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- エッセー作品「家具のアサヒ」高木佳世子さん
随筆家の山本ふみこさんを講師に迎えて開催するハルメクのエッセー講座。2月に始まった教室コース 第7期の参加者の作品から、山本さんが選んだエッセーをご紹介します。テーマは「日曜日」。高木佳世子さんの作品「家具のアサヒ」と山本さんの講評です。
「家具のアサヒ」
「どっか、つれてってぇ。」
朝から洗濯に精を出す母にまとわりついていた。
「どっかって、どこ?」と母が言う。
「う~んとな。百貨店。阪急の一番上の食堂で、お子さまランチが食べたい。」
「ええなぁ。どうかなぁ。ほかには?」
「千林!(せんばやし。大阪の商店街) ニチイ(スーパー)でなんか買(こ)うて、お好み焼食べよ。それか、大学いも買うて帰ろ。」
「それもええなぁ。どうやろうなぁ。洗濯物、ぎょうさんあるからなぁ。」
「手伝う! 手伝う!」
物干し場では、二層式洗濯機が、ごおーん、ぐおーんと回っている。
「洗濯機、止まったら云うてな。」と言いおいて、母は別の家事を片付けに行く。
――早く終わってぇ……と思いながら洗濯槽をのぞきこむ。
ぐるんぐるんと洋服たちがダンスをしている。動きが止まった。大きな声で
「止まったー!」と呼びかける。
「水、とめといてー。」母の声が届く。
「脱水の方にいれるよー。」
脱水機に洗濯物をうつしてスイッチをいれる。中でガタゴトぶつかりながら大きな音がする。
このままではこわれてしまう! と思う瞬間、ヒューン、ビューンという音にかわる。
ものすごい速さの回転だ。脱水が終わった。
ぺったんこになった洗濯物をパンパンとひろげていると、
「おわった? ありがとう。」と母がやってくる。
「縫い目のところをこうやってひっぱったらなぁ、しわがなくなってきれいにかわくんやで。そうそう。ピンとしてたら気持ちええやろ。」
物干しに家族の洋服がどんどんならんでいく。お日さまがまぶしい。
いつものセスナ機が飛んできた。
「家具のアサヒ、家具のアサヒ。」
飛行機の音と一緒にアナウンスが聞こえてくる。
「あの飛行機、どこから来んの?」
「八尾の飛行場かなぁ。」
「家具のアサヒってどこにあるのん?」
「さぁどこやろうなぁ。よっしゃ、おわり。」
――あ、大事な事を忘れている。
「どっか、いける?」
「ん~。おばあちゃんとこかな。」
第一希望でも第二希望でもないけれど、どこかにつれていってもらえる日曜日。
私の記憶の中のその日はいつも晴れていて空から、
「家具のアサヒ、家具のアサヒ。」の声がきこえていた。
山本ふみこさんからひとこと
素敵なお母さまですねえ。
人物像、モノの価値を表すとき、「すばらしい」「素敵です」という表現を重ねても、読者に伝わりません。人物の発した言葉、モノの佇まいをさりげなく描くことです。
「縫い目のところをこうやってひっぱったらなあ、しわがなくなってきれいにかわくんやで。ピンとしてたら気持ちええやろ」
これはお母さまの台詞。お母さまの魅力が読み手の心に沁みてきます。それに……、洗濯の極意もね。
「ちがうちがう、縫い目のところをこうやってひっぱらなくちゃ。そんなやり方じゃ、しわになるよ。せめてシャツくらいはピンとしなけりゃ」なんてやったら、洗濯に対する興味もやる気も失います。
山本ふみこさんのエッセー講座(教室コース)とは
随筆家の山本ふみこさんにエッセーの書き方を教わる人気の講座です。
参加者は半年間、月に一度、東京の会場に集い、仲間と共に学びます。月1本のペースで書いたエッセーに、山本さんから添削やアドバイスを受けられます。
次回の参加者の募集は、2022年6月に雑誌「ハルメク」の誌上とハルメク旅と講座サイトで開始します。募集開始のご案内は、ハルメクWEBメールマガジンでもお送りします。ご登録は、こちらから
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