の参加者の募集は、2022年6月に雑誌「ハルメク」の誌上とハルメク旅と講座サイトで開始します。
募集開始のご案内は、ハルメクWEBメールマガジンでもお送りします。ご登録は、こちらから。
■エッセー作品一覧■
- 青木奈緖さんが選んだ3つのエッセー第3期#2
- 青木奈緖さんが選んだ4つのエッセー第3期#3
- 青木奈緖さんが選んだ4つのエッセー第3期#4
- エッセー作品「心の枷が解けるとき」塚原明子さん
- エッセー作品「奇妙なペット」古河順子さん
- エッセー作品「生かされて」星野玲子さん
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