- ハルメク365トップ
- 連載
- 編集部コラム
- ハルメクイベントエッセー講座作品集
- エッセー作品「家具のアサヒ」高木佳世子さん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクのエッセー講座。2月に始まった教室コース 第7期の参加者の作品から、山本さんが選んだエッセーをご紹介します。テーマは「日曜日」。高木佳世子さんの作品「家具のアサヒ」と山本さんの講評です。
「家具のアサヒ」
「どっか、つれてってぇ。」
朝から洗濯に精を出す母にまとわりついていた。
「どっかって、どこ?」と母が言う。
「う~んとな。百貨店。阪急の一番上の食堂で、お子さまランチが食べたい。」
「ええなぁ。どうかなぁ。ほかには?」
「千林!(せんばやし。大阪の商店街) ニチイ(スーパー)でなんか買(こ)うて、お好み焼食べよ。それか、大学いも買うて帰ろ。」
「それもええなぁ。どうやろうなぁ。洗濯物、ぎょうさんあるからなぁ。」
「手伝う! 手伝う!」
物干し場では、二層式洗濯機が、ごおーん、ぐおーんと回っている。
「洗濯機、止まったら云うてな。」と言いおいて、母は別の家事を片付けに行く。
――早く終わってぇ……と思いながら洗濯槽をのぞきこむ。
ぐるんぐるんと洋服たちがダンスをしている。動きが止まった。大きな声で
「止まったー!」と呼びかける。
「水、とめといてー。」母の声が届く。
「脱水の方にいれるよー。」
脱水機に洗濯物をうつしてスイッチをいれる。中でガタゴトぶつかりながら大きな音がする。
このままではこわれてしまう! と思う瞬間、ヒューン、ビューンという音にかわる。
ものすごい速さの回転だ。脱水が終わった。
ぺったんこになった洗濯物をパンパンとひろげていると、
「おわった? ありがとう。」と母がやってくる。
「縫い目のところをこうやってひっぱったらなぁ、しわがなくなってきれいにかわくんやで。そうそう。ピンとしてたら気持ちええやろ。」
物干しに家族の洋服がどんどんならんでいく。お日さまがまぶしい。
いつものセスナ機が飛んできた。
「家具のアサヒ、家具のアサヒ。」
飛行機の音と一緒にアナウンスが聞こえてくる。
「あの飛行機、どこから来んの?」
「八尾の飛行場かなぁ。」
「家具のアサヒってどこにあるのん?」
「さぁどこやろうなぁ。よっしゃ、おわり。」
――あ、大事な事を忘れている。
「どっか、いける?」
「ん~。おばあちゃんとこかな。」
第一希望でも第二希望でもないけれど、どこかにつれていってもらえる日曜日。
私の記憶の中のその日はいつも晴れていて空から、
「家具のアサヒ、家具のアサヒ。」の声がきこえていた。
山本ふみこさんからひとこと
素敵なお母さまですねえ。
人物像、モノの価値を表すとき、「すばらしい」「素敵です」という表現を重ねても、読者に伝わりません。人物の発した言葉、モノの佇まいをさりげなく描くことです。
「縫い目のところをこうやってひっぱったらなあ、しわがなくなってきれいにかわくんやで。ピンとしてたら気持ちええやろ」
これはお母さまの台詞。お母さまの魅力が読み手の心に沁みてきます。それに……、洗濯の極意もね。
「ちがうちがう、縫い目のところをこうやってひっぱらなくちゃ。そんなやり方じゃ、しわになるよ。せめてシャツくらいはピンとしなけりゃ」なんてやったら、洗濯に対する興味もやる気も失います。
山本ふみこさんのエッセー講座(教室コース)とは
随筆家の山本ふみこさんにエッセーの書き方を教わる人気の講座です。
参加者は半年間、月に一度、東京の会場に集い、仲間と共に学びます。月1本のペースで書いたエッセーに、山本さんから添削やアドバイスを受けられます。
次回の参加者の募集は、2022年6月に雑誌「ハルメク」の誌上とハルメク旅と講座サイトで開始します。募集開始のご案内は、ハルメクWEBメールマガジンでもお送りします。ご登録は、こちらから
-
子に遺すべき資産は?
「現金」か「不動産」か…どっちが得?メリット・デメリットは?相続や親族間のトラブルに悩まされないためにしておくべき準備とは -
突然の我慢できない尿意
実は多くのハルメク世代が悩んでいる「尿トラブル」…中には上手に対策をしている人も!気軽にできる対策って? -
個人情報管理できてる?
銀行口座・保険・クレジットカードなど、「デジタルの情報」をきちんと管理できていますか?煩雑にしていると思わぬ落とし穴が… -
お金の管理が簡単に!
三井住友銀行アプリに「シンプルモード」が新登場!スマホ操作が苦手な人でも簡単に使える便利機能が満載です! -
認知症セルフチェック
「もの忘れが増えた」「名前が思い出せない」という症状に心当たりがある方は要注意!それ、「認知機能のレベル低下」が原因かもしれません… -
健気な姿がかわいい!
「思わず笑顔になる」と巷で話題の「永遠の2歳児・ニコボ」!ハルメク世代の2人に、ニコボとの生活にハマる理由をお聞きしました! -
生前親に●●聞き忘れると
老親の契約や登録しているサービス、これらを子が把握していないと将来ムダな出費や面倒なトラブルに発展する可能性が!特に見落としがちなのは… -
50代~お金の増やし方
将来を見据えて、50代から「まとまった資金の調達」が重要になります。どんな選択肢があるか、ご存知ですか? -
60日で英語が話せる!
英語をマスターするのに「完璧」はいらない!初心者でも60日で英語が話せるようになる、驚きの3つのコツとは? -
今なら無料でお試し!
将来、自分の認知機能が低下するリスクがあるか、簡単に予測できるサービスが誕生。今なら無料で先行利用できます! -
おひとり様の備えはOK?
この先「おひとり様」になったら意外な落とし穴がいっぱい…。そんな不安に備える、おひとり様専用お助けサービスが誕生! -
50代から1日1分脳トレ
認知機能を衰えさせないためには、早い時期から「脳を活性化」させることが大切。脳トレ効果がグッとアップするコツって?