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- エッセー作品「日曜日」石川久子さん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクのエッセー講座。2月に始まった教室コース 第7期の参加者の作品から、山本さんが選んだエッセーをご紹介します。テーマは「日曜日」。石川久子さんの作品「日曜日」と山本さんの講評です。
日曜日
年の瀬の寒い夜、そろそろ寝る支度をしようと思っていた時、メール着信の音。
こんな遅くに誰かと開けてみると、兄からのメールだった。
朝型の兄からこんな時間にと思って読むと「婆ちゃんが死んだ。晩飯を喜んで食った」
短いメール。
途端に心臓がドキドキして鳴りやまない。
98歳11か月、覚悟はできていたはずなのに狼狽える。
婆ちゃんではなく母だ。急いで病院に駆け付けた。
そこには冷たくなった母がいた。
母はクリスチャンであった。亡くなる5日前まで、毎週教会に行っていた。
5年程前から1人で行き帰りすることに不安を覚え、私達で、毎週日曜日付き添うことになった。
朝は兄が車で送っていき、教会のいつもの席に座らせる。
「帰りは久子(私である)が来るから終わってもまっているんだよ」とみんなに聞こえる程大きな声で話し、自分は帰る。
いつもの席で、いつもの友達と同じ席で、聖書を読む。
礼拝中は、大きな声で賛美歌を歌う。教会でも最高齢だった。
私は、祖父や、母の影響で洗礼を受け、結婚前は教会に毎週行っていた。
結婚し、少し遠くに住むようになり遠のいていた。
しかし週一の介護のおかげでまた、行くようになった。
礼拝が終わると、冷たい母の手を引いてトイレに行く。
寒い時も、暑い時も外に出てタクシーを拾う。参宮橋の近くのお気に入りのレストランに行くのだ。明治神宮の緑の多い地区にある隠れ家的なレストランがお気に入りだった。
普段ひとりで配食のお弁当を食べている母は、週に一度、私と食べるランチが楽しみだった。
春夏秋冬の変化にとんだ静かな庭は、気持ちも豊かにしてくれるのだ。
あれから3年、時々、日曜日になると行かなくちゃという幻想にとらわれていたが、そんな思いもだんだん少なくなってきた。
最後まで自宅で過ごし、あっという間にひとりで逝ってしまった母は幸せだったと思いたい。
山本ふみこさんからひとこと
お母さまの最晩年を描こうとして、これと決めて描かれたことに感心しました。お母さまを大切に思うあまり、人は、描き過ぎてしまいます。あれもこれも、と書くうちに、お母さまの存在も魅力も、薄れてゆきます。
お母さまに対する書き手の思いの書き方も見事です。
「あれから3年、ときどき、日曜日になると行かなくちゃ、という幻想にとらわれていたが、そんな思いもだんだん少なくなってきた。最後まで自宅で過ごし、あっという間にひとりで逝ってしまった母は幸せだったと思いたい」
山本ふみこさんのエッセー講座(教室コース)とは
随筆家の山本ふみこさんにエッセーの書き方を教わる人気の講座です。
参加者は半年間、月に一度、東京の会場に集い、仲間と共に学びます。月1本のペースで書いたエッセーに、山本さんから添削やアドバイスを受けられます。
次回の参加者の募集は、2022年6月に雑誌「ハルメク」の誌上とハルメク旅と講座サイトで開始します。募集開始のご案内は、ハルメクWEBメールマガジンでもお送りします。ご登録は、こちらから
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