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- エッセー作品「いつの間にか親ばなれ」加藤菜穂子さん
「家族」をテーマにしたエッセーの書き方を、エッセイストの青木奈緖さんに教わるハルメクの通信制エッセー講座。参加者の作品から青木さんが選んだエッセーをご紹介します。加藤菜穂子さんの作品「いつの間にか親ばなれ」と青木さんの講評です。
いつの間にか親ばなれ
うら若い乙女が、まじめな青年とお見合いして土建屋に嫁いできたのは23歳の時、ついこの間のようだ。すぐに子供3人に恵まれ、今は孫も3人いる。私は、もう62歳。
4歳と2歳の内孫は男の子で、「ばぁば、来たよー!」とけたたましく暴れまわる。今年生まれた外孫も男の子で、お相撲さんのようにまるまると成長している。そして、ちょっとぶさいくなオス犬もいるが、これまた可愛い。
盆正月に全員集合して、ご先祖様の仏壇に手を合わせる親族会は、年々にぎやかになっていく。
私は、父母と祖父母と叔父叔母も同居する田舎の大家族で生まれ育った。
その頃の母は、朝早くから夜遅くまで家事と農業に励み、ゆっくり休む暇がなかったと思う。
もちろん他の家族も、みんなが働き者だった。
100歳になった祖父が、思うように動けなくなったとき、「情けない。」と悲観していたが、そこまで働いていた事にびっくりする。動けなくなるまで働くのが当たり前、そういう家だった。
そんな家に21歳で嫁いできた母は、気立てが良くて、一家の太陽だった。私も母が大好きで、母の顔を見ると安心した。
2人兄妹の兄の陰で目立たなかった私が、少しずつ頑張ったのは、母に認めてもらいたかったからだと思う。
消極的な私が生徒会役員になったとき、勉強して進学校に進んだとき、母に一番褒めてもらいたかったのかもしれない。
しかし、私が幼い頃からずっと追い求めていた母は、常に兄を見ていた。
多感な年頃になると、私は家の暮らしが少し息苦しくなった。
決して、母が私をないがしろにしていたという事はなく、父や祖父も私を可愛がってくれていたのに。
そんな私も嫁いで40年が経った。悲喜こもごも経験しながら築き上げた、ここが私の居場所。
今日も、お父さんと子供たち孫たちの声が聞こえる。みんなで、体調のすぐれないお父さんを心配したり、孫たちや犬の可愛い表情をスマホのLINEで共有したり。
つまらないことで意地を張るときもあるが、常に気にかけ、嬉しいことを素直に報告できる家族である。
還暦を過ぎて、当たり前の日常が最高に幸せなことだとつくづく実感できる今、大好きな実家の母に心からエールを送る。
今年86歳になる母は、少し背骨が曲がって小さくなったけれど、毎日、田畑仕事に精を出して、それが生きがいだと嬉しそうに笑う。
同居する息子夫婦と孫夫婦に囲まれて、母は幸せな老後の人生を謳歌している。
「元気に暮らしているあなたの存在が、私の励みになります。お兄ちゃんに大事にしてもらって長生きしてください。」
青木奈緖さんからひとこと
お母様への思いがこもった作品です。
子どもの頃、母親に認めてもらいたかったという承認欲求を描いていますが、著者が自身の子ども時代を回想するまなざしは穏やかで、程よい距離感があります。結婚40年の今の暮らしが充実して、幸せを実感していらっしゃるからでしょう。
「当たり前の日常が最高に幸せなことだとつくづく実感できる今」という表現の背景にはコロナ禍への思いが感じられます。直接「コロナ」と書かずに読者に想像させる、うまい書き方です。
作品最後のお母様へのカギ括弧での「語りかけ」は、「家族のエッセー」ではとても多く見られる終わり方です。
こうした終わり方も親しみがこもって良いのですが、ここまで著者との対話を重ねながら読んできた読者は、著者が急に(読者ではなく)母親の方へ向いてしまったようで、若干、寂しい気分を味わいます。こうした長所・短所を考えて使いましょう。
ハルメクの通信制エッセー講座とは?
全国どこでも、自宅でエッセーの書き方を学べる通信制エッセー講座。参加者は毎月1回家族の思い出をエッセーに書き、講師で随筆家の青木奈緖さんから添削やアドバイスを受けます。書いていて疑問に思ったことやお便りを作品と一緒に送り、選ばれると、青木さんが動画で回答してくれるという仕掛け。講座の受講期間は半年間。
現在第3期の講座開講中です。次回第4期の参加者の募集は、2022年1月に雑誌「ハルメク」の誌上とハルメク旅と講座サイトで開始します。募集開始のご案内は、ハルメクWEBメールマガジンでもお送りします。ご登録は、こちらから
■エッセー作品一覧■
- 青木奈緖さんが選んだ3つのエッセー第2期#3
- 青木奈緖さんが選んだ3つのエッセー第2期#4
- 青木奈緖さんが選んだ3つのエッセー第2期#5
- エッセー作品「虹色の糸」岡島みさこさん
- エッセー作品「いつの間にか親ばなれ」加藤菜穂子さん
- エッセー作品「短歌に寄せ」西山聖子さん
- 「独立国家の子どもたち」古河順子さん
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