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- エッセー作品「短歌に寄せ」西山聖子さん
「家族」をテーマにしたエッセーの書き方を、エッセイストの青木奈緖さんに教わるハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から青木さんが選んだエッセーをご紹介します。西山聖子さんの作品「短歌に寄せ」と青木さんの講評です。
短歌に寄せ
彼女が家へ来て2年目の冬。私は、初めて新聞の歌壇欄に短歌を投句した。
擦り寄って体丸めて寝る犬の
温もりにふと冬を感じる
仔犬の頃は、ソファに座る私の膝の上で、小さな体を丸めすっぽり寝ていたが、成長し体が大きくなると、私の横にぴったり寄り添って寝るようになり、その光景を短歌に詠んでみた。
自分の書いた句が、活字になった時の喜びを、彼女のお陰で味わわせてもらい、その後、何回か、入選した。
我が夫(つま)と同じ姿で寝る犬を
眺めつ本を読んでゐる夏
ある夏の休日、読書している私の横で、いつの間にか昼寝をしていた夫(おっと)と、暑さのためか仰向きでお腹を見せ、まったく同じような恰好で寝ている姿がおかしくて、思わず短歌にしてみた。
夫婦2人だけの生活に、彼女の存在は日に日に大きくなって、その全てが、いとしかった。
仔犬の時、ダンボール箱に入れられ、スーパーの駐車場に捨てられていた彼女は、テリア系の雑種で、シルバーグレーと黒茶の混ざった毛色。
散歩していると「何という犬種ですか?」と度々、聞かれる位、綺麗な毛色だった。
ただ、先天的に心臓に問題があり、月に1回は呼吸困難の発作が起きたりしていた。心配な面も多かったが、散歩も車に乗るのも大好きで、沢山の楽しい思い出を作ってくれた。
頭も良く、基本的なお座りなどの他、いくつもの言葉を覚えてくれたし、パトカーのサイレンに反応して遠吠えしたり、骨型のガムをソファの隙間に埋めて隠す仕草が面白くて笑わせてくれた。
そんな楽しかった日々も、5年前、彼女が13才になる直前で終わってしまった。
私は案の定、ペットロスとなり、数ヶ月は立ち直ることが出来なかった。
老犬の旅だったあと一人座し
ソファの広さに涙零れる
今まで、当たり前にいつも横に居た彼女のスペースが、1人で座った時、こんなにも広いソファだったのかと、しみじみと感じた夜。
短歌を書くことで、少し冷静になり、悲しみも多少、癒されたように思う。
多くの飼い主は、ペットに対し、亡くなった時、何かしらの後悔の念を持つのではないだろうか。
けれど最近、いつまでも悲しみや後悔を引きずるより、生前いつも伝えていた言葉を送り、感謝することが一番だと気付いた。
「うちに来てくれて、本当にありがとう。ココ。」
青木奈緖さんからひとこと
ところどこに短歌を挟むことによって、散文だけでは表現できない奥行き、豊かな情感が広がります。
冒頭、読者の心に「彼女って誰?」という疑問が湧くのも承知の上で、意図的に「彼女」を使うところもうまいです。
この作品の最後も、加藤菜穂子様の「いつの間にか親ばなれ」と同様、最後がペットの犬への「語りかけ」で終わっています。
この終わり方も良いのですが、ココを失くして5年経った思いを短歌で表現してくださったら……と思うのは、ないものねだりでしょうか。
ハルメクの通信制エッセー講座とは?
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回家族の思い出をエッセーに書き、講師で随筆家の青木奈緖さんから添削やアドバイスを受けます。書いていて疑問に思ったことやお便りを作品と一緒に送り、選ばれると、青木さんが動画で回答してくれるという仕掛け。講座の受講期間は半年間。
現在第3期の講座開講中です。次回第4期の参加者の募集は、2022年1月に雑誌「ハルメク」の誌上とハルメク旅と講座サイトで開始します。募集開始のご案内は、ハルメクWEBメールマガジンでもお送りします。ご登録は、こちらから
■エッセー作品一覧■
- 青木奈緖さんが選んだ3つのエッセー第2期#3
- 青木奈緖さんが選んだ3つのエッセー第2期#4
- 青木奈緖さんが選んだ3つのエッセー第2期#5
- エッセー作品「虹色の糸」岡島みさこさん
- エッセー作品「いつの間にか親ばなれ」加藤菜穂子さん
- エッセー作品「短歌に寄せ」西山聖子さん
- 「独立国家の子どもたち」古河順子さん
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